リアーナの歌い方|崩した発音も、かすれた高音も、歌の表情になる

2014年11月、ワシントンD.C.で歌うリアーナ シンガー
写真:DoD News (EJ Hersom) / CC BY 2.0

リアーナは「Work」で、言葉をはっきり発音しすぎないようにしました。
発音を整えすぎると、この曲の態度や生意気さが変わってしまうと考えていたのです。言葉がくっきり聞こえることが、必ずしもその歌にとってよいとは限らないのでした。

リアーナの歌では、言葉の輪郭がぼやけることも、声が荒くなることも、聴きどころになります。
なぜ、それが歌の魅力になるのか。「Work」「Diamonds」「Higher」の録音には、声をきれいにそろえるだけでは出せない表情が見えてきます。

「Work」は、はっきり発音すればよいわけではない

2016年の『ANTI』に収められた「Work」では、同じ言葉を繰り返すサビが、少しずつ一続きの音のようになります。
この歌い方を理解するには、リアーナがバルバドス出身で、カリブ海地域の話し方を歌へ取り入れていることが大切です。

「Work」の発音や文法には、英語をもとに独自の形へ発展したバルバドスやジャマイカの言葉と、アメリカ英語など、複数の特徴があります。
聞き慣れた英語と違うからといって、意味のない音を並べているわけではありません。

特にサビでは、言葉の終わりの子音が弱まり、隣の言葉とつながって聞こえます。一方で、同じ曲の中にも、旋律をはっきり歌い、アメリカ英語に近い発音になる部分がある。
つまり、最初から最後まで同じ調子で曖昧に歌っているのではなく、話すような声と、旋律を歌う声との間を動いているのです。

この伴奏を作ったボーイ・ワンダも、昔のダンスホール音楽で人々が踊っていた楽しさを取り戻したかったと話しています。
発音も伴奏も、一緒に体を動かす場の感覚に結びついている。言葉を一つずつ切り離して明瞭にすれば、そのつながりまで変わってしまいます。

発音の正しさだけに耳を向けると、粗く聞こえるかもしれません。
でも、短い言葉が繰り返され、つながりながらリズムになるところに耳を向けると、あの歌い方を選ぶ意味が見えてきます。

2013年のDiamonds World Tourで歌うリアーナ
2013年のDiamonds World Tourで歌うリアーナ。写真:Joe Bielawa / CC BY 2.0

シーアが、自分の声だと思った「Diamonds」

一方、2012年の「Diamonds」では、別の歌手の声の特徴へ、時間をかけて近づいています。
その相手は、この曲を書いたシーアでした。

制作陣のスターゲイトによると、リアーナはシーアの仮歌が持つ感じを再現するため、録音に2〜3日を費やしました。
仕上がった歌を聴いたシーアが、自分の声だと思ったほどだったそうです。

ここでリアーナが受け取ったのは、歌詞と旋律だけではありません。その声で歌うと、曲がどんな表情になるかまで受け取っています。
いつも自分の決まった歌い回しへ直すのではなく、仮歌で惹かれた表現を、自分の声でもう一度作ろうとした。その細かさも、リアーナの歌唱力の一つです。

「Higher」の荒い声には、歌っている人物の事情がある

『ANTI』の「Higher」は、「Work」とも「Diamonds」とも違う切迫感を持つ歌です。
本人が思い描いていたのは、酔って相手に残す留守番電話でした。相手が悪いと分かっていても、許して連絡したくなる。そんな場面です。

この曲では、高い声が滑らかに伸びるというより、感情を押し出すような荒さがあります。
冷静に話をまとめた人の歌として考えるより、連絡しないつもりだったのに、気持ちを抑えきれなくなった人の歌として考えるほうが、その声の意味をつかみやすくなります。

リアーナの歌を制作してきたマケバ・リディックは、声が少しかすれていても、それが泣いているように聞こえるなら、録音でその表情を引き出すことがあると説明しています。
これは「Higher」そのものの制作についての発言ではありませんが、歌を録るとき、整っているか以外にも選ぶ基準があることが分かります。

声の荒さをすべて消せば、耳当たりは変わるでしょう。
ただ、この歌の人物が何を我慢できなくなったのかも、伝わり方が変わるはずです。「Higher」の高音は、ただ高い音へ届くことより、そこまで声を出してしまう気持ちと一緒に受け取ると面白くなります。

声を整える前に、どんな気持ちを残すか

「Work」では、くっきり発音しすぎないことが曲の気分を守る。「Diamonds」では、人の歌から受け取った表情を丁寧に作り直す。「Higher」では、荒い声が歌の人物の切実さにつながる。
三曲で違うのは、音の高さや伴奏だけではありません。リアーナ自身が、どんな声ならその曲の気持ちが伝わるかを選び直しています。

言葉をどれくらいはっきり言うか、声をどれくらい整えるか。その選び方で、同じ旋律を歌う人の態度まで変わる。
リアーナの歌で楽しみたいのは、声の癖を通して、曲の中の人物が見えてくるところです。

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