チェンの歌声の変遷|高音を担う声から、自分の物語を歌う声へ

2019年の初ソロ作取材に掲載されたチェン シンガー
2019年の初ソロ作取材に掲載されたチェン

高音を任されてきた歌手が、ソロではその役目をいったん置こうとした。
チェンの歩みには、そんな意外な選択があります。

後には、声のエネルギーを生かしたロックにも向かっています。
強い声を遠ざけて、また戻っただけなのでしょうか。
その間に育った、言葉や感情の伝え方をたどります。

EXOで声を響かせ、一人の歌へ進む

2012年にデビューしたEXOで、チェンは中国を中心に活動するEXO-Mのメンバーとして出発しました。
「MAMA」では、伸びのある高音が早くから注目されています。
大勢で踊り、声を受け渡すグループの中で、一人の歌声が強い印象を残す役割を担っていたのです。

その後は、ドラマ『大丈夫、愛だ』の「Best Luck」など、ソロの歌も発表しました。
ただ、曲を一人で歌う経験と、一枚の作品を自分で背負うことには距離がありました。

2019年の初ソロミニアルバム『April, and a Flower』を前に、チェンは自信が足りなかったと明かしています。
周囲には優れた歌手がたくさんいて、最初の作品を完璧にしたかった。
EXOとしての成功が、そのまま一人で始める自信になるわけではなかったのです。

2019年、初ソロ作の発表時のチェン
2019年、初ソロ作の発表時のチェン。
画像出典:画像掲載元

2019年、強い印象より、細やかに届く歌を探す

制作で力を入れたのは、声の細やかさ、感情、歌詞の伝わり方でした。
本人が望んだのは、聴く人の心を穏やかに動かせる歌手になることです。
一枚を自分の声で満たす難しさに向き合いながら、作業を進める中で手応えも得ていきました。

同じ時期、チェンは自分の声の持ち味を、澄んだ、混じり気のないものとして捉えています。
仲間の歌を高く評価したうえで、それが自分の強みになればと話していました。
仲間とは違う自分の声で、何を届けるかを考える言葉です。

「Beautiful goodbye」で想像したのは、悲しみをそのまま見せる人ではなく、それを隠そうとする人でした。
相手への愛情が残るまま、別れを受け入れる時間を求める。
その人物を歌うため、本人は落ち着いた表現を選んだと説明しています。

同年10月の『Dear my dear』では、恋人との夜を終わらせたくない気持ちを歌う「Shall we?」へ進みました。
レトロなポップスの表題曲に加え、「Good night」には、そばでささやくような歌声もあります。
別れの悲しみだけに、ソロの声を閉じ込めなかったことが分かる組み合わせです。

2022年、新しい楽しさと、高音の出番を選び直す

三作目の『Last Scene』では、制作への向き合い方も変わりました。
最初の二作では、自分の希望を強く通そうとしていたチェンが、今度は周囲の声にも耳を傾けたのです。
一人の名前で出す作品でも、一人だけで抱え込む必要はない。
本人にとっては、そう考え直す機会にもなっていました。

「Traveler」の録音では、以前は明るい歌に照れくささがあったのに、今回は楽しめたと話しています。
旅へ出たくなるR&Bを、ソロの新たな色として迎え入れました。

同じ作品の「Reminisce」では、ソロでいったん控えようとした高音にも、改めて出番を与えます。
別れの惜しさを抑え、やがて高音で放つ曲です。
高い声を持っているから使うのではなく、この曲の感情に必要だから使う。
得意な声をどう働かせるかを、作品の中で選び直していました。

表題曲「Last Scene」では、去っていく相手を引き留めたい気持ちを、叫び掛けるように表したと説明しています。
2019年の「Beautiful goodbye」が悲しみを隠そうとする人物なら、こちらは別れのただ中から相手へ届こうとする人物です。
同じ別れの歌でも、声にさせたいことが変わっています。

2023年、日本の舞台でバラードの外へ踏み出す

日本初のミニアルバム『ポラリス』は、人生の出来事をロードトリップに重ねた六曲の作品でした。
バラードに加え、ブルースやロックも入っています。
旅の途中で変わる景色を、多彩な曲調で歌う一枚として構成されています。

同年9月1日の横浜公演では、ギターやピアノを生かす場面から、バンド全体が前に出る場面へ展開しました。
「FREE WORLD」「Break Out」「Watch Out」を続けた後半は、チェンの力強さがロックの勢いと結びつく時間です。
本人も、客席のエネルギーに引っ張ってもらう感覚を話していました。

初めての日本ソロツアーを終えたときには、ファンの顔を見て、勇気を出して開催してよかったと伝えています。
2019年には一枚を自分の声で満たすことに不安があった人が、今度は一人で公演を進め、観客と楽しさを分け合った。
録音作品を増やすこととは別に、ソロ歌手として舞台を経験する時間も積み重なりました。

2024年、自分の気持ちを複雑に包まなくなる

『DOOR』の「PLAYLIST」では、Coldeと曲を作り、HAONとBE’Oのラップを迎えました。
前作とは違う方向へ進みたいという思いから選んだ組み合わせです。
本人はバラードが好きだとしながらも、そこだけに限定したくないと話しています。
届けたい内容に合う音楽を作る、という考えは保ったままでした。

この作品を経て、チェンは自分を表すことに以前より気楽に向き合えるようになったと述べています。
本心が伝わるなら、簡単な表現を必要以上に複雑に包まなくてよい。
曲作りに関わる範囲が広がる一方で、言葉の扱いは、むしろ素直な方向へ向かっていました。

新しいことに挑む際も、本人は自分に厳しく、納得できるものにしたいと考えていました。
ただ、それを重荷と感じる以上に、新しい方向へ進むことを楽しみにしていたといいます。
最初の作品を完璧にしたいと不安を語った頃から、自分への要求を持ちながら、制作の過程を楽しむ姿へ。
歌う喜びを、結果だけに預けなくなったことも、この時期の変化です。

2024年『DOOR』期の取材に掲載されたチェン(INB100提供)
2024年『DOOR』期の取材に掲載されたチェン(INB100提供)。
画像出典:画像掲載元

2025年、「Arcadia」で声のエネルギーを解放する

『Arcadia』の表題曲にロックを選んだ理由は明快でした。
バラードを離れて別の長所を見せる方法として、エネルギーのあるボーカルを考えたのです。
本人は、このアルバムを表す言葉に「変化」を挙げています。
おなじみの強みを、そのまま同じ場所で披露するのではなく、違う音楽の中へ置き直す挑戦でした。

その前年末には、思い切って取り組めばできるという自信がついたとも話していました。
大きな目標を一度で達成できなくても、小さな歩みを別の形で重ねればよい。
次の作品へ向かう姿勢には、最初から完全な形を求めた頃とは違う余白が生まれています。

強い声へ進んでも、静かに話すような歌は残る

2026年4月12日のシンガポール公演では、「I Don’t Even Mind」と「My Dear」に、会話を思わせる温かい歌唱がありました。
「Photograph」の前には、観客に目を閉じるよう呼び掛けています。
ロックを掲げるツアーの中にも、一人ひとりが言葉を受け取るための静かな場面がありました。

チェンの歩みを貫くのは、声の力を一方向に増やすことより、伝えたい気持ちに合う音楽を探す姿勢です。
一曲ごとの声の選択は、チェンの歌い方でさらに掘り下げています。

自分に厳しい人が、歌う過程にも喜びを見つけていく。
その変化が、ソロの作品と舞台を続ける姿にも表れています。

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