藤原聡のミックスの凄さは、単に高い音が出ることではありません。
地声感をなるべく失わずに高音へつなぎ、必要なところだけファルセットに切り替え、しかも言葉とリズムを崩さないことにあります。
本人も口角を上げた時とそうでない時で声のトーンが大きく変わると話しており、ボイトレ企画でもチェストボイスやファルセット、表情筋や呼吸がテーマになっていました。
だから藤原の高音は、才能だけで飛び越えている声というより、感覚と技術の両方で作られた声として聴くと一気に面白くなります。
ここでいう「ミックスの凄さ」は、いちばん高い音だけではなく、地声と裏声の境目をどれだけ自然に処理し、感情のピークまでどれだけ滑らかに運べるかで見ています。
その視点で聴くと、特に凄さが分かりやすいのが次の7曲です。
1.Pretender
まず外せないのは「Pretender」です。
この曲の凄さは、サビで感情が一気にせり上がっても、声がただ細くなるのではなく、芯を保ったまま切なさを押し通してくるところにあります。
Real Soundのインタビューでも、ヒゲダンは「中毒性の高いファンク寄りのピアノポップ」と「藤原聡の稀有なボーカル力」で急成長したバンドとして紹介されていて、「Pretender」はまさにその代表格です。
高音を見せ場として投げるのではなく、失恋の痛みそのものを支えるために使っているから、この曲のミックスは強いのです。
2.I LOVE…
「I LOVE…」は、藤原のミックスが「一発の高音」ではなく、「曲全体の張力」を支えるタイプだと分かる曲です。
Real Soundのレビューでも、冒頭のスタッターに驚かされつつ、ゆったりしたテンポなのにビートが強調されてダンサブルで、身体でリズムを取りたくなるグルーヴ感があると書かれています。
さらにこの曲は、典型的な分かりやすいサビの押し切りではなく、進みそうで進まない独特の構成でカタルシスを作っています。
だから藤原のミックスも、ただ上に抜くだけではなく、じわじわ熱を溜めながら中高音域で緊張感を保つ役割を担っていて、聴けば聴くほど上手さが見えてきます。
3.HELLO
ミックスの教科書としてかなり分かりやすいのが「HELLO」です。
Real Soundはこの曲について、藤原の「高音を気持ち良く歌い上げる伸びやかな地声」と「要所で繰り出されるファルセット」の使い分けが見事だと書いています。
これはまさに、藤原のミックスが「全部を同じ声色で押す」のではなく、地声寄りの強い帯域と、抜くべきところのファルセットをきちんと分けている証拠です。
藤原の高音が気持ちよく聴こえる理由を知りたいなら、まずこの曲を聴くのが早いです。
4.Cry Baby
「Cry Baby」は、藤原のミックスがどれだけ高負荷な条件でも崩れにくいかが分かる曲です。
Real Soundの記事では、この曲には10回近くの転調が含まれ、藤原自身も「鬼のように転調してやろう!」と語っていたと紹介されています。
しかもパートごとに雰囲気が大きく変わり、通して聴くと一曲の中に起承転結があるような作りになっています。
こういう曲でボーカルが成立するのは、単に声が高いからではありません。
キーが動いても、地声感の強い高音とミックスのつなぎを毎回ちゃんと再設定できるからで、その敏捷性まで含めて藤原の技術はかなり異常です。
5.Subtitle
「Subtitle」は、藤原のミックスの中でも、とくに「温度差のコントロール」が見える曲です。
この曲は2022年秋ドラマ『silent』の主題歌として大きな反響を呼び、放送終了後も長く親しまれる曲としてReal Soundで言及されました。
この曲のすごいところは、息を多めに含んだ繊細なニュアンスから、感情が一気に開くサビまでを、不自然な段差なくつないでしまうことです。
派手なロック曲ではないぶん、ごまかしが利きにくいのに、藤原はそこでミックスの滑らかさそのものを武器にしています。
6.宿命
「宿命」は、藤原のミックスが「熱さ」に振れた時の強さが分かる曲です。
Real Soundはこの曲について、大きなメロディの上昇と下降が藤原の歌声の個性と表現力によってとてもエモーショナルになり、やわらかな表現から高揚感を煽る力強いロングトーンまでバリエーションが豊かだと評しています。
つまりこの曲では、優しく入ってサビでいきなり押し込むのではなく、感情の上昇と一緒に声の圧も上がっていくのです。
その流れが自然に聴こえるのは、藤原のミックスが単なる「つなぎ」ではなく、感情の増幅装置になっているからです。
7.115万キロのフィルム
最後に入れたいのが「115万キロのフィルム」です。
この曲は2018年のアルバム『エスカパレード』収録曲で、その後もライブや映像作品で重要曲として扱われてきました。
Real Soundは、ピアノ弾き語りから始まる演奏が藤原の高い歌唱力と美しい声質を際立たせ、さらに発音がはっきりしていて丁寧だから、物語形式の歌詞がすっと入ってくると書いています。
この曲は最高音を競うタイプの曲ではありません。
でも、ミックスの本当の凄さはこういう曲でこそ出ます。
中高音域を長く保ちながら、言葉を潰さず、語りかけるような柔らかさから感情の高まりまで同じ一本の声で運んでいけるからです。
まとめ
藤原聡のミックスの凄さは、「高い音が出る」ことだけでは説明できません。
地声感の強いまま高音へ抜ける力。
ファルセットへ逃がす判断のうまさ。
リズムを失わないままフレーズを前に運ぶ力。
そして何より、技術を技術として見せつけるのではなく、曲の感情そのものとして聴かせてしまう力です。
だから藤原のミックスは、ボイトレ的に見ても面白いのですが、最終的には「上手い」より先に「気持ちいい」と感じさせるのだと思います。
その意味で、今回挙げた7曲は、藤原聡のミックスが単なる発声技術ではなく、表現そのものになっていることがよく分かる曲たちです。


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