Charaは、若い頃の自分の歌い方について、喉を締めてかわいらしい声を出していたと振り返っています。
そして、2017年には、その歌い方をやめたと話していました。
「やさしい気持ち」などで知られた声は、多くの人にとってCharaそのものだったはずです。
その本人が、なぜ歌い方を変えようとしたのでしょうか。
昔の声を再現することと、今の自分が自由に歌えることが、同じではなくなっていたからです。
Charaの歩みを追うと、変わったのは声の出し方だけではありません。
歌詞をどれくらいはっきり伝えたいか、昔の曲をどんな気持ちで歌うかにも、変化がありました。
1990年代――曲に合う声を探して、Charaらしくなった
1991年、Charaは「Heaven」でデビューします。
初めから、自分は歌手としてやっていけると確信していたわけではありません。
バンドではキーボードを担当し、歌うことを勧められても断っていた時期がありました。
ところが、自分で作ったメロディーを、自分の声で形にするうちに、歌い方に個性が生まれていきます。
本人も、最初の二枚のアルバムの頃から今と同じ癖があったのではなく、活動を続ける中で、癖が自分らしさになっていったと振り返っています。
1996年には、映画『スワロウテイル』の中のバンド、YEN TOWN BANDの「Swallowtail Butterfly〜あいのうた〜」が大きなヒットに。
翌1997年には、「やさしい気持ち」やアルバム『Junior Sweet』が広く聴かれました。
作った曲をどう歌うか探してきた声が、今度は、聴き手にとって忘れられない声になっていきます。
その時期の「やさしい気持ち」を歌っているのが、ライブ作品『1997.11.1 CHARA』です。
のちに歌い方を変えた本人の話を読むときも、この頃の歌を出発点にすると、何を残し、何を変えようとしていたのかを考えやすくなります。
2016〜2017年――昔の声を再現する窮屈さ
デビュー25周年の2016年、Charaは、一曲の中でも、ささやく声から中間の声、さらに地声へと切り替えていると説明していました。
最近は中間の声を中心に使うようになったという話も、この時期に出ています。
翌2017年の話では、変えた理由がもっとはっきりします。
昔のかわいらしい声を出そうとすると、本人には、歌の勢いが失われ、自由に動けなくなるような感覚があったのです。
それを「細いホースで歌う感じ」と表していました。
かつての声に合わせようとすると、今の自分が歌の中で出したい勢いや表情まで、狭めてしまう。
本人の言葉からは、そうした歌いづらさが伝わってきます。
一方で、昔の歌い方を好きでいてくれる人のことも分かっていました。
そのため、急に別人のような歌にするのではなく、自然に変えていこうとしていたそうです。
長く歌い続けるために、自分が歌いやすい声を探す。
有名になったときの声をずっと守ることだけが、Charaの選択ではありませんでした。
同じ頃、原曲のキーを大切にしたいとも話しています。
音の高さを守ることと、声の出し方を変えることは、別々に考えられていたのです。
高い音が出るかどうかだけでは、この変化は捉えきれません。
2017年――歌詞に合わせて、曲を作ってもらう
声の使い方と並んで変わってきたのが、言葉への向き合い方です。
以前のCharaは、書いた歌詞がメロディーにうまく収まらなければ、言葉の意味よりも響きを優先することがありました。
何を言っているか全部は分からなくても、音として魅力的ならよい。
その曖昧さも、歌の個性になっていました。
ところが2017年のアルバム『Sympathy』では、言葉をそのまま伝えたいという選択が出てきます。
分かりやすい例が「Tiny Dancer」です。
Charaは先に歌詞を書き、自分で曲も付けました。
ただ、そのメロディーで歌うためには、歌詞の一部を変えなければならなかった。
そこで今回は、歌詞を直して収める道を選ばず、くるりの岸田繁に作曲を頼みました。
自分が作ったメロディーは聴かせず、この歌詞に曲を付けてほしいと渡したのです。
言葉を曲に合わせていた人が、言葉を残すために、曲を別の人に託す。
制作の順序が変わったことに、何を大切にしたいかの変化も表れています。
歌を聴いた人に、以前より素直に言葉を届けようとしていた時期でした。
声を使い分ける考え方や、実際に歌ってから言葉を整える作り方については、Charaの歌い方でも触れています。
2022年――「やさしい気持ち」をオーケストラと歌う
1997年のライブから25年後。
Charaは2022年の『Chara’s Time Machine』で、オーケストラとともに「やさしい気持ち」を歌いました。
バンドと歌った1997年の映像に対して、こちらは、弦楽器などを含む大きな編成での公演です。
ただ、楽器の人数が増えたからといって、全部の楽器を鳴らして、歌も大きくすればよいと考えていたわけではありません。
公演前のCharaは、演奏の中に、楽器を鳴らさない隙間も作りたいと話していました。
普段の「やさしい気持ち」でも、ベースが加わる場面を限っていると説明しています。
曲を豪華に飾るだけでなく、声と楽器をどう組み合わせるかを考える。
そのため、二つの映像では、声の年代差と一緒に、歌を囲む音楽の違いも楽しめます。
声の太さだけを比べるより、同じ旋律を、違う演奏の中でどう歌うのかまで聴くと面白い組み合わせです。
この公演では、かつて難しくてライブではもう歌えないと思っていた「花の夢」にも挑みました。
昔の歌い方を変えたことは、昔の曲を諦めることにはつながっていません。
むしろ、新しい編成をきっかけに、久しぶりの曲へ戻っていく動きもあったのです。
変わる声で、昔の曲を歌い続ける

2025年の『Lush Life』のライブでも、Charaは「ミルク」や「Swallowtail Butterfly〜あいのうた〜」などを歌い続けています。
「ミルク」はギターとささやく声から始まり、その公演のバンドに合わせたアレンジで演奏されました。
声の出し方を変えたあとも、ささやく歌い方そのものを手放したわけではありません。
かつてCharaは、昔の恋愛の曲を歌うときも、当時と同じ相手を思って歌っているわけではないと話していました。
曲を作った頃の気持ちは録音に残る。
けれど、ライブで歌う自分も、その曲を聴きに来る人も、その後の時間を過ごしています。
昔の曲は、その人たちが今、聴ける歌として演奏されるのです。
Charaの歌声の変遷で面白いのは、以前のかわいらしい声に戻れるかどうかだけを目標にしなかったところです。
今の体で歌いやすい声を探し、言葉の伝え方を変え、そのとき一緒に演奏する人とアレンジを考えていく。
その過程にも、Charaらしさがあります。
1997年の「やさしい気持ち」に惹かれた人なら、まずその頃の歌を楽しめばよい。
そして2022年の歌に進めば、同じ曲を長く歌ってきた本人が、今度はどんな演奏と歌いたくなったのかも見えてきます。
昔の録音を好きなままで、その後のCharaも聴いてみたくなる歩みです。






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