2020年、テイラー・スウィフトは初期の曲を録り直しながら、かつての自分の声を「別の歌手」のように感じると話しました。
なかでも楽しかったのが「Love Story」です。
十代の声で歌われた曲を、30代の自分なら少し良くできるかもしれない。
そう思う一方で、再録では当初の旋律や言葉を大切に残そうとしました。
2008年の原曲から2021年の「Love Story (Taylor’s Version)」までには、カントリーからポップへの移行や、声の温かさを残した『folklore』があります。
声が育ったことと、歌の主人公をどう演じるかが変わったこと。
その両方をたどると、同じ曲の二つの録音に何がそれぞれ残ったかが見えてきます。
2008年の「Love Story」には、十代の本人の出来事がある
「Love Story」は、テイラーが家族や友人に交際を反対された経験から生まれました。
実際には付き合う前だった相手との出来事を、ロミオとジュリエットになぞらえたのです。
本人によれば、寝室の床で曲を書き上げるまで、およそ20分でした。
2008年の『Fearless』に収められた歌は、そのとき考えた物語と同じ時期の声を残しています。
恋の相手を思い、周囲に反対される自分が歌の中にいる。
後年のテイラーが「十代らしい」と振り返った声は、この物語を作った時期にしか録れなかったものです。
この時期の歌を考えるうえでは、声を録った現場も手掛かりになります。
「Love Story」では、歌とギター、ベース、ドラムを一緒に録り、ほかの楽器を後から加えました。
演奏者と歌が同時に進んだ原曲を、13年後の声だけで単純に上書きすることはできません。
2012年、乱れた気持ちを音全体で表す
『Red』の「I Knew You Were Trouble.」は、ピアノで考えた旋律をマックス・マーティンとシェルバックのもとへ持ち込んで作りました。
テイラーが求めたのは、そのときの感情と同じくらい混乱した音です。
欲しい低音の動きを自分の口で示し、制作陣がそこにダブステップの要素を提案しました。
制作陣と電子的な音も取り入れ、初期のカントリー調とは違う曲になりました。
当時の本人は、慣れた制作の仕方から一歩出るために、組んでみたかった人たちへ声をかけたと説明しています。
ジャンル名を先に決めるのではなく、曲の感情を説明し、共同作業で音を探したのです。
この曲では、歌だけでなく、歌を囲む音にも気持ちを託しました。
「Love Story」では一人の少女が自分の恋を語り、『Red』では伴奏そのものにも感情の混乱を担わせた。
数年後、テイラーはポップの音をさらに絞り、歌声と言葉を前に出す選択もします。
2014年の『1989』では、声が物語の役を変えた
『1989』は、本人がポップ作品として方向を定めたアルバムです。
それでも「Blank Space」を作るときは、音を増やして声を埋めるのではなく、歌詞と歌声が中心になるよう伴奏を少なくしました。
マックス・マーティンとシェルバックへ何曲か聴かせた際、この曲は三番目でした。
二人はまずこれから作ろうと反応したといいます。
大きな音で押し切るより、言葉とそれを口にする人物が引きつける曲として育てられました。
曲の主人公も、2008年とは違います。
テイラーは、恋愛報道が勝手に作り上げた自分の人物像を、皮肉な「役」として歌にしました。
本人は、その人物像に長く傷ついていたものの、やがて滑稽にも思えるようになったと話しています。
それを作品にした結果、歌の中の「私」と現実の自分をあえて離す余地が生まれました。
「Love Story」では自身の経験を物語に変え、「Blank Space」では他人が作った自分像を引き受けて演じる。
同じ恋愛を題材にしても、声が語る立場は変わっています。
ただし、この時期の歌をすべて簡素にしたわけではありません。
「Out of the Woods」では、終盤に重なるバックコーラスが、大きな広がりを作っています。
録音を担当したローラ・シスクは、伴奏を外して歌声だけを聴いても、その終盤の高揚が伝わると振り返りました。
「Blank Space」で言葉を目立たせた声と、何層にも重ねて押し寄せる声。
『1989』では、曲の物語に応じて、歌の見せ方を選び分けています。

写真:GabboT / CC BY-SA 2.0
2020年、『folklore』では声の温かさを残した
『folklore』を作ったとき、テイラーは「スタジアムでどう響くか」「ラジオでどう聴こえるか」を先に考えるのをやめました。
外出が制限された時期に、自宅からアーロン・デスナーらへ歌を送り、離れた場所でアルバムを作ります。
ただし、完成した声を送り合うだけの制作ではありませんでした。
ロサンゼルスの自宅で録る歌を、離れた場所のデスナーたちも通信で聴き、その場でやり取りしていました。
原曲の「Love Story」のように同時に演奏を録る形から、場所を越えて歌の判断を共有する形へ、共同作業の環境も変わっています。
デスナーが録音で大切にしたのは、彼女の声にある低い響きの温かさでした。
ポップの録音では明るくくっきり聞かせるために削られがちな部分ですが、「seven」や「cardigan」では、その厚みが感情を伝えると考えたのです。
これは、2020年になって突然低い声を出せるようになった、という話ではありません。
もともとあった声の成分を、作品の中で隠さずに残す判断です。
『folklore』では、その声の厚みを削らず、物語の感情を前に出しました。
「seven」は、仕上げ直そうとしても最初の良さを越えられず、初期のミックスが残った曲でもあります。
声を際立たせることと、明るく磨き上げることが、ここでは必ずしも同じではなかったのです。
2021年、昔の抑揚を確かめながら大人の声で歌った
当時、初期の録音の権利をめぐる問題をきっかけに、テイラーは過去の作品を録り直し始めます。
2020年11月には「Love Story」の再録が特に楽しいと話し、翌2021年2月に新しい録音を発表しました。
歌い直す際、彼女は初めに考えた旋律を大きく変えない方針を立てています。
一行ずつ昔の歌を聴き、自分がどこでどう抑揚をつけていたかを確かめ、良くできると思う箇所には手を入れました。
大人の声で十代の曲を新しく解釈するだけでなく、十代の自分が考えた歌い回しにも耳を向けたのです。
再録の「Love Story」では、長くステージを共にしたバンドの演奏も重なります。
本人は、何年もこの曲を繰り返し演奏してきた仲間たちに、新しい録音にも参加してほしかったと説明しました。
クレジットには、ギターのポール・シドティやマイク・メドウズらの名があり、二人はバックコーラスにも加わっています。
声だけを昔の伴奏へ差し替えたのではなく、歌を囲む演奏とコーラスまで作り直した作品です。
原曲と再録は同じ歌、同じ旋律をたどります。
それでも、原曲には当時の本人が恋の物語を歌った時間が残り、再録にはその後の歌と制作を経験した本人の声が残る。
さらに録音や編曲の条件も同一ではないため、二つの音の差をすべて年齢や歌の上達だけで説明することはできません。
初期の歌を録音するときに、どの瞬間の声を作品に残すかという判断は、テイラー・スウィフトの歌い方で詳しく扱っています。
2008年に書いた旋律と抑揚をたどり、2021年の声で「Love Story」をもう一度歌いました。
二つの録音には、同じ物語を歌う二つの時期のテイラーが残っています。

こちらの記事もおすすめ






コメント