「vampire」は、もっと穏やかなバラードとして仕上がる可能性もありました。プロデューサーのダン・ニグロが最初に作った伴奏を、オリヴィア・ロドリゴは気に入らなかったのです。彼女が求めたのは、後半へ向かって激しくなる曲でした。
ところが、始まりについては、もっと遅くしたいと繰り返し頼んでいます。激しく歌いたいのに、なぜ歌い出しは急がないのでしょうか。制作時の二人の判断から、静かな声を後半の迫力へつなぐ歌い方を見ていきます。
静かに始めても、静かに終わりたくなかった
ニグロは、2021年のデビュー作『SOUR』からオリヴィアと曲を作っている共同制作者です。「vampire」でも、彼女が持ってきた歌のアイデアを二人で作品へ育てました。最初にニグロが考えたのは、ピアノの歌にドラムやギターを加える、バラードとしての仕上げ方でした。
しかし、オリヴィアには物足りなかった。そこでニグロは、ドラムの刻みを細かくし、速く走り出すような勢いを曲に加えます。彼女がこの方向を気に入ったことで、後半へ向かって激しさを増す形が見えてきました。
ここで必要になったのが、歌をどう盛り上げるかという作業です。伴奏だけが急に激しくなり、声がずっと同じ調子では、曲全体の気持ちがつながりません。かといって最初から声を張り続ければ、後半でさらに強める余地がなくなります。
高い音を強く歌う場面だけを取り出すと、勢いよく感情をぶつける歌に見えます。でも二人が考えていたのは、そこに至るまで。最初の声をどれくらい抑え、その後どこで強めるか。迫力は、曲の進み方の中で作られていました。
最初の歌が急ぎすぎていないか、何度も確かめた
「vampire」の前半では、歌い出しの速さがなかなか決まりませんでした。オリヴィアは、もっとゆっくり始めたい。一方のニグロは、遅くしすぎると歌から切迫感が失われると感じていました。
同じ言葉でも、すぐ次へ進めば、気持ちに押されて話しているように届きます。言葉の間に時間があれば、その出来事を思い返しているようにも届く。速さを変える作業は、どんな気持ちで言葉が届くかを探る作業でもありました。

ようやく納得できる速さが決まり、ピアノと歌を録り直したあとにも、オリヴィアはまだ速いと感じました。最初の節だけ、テンポをさらに1BPM、つまり一分間の拍の数で一つ分遅くしています。大きな展開が決まったあとにも、そんな小さな差を詰めていたのです。
歌そのものも、最初の節からサビへどう強めるかを、歌っては聴き返しながら探しました。複数の録音から部分を選んで組み合わせた歌です。激しさを求める本人と、歌い出しの速さにこだわる本人は、同じ一曲を完成させようとしています。最後の迫力だけでなく、そこまでの言葉がどう届くかにも、彼女の判断が及んでいました。
オリヴィアの歌の迫力は、声を張る瞬間だけでは説明しきれません。その前に何を、どんな速さで、どれくらいの強さで伝えたかが、後半を切実にしています。「vampire」を聴き直すなら、強い声になる直前だけでなく、最初の静かな言葉にも注目してみてください。こうした歌い方を作品の間でどう選び直してきたかは、オリヴィア・ロドリゴの歌声の変遷で追っています。







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