サブリナ・カーペンターの歌には、きれいに歌っていたはずなのに、急に本音が口から出たような瞬間があります。
甘く頼んでいた声が、次のひと言ではずいぶん率直になる。「Please Please Please」の面白さは、その変わり身にもあります。
本人が大切にしているのは、歌の中で相手と会話するつもりになることです。
きれいな旋律と、思わず出る言い方。その二つがどう一緒になっているのかを見ていきましょう。
甘くお願いした、そのあとに低い声が来る
2024年の「Please Please Please」で歌われるのは、好きな相手に恥ずかしい思いをさせられたくない、という切実な気持ちです。
ただ悲しんでいるのでも、強気に突き放しているのでもありません。好きだから期待してしまう一方で、これ以上は困る、と釘も刺したい。その両方が歌に入っています。
サビの終わりには、「motherfucker」という強い悪態が、低い音で出てきます。
サブリナによると、最初はその部分の旋律をもっと高いところで終えていました。そこから低く下がって終える形を試すうちに、あの言葉がアドリブとして出てきたのだそうです。
言葉だけを読むと、乱暴なことを言っている場面に見えるかもしれません。
でも歌では、その直前まで続いてきた旋律との落差がある。甘くお願いするだけでは収まらない感情が、低い声のひと言で急に表へ出るような作りです。
この場面では、高く歌い上げて終えることが、いちばん強い表現とは限りません。
音を下げたことで、旋律を歌っていた人が、目の前の相手に直接ものを言い始めたように感じられるのです。

相手に話しかけるつもりで、旋律を歌う
サブリナは2022年の『emails i can’t send』について、友人から、普段話しているときの言い方やユーモアに近いと言われたことを明かしています。
その本人らしい口調を、歌の中でどう生かすか。
サブリナは歌うとき、歌詞の相手と実際に会話しているところを思い描くと説明しています。
そうすると、決められた音程を歌う中へ、会話で自然に出る声の上がり下がりや皮肉な言い方も入れられる。歌の中で演じることは、本人にとって好きな作業の一つなのです。
共同制作者のジャック・アントノフも、彼女が茶目っ気から感情的な表現へ、そこから皮肉へと、素早く切り替わるところに惹かれていました。
一つの歌を、最初から最後まで「悲しい声」や「かわいい声」にそろえる必要はない。頼み事をしていても、途中で腹が立つことはある。その気持ちの移り変わりが、歌う声にも現れます。
一方で、サブリナの声の動かし方には、昔のカントリーを思わせるところもあります。
ジャックは「Please Please Please」の細かな節回しを、ヨーデルのようでもあると表現し、ドリー・パートンやオリヴィア・ニュートン=ジョンを思わせる要素を挙げています。
懐かしさのある甘い歌い回しで、かなり遠慮のないことを言う。
歌詞と歌声の組み合わせが意外だから、急に本音が出る場面も際立ちます。単に強い言葉を強い声で押し出すのとは違う、サブリナらしい可笑しさです。
「Espresso」の気軽さも、細かな歌の選び直しから
同じ2024年の「Espresso」では、もっと余裕たっぷりな人物が歌っています。
自分のことが頭から離れず、相手は眠れなくなっている。コーヒーになぞらえたその自信を、サブリナは遊びのある言葉で歌います。
この曲の原型は、フランスのスタジオで、本人と共同制作者たちが歌や伴奏のアイデアを出し合ううち、約20分で生まれました。
ただし、それで録音が全部できたわけではありません。プロデューサーのジュリアン・ブネッタによると、その後も発表直前まで、声や曲の各部分を細かく調整していました。
特に面白いのは、最初の録音でふと歌ったアドリブを、あとから生かしていることです。
サブリナ自身が、初日に歌ったものを覚えていた。その場の思いつきで歌った短いフレーズを組み直し、主旋律やバックコーラスと一緒に曲を形作る声として使っていったのです。
録音の中で声が埋もれたと感じれば、サブリナはそれも指摘していたといいます。
軽く楽しそうな歌でも、どんな言い方が残り、どの声が前に聞こえるかには、本人の細かな判断が入っています。
「Please Please Please」では、会話のようなひと言が歌の印象を変えました。「Espresso」では、遊びながら出た声を選び直すことが、曲の楽しさを支えています。
どちらも、音程を正確に並べるだけでは作れない、本人の口調が生きた歌です。
その声で、そのひと言を言うから面白い
「Please Please Please」で甘い歌から低いひと言へ移るときも、「Espresso」で自信たっぷりに振る舞うときも、声は言葉の意味を運ぶだけではありません。その人物が、どんな態度で相手に話しているかまで伝えています。
かわいい声なのに強いことを言う、という驚きの先にあるのは、言い方の細かな変化です。
どこで甘く頼み、どこで我慢が切れ、どこではぐらかすのか。そんな会話の動きを追うと、サブリナの歌は、旋律と同じくらい口調を楽しむ音楽になります。
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