テイラー・スウィフトは、「Love Story」を歌い直していた2020年、昔の録音を聴くと、今とは違う歌手のように感じると話しています。
若いころの声を懐かしむだけでなく、今ならもっと良くできる部分があると思えたことが、再録の楽しさでもありました。
2008年の「Love Story」から、2021年に発表された「Love Story (Taylor’s Version)」まで。
その間にはポップへの移行も、『folklore』での静かな歌もあります。
声の成長と、声をどう聴かせたいかという判断。その両方をたどると、同じ曲へ戻ったときの意味が見えてきます。
2008年、バンドと一緒に動いていた「Love Story」
2008年版の「Love Story」の歌は、アコースティックギター、ベース、ドラムと一緒に録音されました。
あとからいろいろな楽器を重ねていますが、歌そのものは、最初にバンドと合わせたときのものです。
この時期のテイラーは、共演者の姿が見える録音環境を気に入っていました。
『Fearless』を作ったスタジオでは、歌う場所からドラマーの演奏が見え、エンジニアが話す様子も確認できる。
自分が落ち着いていれば、バンドにも望むことを伝えやすいと説明しています。
歌いながら演奏者の反応が見えれば、どこで勢いを増し、どこで落ち着かせたいかも伝えやすくなります。
テイラーは十代のころから、自分の歌と楽器がどう動けば曲になるかを考えながら制作に参加していました。
のちに音楽の種類が変わっても、この、自分が望む歌の形を周囲に伝える役割は続いていきます。
2014年、ポップへ進んでも、歌を全部厚くしたわけではない
『1989』は、テイラーがポップ作品として方向を定めたアルバムです。
シンセサイザーを使う音楽へ進んだと聞くと、歌も一様に派手になったように思えるかもしれません。
けれど、「Blank Space」では、本人たちは歌詞と歌声を中心に聴かせるため、音を少なくしたと話しています。
新しいジャンルへ移ることと、どの曲でも声を大きく飾ることは、別の判断でした。
ポップの制作陣と組んでも、言葉が目立つ曲を作れる。
『1989』の変化を、カントリー風の楽器が減ったことだけで捉えると、この曲ごとの選び方が見えなくなります。

やがて、その「どう聴かれるか」を考える基準自体にも、大きな変化が訪れます。
ラジオや巨大な会場を、あらかじめ想定しなくてもよくなった2020年です。
2020年、声の温かい部分を削らない
『folklore』を作ったとき、テイラーは、それまで自分に課していた条件を外しました。
スタジアムでどう響くか、ラジオではどう聴こえるか。
そうしたことを先に考えずに曲を作った結果が、このアルバムだったと振り返っています。
共同制作者のアーロン・デスナーが大切にしたのは、彼女の声が持つ、低い周波数の温かさでした。
ポップの録音では、歌を明るくくっきりさせるために、その部分を減らすことがあります。
しかし「cardigan」や「seven」では、そこを残すことが感情を伝えるうえで必要だと考えたのです。
ここでいう低い周波数は、低い音程で歌うことだけを指していません。
同じ音程の声にも、低く厚い響きや、明るく細い響きが含まれています。
そのどこを録音の中で目立たせるかによって、声の印象も変わります。
『folklore』の声を聴いて、大人っぽくなったと感じたとしても、そのすべてを年齢のせいにはできません。
もともと声にあった温かさを、作品に必要なものとして残すようになった。
歌い手の成長と同時に、制作側の耳の向け方も変わっていました。
同じ曲へ戻ると、本人にも声の変化が分かった
そうした制作を経て、テイラーは初期の作品を録り直します。
2020年11月には、「Love Story」の再録が特に楽しいと話していました。
初期の録音には十代らしい声があり、それを聴くと、今の自分とは違う歌手のように感じるというのです。
翌2021年2月に発表されたのが、「Love Story (Taylor’s Version)」です。
冒頭の2008年の録音と同じ曲を、成長した本人が歌い直しています。
曲が変わる比較とは違い、同じ旋律、同じ言葉をたどりながら、声の印象を確かめられます。
ただ、比べる面白さは、昔と今のどちらが上手いかを決めることだけではありません。
十代で書いた恋の物語を、経験を重ねた歌手がもう一度歌う。
同じ言葉が若い声に乗ったときと、大人の声に乗ったときでは、聴く側が歌の人物に抱く印象も変わり得ます。
本人が再録を楽しめたのも、単に昔と同じ音をもう一度作るためだけではありませんでした。
以前の歌に、今の自分なら加えられるものがあると感じられたからです。
声が育つことと、若い歌を残すこと
2008年には、バンドと一緒に歌った声が作品になりました。
2014年にはポップの制作へ進み、2020年には大きな会場やラジオを先に考えず、声の温かさを残す作品を作ります。
そして同じ「Love Story」に戻ったとき、本人は声の成長を改めて実感していました。
この流れを見ると、昔の歌を残す価値と、今の声で歌い直す価値は、それぞれ違うところにあると分かります。
最初の歌には、そのときの言葉の勢いがある。再録では、同じ言葉を今の自分がどう歌えるかを確かめられる。
早い段階の録音を大切にしてきた姿勢は、テイラー・スウィフトの歌い方で詳しく扱っています。
再録によって、同じ歌詞を二つの時期の声で聴けるようになりました。
どちらの「Love Story」に心が動くかも含めて、テイラーの声が育った時間を、一曲の中で確かめることができます。
こちらの記事もおすすめ






コメント