AZKiさんの歌唱変遷は、声が細かった新人が、鍛えて力強い歌手になったという単純な成長物語ではありません。
2018年に音楽を中心とするVSingerとして始まり、白と黒の二つの音楽性を往復し、活動終了が想定されていた分岐点を越えました。
その後は苦手意識のあった配信にも向き合い、メジャーデビューを経て、2025年には初のアリーナライブへ到達しています。
変化したのは、歌える音域や曲数だけではありません。
初期には歌の中だけで見せていた自分を、配信や言葉でも少しずつ見せられるようになり、それが再び歌へ戻ってきました。
過去曲を現在の声で録り直した時、昔の自分を消すのではなく、当時の迷いまで含めて今の歌へつなぎ直しています。
終わるはずだった道が、新しい出発点へ変わるまでを年代順にたどります。
2018年、歌うことから始まったVSinger
AZKiさんは2018年11月、音楽活動を中心とするVSingerとしてデビューしました。
日常的な配信から人気を広げる形ではなく、まず歌を発表し、ライブで会うことが活動の中心でした。
初期の大きな特徴は、音楽性を一つに固定しなかったことです。
ポップで明るい「WHiTE」と、激しく暗い「BLaCK」という二つの側面を掲げ、短い期間に多くのオリジナル曲を発表しました。
デビュー曲「Creating world」には、仮想世界から現実へ声を届けるという活動の原点が表れています。
この時期は歌そのものが自己紹介であり、曲が増えるたびにAZKiという存在の輪郭が見えてくる作りでした。
一方で、初期から完成されたスターとして立っていたわけではありません。
2019年の「いのち」には、歌う理由と活動の期限を意識するような切実さがあり、後年まで何度も歌い直す大切な曲になりました。
2019年、「without U」で独りの歌から聴き手との歌へ
2019年の1stアルバム『without U』と初のワンマンライブは、楽曲を発表する存在から、観客と時間を共有する歌手へ進む転機でした。
アルバム名の「U」は、AZKiさんの歌を受け取る一人ひとりを指します。
歌う側だけでは活動は成立せず、聴く人がいて初めて世界が続くという関係が、初期から言葉になりました。
ライブでは、画面の中の歌声が会場の反応を受けて変わります。
後に関係者が、同じ曲でも毎回同じ歌にならないと振り返った背景には、この時期から積み重ねた現場があります。
初期のAZKiさんは、自分を長く語るより歌に任せるタイプでした。
それでも観客の存在を知るほど、歌は完成品を届けるものから、その場で関係を作るものへ変わっていきます。
2020年、止まったライブの代わりに歌の種類が増えた
2020年は、ライブを中心に考えていた活動が予定どおり進まない時期でした。
それでも、歌う場所がなくなったから活動を止めるのではなく、2ndアルバム『Re:Creating world』や配信ライブへ形を変えています。
この時期の「Intersection」という題名は、AZKiさんの歩みによく似合います。
一つの道を一直線に進むより、交差点に立つたび、歌う意味を選び直してきたからです。
5thライブでは、オリジナル曲を中心に26曲を歌いました。
単に長時間歌い切った実績だけでなく、柔らかな曲、感情を大きく出す曲、強いバンドサウンドを一つの公演で往復しています。

活動初期に示した白と黒の二面性は、別々のキャラクターではなく、一人の中にある声の幅としてまとまり始めました。
きれいな声を守るだけではなく、曲に必要なら感情の粗さも見せる歌へ広がった時期です。
2021年から2022年、終点の予定が分岐点へ変わった
AZKiさんの活動には、もともと2022年7月を一つの終点とする構想がありました。
その期限を知らずに歌だけを追うと、この時期の曲が持つ切実さを半分しか受け取れません。
2021年のライブでは、従来のRoute αからRoute βへ進むことが示されました。
続く「オーバーライト」は、最初の約3年間を振り返りながら、決められていた未来を上書きする曲です。
2022年4月、AZKiさんは音楽レーベル内のプロジェクトからホロライブ所属へ移りました。
活動を終えるのではなく、歌を中心にしながら配信も増やす道を選びます。
ここで大きかったのは、環境の変更以上に、自分を見せる方法が変わったことです。
それまでは音楽とライブを通して会う機会が中心で、本人も配信を得意分野とは考えていませんでした。
歌だけなら、作品の人物や世界の中に自分を置けます。
雑談やゲームでは、歌の後ろにいる本人が長い時間見えるため、別の勇気が必要です。
配信へ踏み出したことで、観客は完成した歌だけでなく、迷い、笑い、次の挑戦へ向かう過程も共有するようになりました。
後の歌が以前より身近に届くのは、声の技術だけでなく、歌う人を知る時間が増えたことも関係しています。
2023年から2024年、配信で広がった人柄が歌へ戻る
2023年、AZKiさんはメジャーデビューし、活動はRoute γへ入りました。
ここで音楽を捨てて配信者になったのでも、以前の音楽専業へ戻ったのでもありません。
ホロライブで学んだ配信の距離感と、長年培ったステージの歌を一つにする時期です。
大きなイベントに立つ経験が増えるほど緊張への向き合い方も変わり、ライブで観客を見る余裕が生まれました。
2024年のアルバム『Route If』では、曲ごとに違う「声の温度」を見せることが作品の中心になりました。
初期の白と黒が大きな二色だったとすれば、この作品ではその間にある細かな色まで歌い分けています。
「Lazy」ではポエトリーリーディングに挑戦し、言葉の間まで表現にしました。
明るい曲では歌詞の表情を声へ移し、台詞やラップを含む曲では複数の人物像を行き来しています。
さらに「いのち」を2024年の声で録り直しました。
初期の歌い方をきれいに再現するのではなく、ここまで活動が続いた現在の自分が、同じ言葉をどう歌うかを選んでいます。
過去曲の再録は、昔よりうまくなったことを証明する試験ではありません。
同じ歌詞に対する答えが、歩いてきた時間によって変わることを残す作業です。
2025年、過去を直すのではなく現在の声で引き受けた
2025年、AZKiさんは再びホロライブ内で音楽活動を進める形となり、過去曲を再録した『Re:Start』『Re:Birth』を発表しました。
録り直す時には、昔の歌唱へ厳しい目を向けてしまう瞬間もあったと語っています。
それでも、現在の技術で過去を塗りつぶすのではなく、今の自分が素直に歌える声を選びました。
新曲では、これまでのAZKiにない姿も意識しています。
過去へ戻る作品と未来へ進む作品を同時に作ることで、再出発が懐古だけで終わらない構成です。
同年の「Departure」は、Route α、β、γを通過した先にある初のアリーナライブでした。
題名は別れではなく、もう一度出発するための言葉として使われています。

終わる予定だった2022年を越え、配信という苦手分野を通り、メジャー活動と大舞台へ進んだ。
そこで歌った過去曲は、当時の保存映像ではなく、現在まで続いた本人の声でした。
変わったのは声の強さより、自分を歌の外へ出せる範囲
AZKiさんの変遷を音だけで整理すると、初期の繊細さに力強さと表現の幅が加わった、と説明できます。
しかし、それだけでは配信への移行が歌に与えた変化を説明できません。
初期は、歌が本人を知るためのほぼ唯一の入り口でした。
現在は、普段の話し方や迷う姿を知ったうえで歌を聴けます。
そのため、小さな声にも本人の時間が重なり、強い声には大舞台へ来るまでの選択が見えるようになりました。
AZKiさんの歌い方・発声で紹介した「声の温度」も、この歩みから生まれています。
多くのジャンルを歌えるから色が増えたのではなく、自分のさまざまな面を隠さず曲へ置けるようになったから、声の温度差が表現になったのです。
まとめ
AZKiさんの歌唱力の変遷は、2018年の音楽専業VSingerから始まりました。
白と黒の二つの音楽性、観客と出会ったワンマンライブ、止まったライブ活動、終点が予定されたRoute αを経て、活動継続という新しい道を選びます。
2022年以降は苦手意識のあった配信へ踏み出し、歌の外にいる自分も見せるようになりました。
その経験がメジャー期の多彩な「声の温度」へつながり、過去曲の再録と初アリーナライブで、昔と現在を一つの声に結び直しています。
活動終了の予定を消したのではありません。
終わりを意識して歌った時間も引き受けたまま、その先へ進みました。
だからAZKiさんの現在の歌には、透明な声の美しさだけでなく、道を選び直してきた人の重さがあります。
「言葉にするより歌で伝えたい」という原点を残しながら、歌う人そのものが少しずつ見えるようになったことが、もっとも大きな変化です。
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