久保史緒里は、自分の声の線が細いと感じ、強い曲を歌えるのか不安に思っていました。
それでも、劇団☆新感線の舞台が決まると、普段と違う曲を練習し始めます。
歌い方を考える手がかりは、この声の印象と、実際に試す歌との間にあります。
同じ人の声でも、一人で歌うときと誰かに重ねるとき、現在の自分として歌うときと昔の歌手を演じるときでは、注意を向ける先が変わります。
久保が語った練習や、実際の制作現場で求められたことから、その違いを見ていきます。
まず、呼吸とことばを歌える状態にしておく
久保は、歌を上達させるには基礎が大切だと考え、ボイストレーニングに通ったことを明かしています。
自宅でも腹式呼吸の自主練習をしていました。
曲ごとに表現を変える前に、呼吸の基礎へ戻る時間を持っていたのです。
歌詞の準備には、手書きが役立っています。
曲と歌詞を受け取っても、自分の中に入るまでに時間がかかるという久保。
書いて、読み返すことで、理解が少しずつ深まるといいます。
加入した頃の日記にも歌のことを書き、ある曲を歌ったときに、ようやくしっくりきたという経験をしています。
ことばの意味が曖昧なまま、強弱だけをつけるのとは違う準備です。
何を歌っているのかが自分の中でつながれば、どこを大切に届けたいかを考えやすくなる。
久保の手書きの習慣は、感情を加える前に、歌を自分で理解する時間を確保する方法と見ることができます。

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「美少女戦士セーラームーン」2019年公演では、胸に手を当てて鼓動を確かめ、自分を落ち着かせる習慣も生まれました。
アクションや早着替えが多い舞台で、次の場面へ落ち着いて入るための工夫です。
細い声という自己像を、歌う曲の限界にしない
「天號星」の稽古に入る前、強い曲を練習した久保は、先生からその歌が合うと言われました。
不安から、知らなかった自分の力を楽しみにする気持ちへ変わったのです。
以前の練習では、乃木坂46の曲に近い歌を扱っていました。
そこから違う強さを求められる曲へ進み、指導を受けて、自分なりの力強さを探す。
久保も、声の細さだけで歌える曲を決めていません。
「乙女、凛と。」では、音程と時間を両方合わせる
2021年のドラマ「サマータイムマシン・ハズ・ゴーン」の一編「乙女、凛と。」には、未来の自分と歌でハモる場面があります。
約10分の長回しの最後に置かれた、アカペラでの歌唱です。
芝居を続けた先で歌い、別の時間の自分と声を合わせるため、最後の歌だけを切り離して考えることができません。
撮影では、上田誠がカメラの後ろで指揮をして、リズムを支えていました。
久保も、少しのずれで撮り直しになる緊張を覚えています。
ハモる場面では、正しい高さの音を出すだけでなく、声を出すタイミングを合わせることも必要です。
この撮影は、歌を芝居の時間の中に収める難しさを、具体的に示しています。
「やさしいだけなら」は、三人で歌を届ける場
「THE FIRST TAKE」で歌った「やさしいだけなら」は、生田絵梨花、久保史緒里、賀喜遥香の三人による歌唱です。
切ない恋心を表す曲を、一発撮りの場で届けました。
生田が収録後に語ったのも、声と気持ちを互いに寄せながら歌った、ということでした。
この場面を考えるときは、誰が一番強く声を出せるかだけに注目すると、三人で歌う意味を見失います。
相手の存在を感じながら、一つの曲を届けることも歌の表現だからです。
ソロで声の個性を見せる場面とは違う条件の中に、久保の歌を置いて聴ける一曲といえます。
「あんぱん」で求められた、時代のある節回し
「あんぱん」の白鳥玉恵には、宮城まり子をモデルの一部とした歌唱が求められました。
久保は、宮城の特徴的な節回しを再現できるよう準備し、レコーディングに臨んでいます。
制作統括の倉崎憲は、その再現に加え、元気を与える声だったことも評価していました。
ここでは、久保らしい声をそのまま出せば役に合う、とは限りません。
先にある歌唱の個性を捉え、時代の中にいる人物として歌う必要があります。
音を外さずに歌えることと、独特の節回しまで表すことは別の課題。
短い登場場面でも、そのための準備が行われていました。
声だけのドラマでも、相手との関係が歌に残る
オーディオドラマ「さいごのうた」には、大森元貴との歌唱もあります。
倉崎憲は二人の声の相性を感じており、収録では歌い始めると自然に立ち上がる姿も見られたと振り返っています。
映像のない作品では、声が人物の動きや関係を伝える役割まで担います。
芝居の途中から歌へ入っても、相手との関係は続いている。
この作品の歌を考えるうえでは、そんな見方ができます。
相手の声と一緒になったときにどう届くかまで含めて、歌が人物の関係を表しています。
久保史緒里の歌い方には、基礎を繰り返す面と、作品ごとに準備を変える面があります。
呼吸や歌詞の理解を支えに、強い曲へ挑み、声を重ね、ときには過去の歌手の節回しにも近づく。
一つの声の印象に閉じ込めず、歌う条件に応じて使い方を探しているところが、この歌い手を知る手がかりになります。
初期のステージから、芝居の経験を歌へ持ち帰るようになるまでの歩みは、久保史緒里の歌唱変遷で紹介しています。







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