泉谷しげるの歌声はどう変わった?「春夏秋冬」、LOSER、76歳の録り直し

泉谷しげる(2025年掲載) シンガー
泉谷しげる(2025年掲載)。撮影:小境勝巳 / ぴあ音楽

1988年、泉谷しげるはロックバンドのLOSERを従えて「春夏秋冬」を録り直しました。
ドラムと二本のギターが入れば、歌もいっそう力任せになりそうです。
ところが本人が後に語った変化は逆でした。
以前のように怒鳴ったり、わざと声を枯らしたりするのをやめ、力を使いすぎずに歌えるようになったというのです。

1972年のアルバム版、1988年の再録、さらに76歳で取り組んだ2025年のセルフカバー。
泉谷の歌声は、ただ激しさを増したり、年齢とともに静かになったりしたわけではありません。
何を「迫力」と呼ぶかを、演奏する仲間と、目の前の客に合わせて選び直してきました。

1972年――代表曲は、思いどおりに叫べなかった日に生まれた

泉谷の「春夏秋冬」を、後年の録音と比べるなら、まず1972年のアルバムに入った歌から始めたいところです。
ただし、それを「若い泉谷の理想の声」と決めてしまうと、出発点から見誤ります。

本人によれば、録音したのは冬で、風邪をひいていました。
鼻声になり、思うように叫べなかった。
曲も十分に完成していないままスタジオへ入り、加藤和彦の助けを受けてアルバムを作りました。
泉谷自身はもっと荒々しくやりたかったのに、出来上がりには意外な都会的な印象も受けたと振り返っています。

最初のアルバム『泉谷しげる登場』はライブ盤で、泉谷はまだ、スタジオで音を重ねて作品にする方法に慣れていませんでした。
その一方で、次の曲を求められ、地方公演も続く。
本人は、いつ終わるのかと思いながら走っていた感覚も「春夏秋冬」に入っていると話しています。
風邪だけでなく、歌を仕事にして間もない人の戸惑いも、この録音の背景にありました。

1972年の録音は、後に「2025 Remaster」の名でも配信されました。
音質を整えた版であり、2025年に歌い直したものではありません。

こうした出発点を知ると、原盤を基準にして後年の声を「元に戻ったか」「衰えたか」と測るだけでは足りなくなります。
本人が求めていた荒々しさと、録音に残ったものの間には、最初から距離がありました。

1978年――「怒り」を一人で叫ぶのではなく、バンドで形にする

数年後の「翼なき野郎ども」では、泉谷が音楽に求めるものがさらに明確になります。
1978年のアルバム『80のバラッド』に収められたこの曲について、本人は、何を問題にして歌うのかを周囲とぶつけ合ったと話しています。
やり取りの中で浮かんだのが、何もないことへの怒りでした。

泉谷がこだわったのは、歌詞だけが主役で、バンドが後ろに付く形ではありません。
演奏する人たちも音で何かを表現してほしい。
泉谷は先に曲を作っていましたが、周囲には詞から曲へ進む考え方がありました。
歌詞の内容だけで曲を決めるなら、演奏は伴奏で終わってしまう。
その順番から問い直して、歌う自分とバンドが一緒に主張する形を求めていたのです。

「翼なき野郎ども」は1988年にもう一度録られ、2025年にも選ばれます。
三つの時期をつなぐ曲が、この段階で生まれました。

1978年の『80のバラッド』収録音源をリマスターした版。

1988年――大きな音の中で、むしろ力を抜く

1988年の『IZUMIYA-SELF COVERS』では、村上“ポンタ”秀一、吉田建、仲井戸麗市、下山淳らが参加するLOSERと、過去の歌を録り直しました。
泉谷がソロとバンドの両方をやりたかったという思いも、この頃の活動につながっています。

腕のあるメンバーが集まったから、気持ちよく歌えばよかったという話ではありません。
泉谷は、誰かの音楽に似せるより独自のものを作ってほしいと注文し、衝突したと振り返ります。
参考として持ち込まれたU2やディランの音を目指すのではなく、自分たちから誰かへ影響を与えるものにしたかった。
本人が仲井戸のギターを評価した理由も、他人にはまねできない、その人の表現があったからでした。

一方で、演奏に口を出す以上、自分の歌もきちんとしていなければならない、と感じていました。
伴奏の迫力に声量だけで対抗するのでは、メンバーの仕事にも応えられなかったのでしょう。

2021年の対談で、初期と1988年の「春夏秋冬」を比べられた泉谷は、声がよく出るようになり、音域も変わったと述べています。
さらに具体的なのは、力の使い方です。
以前は怒鳴ることや、あえて声を枯らすことを迫力の見せ方にしていた。
しかし再録の頃には、身体を固くせず、リズムにゆっくり乗ることを大切にしたというのです。

ロックバンドと歌ったから声を強く押し出した、という想像とは逆です。
音が厚くなる中で、本人は歌の力みを減らす方向を選びました。
1972年と1988年の「春夏秋冬」は同じ曲ですが、編成も録音の条件も違います。
そこを踏まえたうえで並べると、泉谷自身が語った「声が出るようになったこと」と「力を使いすぎないこと」が、ひと組の転機として見えてきます。

「翼なき野郎ども」も同じアルバムで再録されています。
1978年には作る側とぶつかりながら形にした歌を、十年後にはLOSERという強い個性の集まりで歌った。
怒りのテーマは残しても、泉谷が歌を届けるための相手と方法は変わっていました。

再録を経ても、「春夏秋冬」はライブの大切な曲であり続けました。
2017年の取材で泉谷は、体を動かし、舞台でしっかり声を出せる状態を保つことについて話しています。
かつて声の力みを減らした人は、年齢を重ねてもライブで歌うための身体を整えていました。

この年に出した大規模な作品集にも、新作『舞い降りる鷹のように』を加えています。
泉谷は、過去をまとめるだけでは現在の自分を示せないと考えていました。
昔の歌が残っていることに安心するのではなく、新しい歌と並べ、現役で歌う時間を続ける。
後のセルフカバーも、こうした活動の途中に置かれています。

2017年の泉谷しげる
2017年の泉谷しげる。
撮影:Jumpei Yamada / Billboard JAPAN

聴き慣れた節回しをどう守り、その日の客へどう呼びかけるかは、時代の比較とは別の問いです。
泉谷しげるの歌い方では、その一曲の中での声の選び方を扱っています。

2025年――「昔の曲」を、今の声で残してほしいと言われた

2025年の『シン・セルフカヴァーズ 怪物』は、単なる記念盤ではありません。
各地のライブで昔の曲を現在の声で聴きたいという声があり、フォーライフの後藤豊もライブを見て、「翼なき野郎ども」を今の泉谷の声で録りたいと考えました。
昔の録音があるのに新しい録音を望んだのは、客が今のステージを知っていたからです。

「翼なき野郎ども」は1978年の『80のバラッド』、1988年の『IZUMIYA-SELF COVERS』、そして2025年の新作に入っています。
2025年に再録されたのは「春夏秋冬」ではなく、この曲や「春のからっ風」などです。
同じ歌に三度向き合った「翼なき野郎ども」には、泉谷がその時々に選んだ仲間と声が残ります。

しかし、現在の声を録ることと、ライブの勢いをスタジオへ持ち込むことは別の難しさです。
泉谷はレコーディングで冷静になってしまうのが嫌で、全曲をライブで録ることも考えました。
曲を覚えきれていないことから実現しなかったものの、天井の高いスタジオでライブに近い感覚を求めました。
本人の公式日記にも、ライブを続けながら録音し、スタジオなのに荒っぽい仕上がりになった喜びが残っています。

その日記からは、勢いを残すためにも準備をしていたことが分かります。
2024年の夏からバンドとリハーサルを重ね、ライブと並行して録音を進め、作品には約半年関わっていました。
さらに泉谷は、復帰したフォーライフの若いスタッフと作ることも大切にしたと話しています。
昔の仲間や録音をそのまま揃えるのでなく、現在のバンドと制作陣で、今の自分の歌を残したのです。

2025年の取材では、以前は90分歌うと疲れきっていたが、今はそうではなく、高いキーも以前より楽になったと話しています。
本人が感じていたのは、昔の自分を取り戻すための苦しさより、歌い続ける中で増した手応えでした。

RISING SUN ROCK FESTIVAL 2024 in EZO
RISING SUN ROCK FESTIVAL 2024 in EZO。
撮影:原田直樹 / ぴあ音楽

同じ2025年の新作には、1973年の曲「春のからっ風」の再録も入っています。
初期の曲を現在の声と演奏で歌い、新曲も並べた。
泉谷が目指したのは昔の自分の再現ではなく、いま続いているライブの熱を録音へ持ち込むことでした。

怒鳴るだけでは残せなかった歌

最初の「春夏秋冬」は、風邪で思うように叫べなかった日の録音でした。
1978年の「翼なき野郎ども」には、バンドとぶつかりながら怒りを曲にした時期が残っています。
1988年のLOSERとの再録では、演奏が大きくなる一方で、泉谷は声の力みを減らすことを学んだと振り返ります。

そして2025年、求められたのは若い頃の声の複製ではありません。
長くライブを続けてきた人が、今歌う「翼なき野郎ども」でした。
泉谷の変遷は「昔の方が勢いがあったか」という一直線の比較では捉えきれません。
迫力を声にどう込め、誰と鳴らし、どの時点の自分として残すか。
その選択が、同じ歌を何度も歌う理由になっています。

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