HYDEの高音の魅力は、単に「高い声が出る」の一言では終わりません。
湿度のある高音。切り裂くような高音。儚く抜ける高音。ロックの熱量ごと押し上げる高音。HYDEのハイトーンは、時代ごとに質感がかなり違います。
しかもHYDE本人は、歌唱法について「毎回、試行錯誤している」と語っていて、2015年には「もっと声の歪みを安定させたい」と話しています。さらに2021年には、L’Arc〜en〜Cielの楽曲を歌うとき、気を抜くと昔の歌い方に戻ってしまうことがあるとも明かしていました。つまりHYDEの歌声は、最初から完成されていたのではなく、長い時間をかけて少しずつ更新されてきたものなのです。
だからこそ、HYDEのハイトーンを味わうなら「一番高い曲はどれか」だけで選ぶのはもったいない。
大事なのは、どんな質の高音を、どんな時代に、どんな楽曲の中で鳴らしていたかです。
今回は、その変化が見えるように7曲を選びました。
ランキングではありません。
あくまで、HYDEのハイトーンボイスを立体的に味わえる7曲です。
flower
まず最初に挙げたいのは、「flower」です。
1996年10月17日リリースのシングルで、初期L’Arc〜en〜Cielを代表する1曲のひとつです。
この曲のハイトーンは、後年のようにパワフルに押し切るタイプではありません。
魅力はむしろ、高音に湿度があることです。声を鋭く前へ飛ばすというより、言葉の余韻ごと空気の中に溶かしていく。高いのに、どこか翳りがある。明るく咲く曲なのに、完全には晴れきらない。その半分影を引きずったような高音が、とにかくHYDEらしい。
この時期のHYDEの高音は、今ほど整理された安定感があるわけではありません。
でも、その代わりに、危うさと色気が同時に鳴っている。いわば「完成された技術」ではなく、「崩れそうで崩れない美しさ」があるんです。HYDEの高音の原点を知るなら、まずこの曲は外せません。
HONEY
次は「HONEY」です。
1998年7月8日にリリースされたシングルで、L’Arc〜en〜Ciel最大級の代表曲のひとつです。
「flower」が湿度のある高音なら、「HONEY」は一気に抜ける高音です。
この曲のすごさは、サビに入った瞬間の解放感にあります。それまでのメロディで溜めたものを、HYDEの声が一気に空へ放り投げる。初期HYDEというと、ねっとりした歌い回しや妖艶さが先に語られがちですが、「HONEY」を聴くと、それだけではないことがよくわかります。
HYDEは最初から、ちゃんとポップスのサビを成立させる高音を持っていました。
しかもこの曲の高音は、ただ明るくて派手なだけではありません。突き抜けるのに、どこか影がある。J-POP的な爽快感と、ラルク特有の退廃感が同じ高音の中に同居している。そこが「HONEY」の異常さです。
ライブで聴くとさらにわかりますが、この曲では高音が「届く」だけではなく、楽曲そのものの推進力になっています。HYDEのハイトーンが、曲の装飾ではなく、中心のエンジンとして機能している代表例です。
NEO UNIVERSE
「NEO UNIVERSE / finale」は、2000年1月19日リリースの両A面シングルです。
公式ディスコグラフィーでも、L’Arc〜en〜Cielの持ち味である“POPとDARK”の両方が楽しめるシングルと説明されています。
この曲で聴けるHYDEの高音は、「HONEY」ともまた違います。
もっと無重力で、浮遊感が強いんです。高音に到達するというより、高音へすっと移行して、そのまま空中に滞在している感じがある。しかも線が細すぎず、ちゃんとポップスとして大衆性もある。ここがものすごい。
「NEO UNIVERSE」のHYDEは、熱さや色気だけでなく、未来感のある高音を鳴らしています。
キラキラしているのに軽薄ではなく、浮遊しているのに冷たくない。多くの男性ボーカルは高音になると「張る」「押す」「叫ぶ」の方向へ行きがちですが、HYDEはこの曲で、高音を軽やかに飛ばすという別のやり方を成立させています。
HYDEのハイトーンにある“透明感”や“空に消えていくような感じ”が好きなら、この曲はかなり重要です。
高音の高さそのもの以上に、高音の質感の美しさがよく出ています。
瞳の住人
「瞳の住人」は2004年3月3日リリースのシングルで、再始動後のL’Arc〜en〜Cielを象徴する1曲です。
HYDEのハイトーンを語るとき、この曲を外すのはかなり難しいです。
なぜならこの曲は、HYDEの高音の美しさだけでなく、高音を維持する難しさそのものを象徴しているからです。
この曲に必要なのは、単に高い声ではありません。
繊細さ、透明感、ロングトーンの持続力、感情のコントロール、そして破綻しない呼吸。全部必要です。しかも曲全体が静かに積み上がっていく構造だから、ごまかしが効きにくい。高音に到達する瞬間だけでなく、そこに滞在している間の説得力が問われる。
つまり「瞳の住人」は、HYDEのハイトーンが筋力勝負ではないことを教えてくれる曲です。
本当に難しいのは、高い音を一瞬出すことではなく、高い場所に感情を乗せたまま居続けることなんですよね。この曲をしっかり歌えているHYDEを聴くと、ただ「高音が出る人」という評価では全然足りないと感じます。
SEASON’S CALL
「SEASON’S CALL」はHYDE名義のシングルで、2006年2月22日にリリースされました。
HYDE公式サイトでも、TBS系アニメ『BLOOD+』オープニングテーマとして掲載されています。
この曲の面白さは、ラルクの高音とは少し違うことです。
ラルクのHYDEは、どうしてもバンドの世界観を強く背負っています。対してソロのHYDEは、そこから少し自由になる。「SEASON’S CALL」で聴ける高音は、ラルク的な叙情を残しつつ、もっとロックの前進力が強いんです。
サビの伸び方も、夢見心地で漂うというより、もう少し地面を蹴って上に行く感じがあります。
ここでHYDEは、ハイトーンに攻めのニュアンスを加えています。しかも単に激しいだけではなく、ちゃんとメロディが気持ちいい。だからこの曲を聴くと、HYDEの高音は「繊細な曲でだけ映える声」ではないとわかる。ロックの勢いの中でも美しさを保てる高音なのです。
ソロ以降のHYDEが、ラウドな方向へ進みながらもメロディアスさを失わなかった理由も、この曲を聴くとよくわかります。
後のVAMPSや再始動後のソロへの入り口としても、かなり重要な1曲です。
GOOD LUCK MY WAY
「GOOD LUCK MY WAY」は2011年6月29日リリースのシングルで、L’Arc〜en〜Ciel結成20周年第1弾シングルでした。
この曲で感じるのは、HYDEの高音がかなり整理された強さに到達していることです。
昔のHYDEの高音には、魅力と同時に危うさもありました。それが良さでもあった。でも2010年代に入ってからのHYDEを聴くと、「ギリギリで届く高音」から「自然に開く高音」へ変わっているのを感じる瞬間があります。
「GOOD LUCK MY WAY」は、その変化がとてもわかりやすい。
声が軽くなったわけではありません。芯はちゃんとある。でも上へ上がっていくときの詰まり方が少なく、ルートが滑らかなんです。高音に行くこと自体が目的ではなく、高音へ行く過程まで含めて歌として整理されている感じがある。
しかもこの曲は、明るさが前に出た楽曲だからこそ、高音の気持ちよさがよく見えます。
暗い曲や妖しい曲だとどうしても世界観に耳が引っ張られますが、この曲は高音そのものの解放感が前に出る。だから「近年のHYDEの高音の気持ちよさ」を知る入口として、とても優秀です。
MAD QUALIA
最後は「MAD QUALIA」です。
HYDE公式サイトとユニバーサルのニュースによると、2019年3月20日発売のシングルで、『デビル メイ クライ 5』のイメージソングとして発表されました。
この曲の高音は、もはや昔のラルク期のそれとはかなり別物です。
美しく抜けるだけではなく、鋭く、攻撃的で、武器として使われる高音になっている。近年のHYDEの高音を象徴するなら、この曲はかなり強い候補だと思います。
「MAD QUALIA」の高音には、昔の耽美な浮遊感よりも、現代ラウドロック的な瞬発力があります。
高音を“鳴らす”というより、高音を“叩き込む”感じに近い。でも不思議なのは、それでもHYDEらしい色気が消えないことです。攻撃性が増しても、ただの硬い声にならない。そこがHYDEの異常なところだと思います。
2018年以降のソロ再始動で、HYDEは現代的なラウドサウンドへ大きく踏み込みました。
その流れの中でこの曲を聴くと、高音の役割そのものが変わってきたことがわかります。昔は“夢や耽美を見せるための高音”だったものが、近年では“楽曲の衝撃や推進力を作るための高音”としても機能している。HYDEのハイトーンの進化を考えるうえで、「MAD QUALIA」はかなり重要です。
HYDEのハイトーンは、一種類ではない
ここまで7曲を挙げてきました。
でも改めて思うのは、HYDEのハイトーンは本当に一種類ではないということです。
「flower」の湿度。
「HONEY」の解放感。
「NEO UNIVERSE」の浮遊感。
「瞳の住人」の極限的な繊細さ。
「SEASON’S CALL」のロックな推進力。
「GOOD LUCK MY WAY」の整理された開放感。
「MAD QUALIA」の攻撃性。
この全部が、同じHYDEの声の中にあります。
しかもそれは、天性の一言で済ませられるものではない。HYDEは長年にわたって歌唱法を試行錯誤し、ラルクの歌では昔の癖に引っ張られながらも、少しずつ自分の声を更新してきました。だからHYDEの高音は、単に「衰えずに続いている」のではなく、変化しながら進化してきた高音なんです。
もしHYDEのハイトーンを聴き比べるなら、この7曲はかなりいい入口になると思います。
できれば古い曲から順に聴いてみてほしいです。そうすると、HYDEの高音がただ高いだけではなく、その時代ごとの美意識や身体感覚まで含めて変わってきたことが見えてきます。
その変化まで含めて、やはりHYDEのハイトーンは唯一無二です。

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