久保史緒里の歌唱変遷|舞台で得た感情を、乃木坂46の歌へ持ち帰るまで

2023年の「天號星」インタビューに掲載された久保史緒里 シンガー
2023年の「天號星」インタビューに掲載された久保史緒里

久保史緒里の歌の歩みをたどると、歌と芝居が何度も行き来しています。
歌のある舞台に立ち、そこで得た感情の表し方をグループのライブへ持ち帰る。
さらに、役柄の人生や時代に合わせて、歌う準備そのものを変えていきます。

変化の中心にあるのは、歌声を何に向けるかという意識です。
仲間と一曲をつなぐ緊張から、人物の思いを届ける歌へ。
その過程を、初期の単独公演、音楽を含む演劇、乃木坂46での活動から見ていきます。

2017年、一人ずつ歌をつなぐことの重さ

加入初期の久保は、生演奏を背にソロを歌いつなぐことの難しさに向き合っていました。
2017年の3期生単独公演では、「悲しみの忘れ方」「きっかけ」などに挑戦しています。
自分の担当を歌うだけでなく、次の人へ渡す。
その一つひとつに緊張があり、久保は成功できたことで仲間との結びつきが強まったと振り返りました。

同年の公演を重ねた先には、気持ちの余裕も生まれています。
AiiA 2.5 Theater Tokyoでの8公演を経た日比谷野外大音楽堂では、楽しさが増したという実感がありました。
初期の変化は、声色を大きく作り替えることより、緊張の中で歌を渡し、経験を次のステージでの落ち着きへ変えていくところに表れています。

2017年、3期生公演を振り返る久保史緒里
2017年、3期生公演を振り返る久保史緒里。
画像出典:画像掲載元

2021年、役を演じる声と、自分の声が近づく

舞台「夜は短し歩けよ乙女」では、久保は黒髪の乙女を演じました。
そこには初めて挑むポエトリーラップもあり、歌とことばを舞台の流れの中で表す課題が待っていました。
稽古中は難しさを感じていた一方、それまでとの違いも語っています。
役に徹するばかりだった舞台に、自分自身も存在しているように思えたのです。

自分がそこにいてよいと思えたことで、舞台に立つ楽しさも変わりました。
これは、役から離れて自由に歌うようになったという話ではありません。
人物を演じる中に自分を置けるようになり、表現することへの身構え方が変わった、という経験です。
歌と芝居に向き合う距離が近づいた経験でした。

「夜は短し歩けよ乙女」(2021年)の歌稽古。

2022年、芝居の経験をライブの感情表現へ

2022年になると、久保は外部でのお芝居によって、ライブで歌うときの表現を得られたと明言しています。
グループへ戻った際に、切なさや恋心を表せるようになったと実感する場面があったのです。
役の気持ちを考え、人との関係を演じる時間が、乃木坂46の曲を歌うときにも生きていました。

役の人生を考える時間が、ライブの歌の手がかりにもなる。
グループと外の現場を行き来する意味を、本人が歌の変化として感じていたことが分かります。

同じ2022年には、3期生曲「僕が手を叩く方へ」でセンターを務めました。
MVでは出演者と演出家を兼ねる人物を演じ、クラップの場面も作られています。
ライブでも同じように一緒に手を叩けたら、という思いを込めた場面でした。
一人の感情を表す歌に加えて、仲間や観客と同じ時間を作る曲も、久保の歌う場所になっています。

2023年、ロックに向けて準備する歌い方を変える

劇団☆新感線の「天號星」では、神降ろしのみさき役を担当します。
出演が決まった段階では、まだ自分が歌う曲を知らなかった久保ですが、新感線で観てきた激しいロックを思い浮かべ、歌い方の準備を始めていました。
曲が届いてから音を覚えるだけでなく、その舞台に必要だと思う表現へ、先に自分を近づけようとしていたのです。

殺陣が大きな見どころになる物語で、自分が歌うことにはどんな意味があるのか。
久保は稽古の段階で、その問いも考えていました。
役の純粋さや繊細さを意識しながら、強い音楽の中へ入っていく。
グループで慣れ親しんだ曲とは異なる歌い方を練習しつつ、声の強さだけで役を決めないところに、この挑戦の難しさがあります。

新しい曲を待つ間にも、ハードな音楽に合う歌い方を思い描いていた久保。
作品の中で声が担う役割を考え、そのための準備から変えていく姿勢が見えます。

「天號星」で神降ろしのみさきを演じる久保史緒里の2023年公演ビジュアル
「天號星」で神降ろしのみさきを演じる久保史緒里の2023年公演ビジュアル。
画像出典:画像掲載元

2025年、人物の生き方を歌う仕事へ

連続テレビ小説「あんぱん」では、歌手の白鳥玉恵を演じました。
久保が人物像として意識していたのは、力強さや天真らんまんさ、そして生きることを肯定する姿です。
歌にも、その人の生き方が表れる役でした。
アイドルとして歌う自分から離れ、物語の中でどんな存在として歌うのかが、いっそうはっきり問われています。

同年11月の卒業コンサートでは、グループで育ててきた歌も披露しました。
初日は生田絵梨花のソロ曲「歳月の轍」を一人で歌い、翌日は柴田柚菜、林瑠奈と「私のために 誰かのために」を歌っています。
一人で引き受ける曲と、仲間と重ねる曲。
最後には自身のソロ曲「夢の匂い」もライブで初披露しました。

初期に語っていた、ソロを次の人へつなぐ緊張を思い返すと、卒業時の選曲にも一つの到達点が見えます。
一曲を分担する経験を出発点として、一人で歌う曲と、仲間に声を重ねる曲の両方を担う。
外で演じる仕事が増えても、歌を渡し合う場所は最後まで大切にされていました。

2026年も続く、人物として歌うという選択

2026年1月のオーディオドラマ「さいごのうた」では、白鳥玉恵として再び歌唱。
本編での短い歌をもっと聴きたいという制作側の思いが、次の作品へつながりました。

「M.I.S.S.I.O.N. 歌劇な潜入捜査官」でも、声楽科の学生・桐原春菜として歌とダンスに向き合いました。
久保は、仲間と同じ目標へ進む経験を役に重ね、共演者とのレッスンからも刺激を受けたと語っています。
乃木坂46を離れても、歌ってきた経験は役づくりの中に残っています。

久保史緒里の変遷は、きれいに歌うことから芝居へ転向した、という一本の線では捉えきれません。
歌う現場から舞台へ行き、そこで得た感情を歌へ戻し、また別の人物として歌う。
その往復によって、声を届ける相手や、声に託す内容が増えてきた歩みです。

息の基礎練習や、曲・場面ごとにどんな準備をしているのかは、久保史緒里の歌い方で掘り下げています。

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