チャペル・ローンの「Good Luck, Babe!」では、高い声がふわりと浮いたかと思うと、急に力のある声が割り込んできます。
この切り替わりは、歌い損ねて声が裏返ったものではありません。どの言葉を軽く歌い、どの言葉を強く出すかを探した末にできた、この曲の大事な仕掛けです。
高音が出るだけでは、あのサビにはならなかった。
その制作過程を知ると、チャペルの歌で耳に残るのが、音の高さだけでなく、声の変わる瞬間でもあると分かります。
上手に歌えていたのに、曲は完成しなかった
2024年に発表された「Good Luck, Babe!」は、すぐに完成した曲ではありません。
チャペルと、共同制作者のダン・ニグロたちは、2022年11月に曲の最初の形を作っていました。ところが、デモを録っても、どこか決まらない。伴奏やキーを変えてみても、二人が求める仕上がりには届きませんでした。
ここで厄介だったのは、チャペルが歌えないことではなく、何を歌ってもかなり良く聞こえてしまうことでした。
ダンは、彼女の歌唱力が高いぶん、よい歌を、さらに驚くほどよい歌へ変える判断が難しかったと振り返っています。
一度寝かせた曲を再び取り出したとき、二人が絞り込んだのはサビの歌い方でした。
一部の言葉を、裏声の軽い響きではなく、もっと力のある声で歌う。そこを変えると、ようやく手応えが得られたのです。
高い音を全部同じ調子で歌うのではなく、途中で声の強さと質感を変える。
「Good Luck, Babe!」のサビを考えるうえでは、最高音がどこまで出るかより、この違いのほうが具体的な手掛かりになります。

軽い声の中に、強く歌う言葉がある
ダンは録音を振り返り、サビにある「bars」や「start」といった単語を強く歌ったことを説明しています。
その周りには、裏声で高く飛ぶ部分がある。同じ声のまま音程だけを上下するのではなく、軽い響きと、押し出すような響きが入れ替わる作りです。
だから、声が変わる場所は、ただ通り過ぎるつなぎ目ではありません。
ふわっと続いていた歌に、はっきりした一語が差し込まれる。そこからまた軽い声へ戻る。その行き来が、サビの旋律と一緒に覚えられるのです。
しかも、録音された声の重なり方も、曲の途中で増えていきます。
ダンが明かしたサビのボーカルトラック数は、最初が9、次が11、最後が13。別々に録音した歌を、曲が進むにつれて多く重ねているのです。
一人の歌い方に変化をつけることと、複数の歌を重ねて厚みを増すこと。その両方で、繰り返すサビに勢いをつけています。
サビの中では声の質感が切り替わり、曲全体では歌の重なりが増していく。一度つかんだ耳を、繰り返しでも飽きさせない作りになっています。
「Guilty Pleasure」では、声の切り替えそのものを楽しむ
こうした声の使い方は、「Good Luck, Babe!」で突然現れたものでもありません。
チャペルは、自分の歌い方を振り返って、幼い頃にはカレン・カーペンターに憧れ、スティーヴィー・ニックスのざらつきやビブラートも取り入れようとしていたと話しています。その後、ロサンゼルスへ移ってから独特な発音の癖をやめ、自分のヨーデルを前に出すようになりました。
ヨーデルは、地声系の声と裏声を行き来して、声の切り替わりを際立たせる歌い方です。
切り替えを気づかれないようになめらかにつなぐのとは、目指す面白さが違います。声がぱっと変わること自体を、聴きどころにできるのです。
2023年のアルバム『The Rise and Fall of a Midwest Princess』を締めくくる「Guilty Pleasure」では、その発想がよく分かります。
本人もこの曲について、沈んだ調子で始まり、次第にポップな世界へ進み、途中ではヨーデルまで歌う、と説明しています。
歌い方の変化が、曲の雰囲気の変化にもなっているわけです。
最初から最後まで同じ深刻さで歌い通すのではなく、途中から声の動きそのものに遊びが加わる。「Good Luck, Babe!」の細かい切り替えが気になった人には、この曲のヨーデルも、チャペルの声の使い方を知る手掛かりになるでしょう。
高音を出したあと、どんな声へ戻るか
チャペルの高音が印象に残る理由は、高いところまで届く声を持っているから、だけでは説明しきれません。
「Good Luck, Babe!」では、軽い裏声の途中に強い言葉を入れることが、曲の仕上がりを変えました。「Guilty Pleasure」では、声を切り替えるヨーデルが、曲の表情を変える場面になっています。
どこまで高く上がるかに加えて、どの言葉で声が変わり、そのあとどんな響きへ戻るか。
そこを追ってみると、チャペルが高音をひと続きに並べる歌手ではなく、声の違いをサビの中に織り込む歌手であることが見えてきます。
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