ヘイリー・ウィリアムスの歌を聴くと、高音へ一気に駆け上がる力に目が向きます。
Paramoreの激しい演奏を背負って、客席へ突き抜けてくる声。
その印象が強いからこそ、静かな曲を聴いたときにも、高い音をどこで出すのか待ちたくなるかもしれません。
でも、ヘイリーが歌を考えるときには、もう一つ大切にしていることがあります。
限られた長さの中へ、言葉をどう並べるか。
本人は、その作り方をヒップホップに近い考え方だと説明しています。
音程の高さだけでなく、言葉が出てくるタイミングを追うと、ヘイリーの声がバンドのリズムを作っていることが分かります。
「Liar」で、ゆったりした伴奏に言葉を刻む
2023年の『This Is Why』に入っている「Liar」は、落ち着いたラブソングです。
この曲の伴奏を聴いたヘイリーは、柔らかく流れるような歌をつけたいと思ったそうです。
ところが、最初に彼女が考えたのは、小節の中へいくつの音節を入れるか、ということでした。
音節は、英語の言葉を発音するときの音のまとまりです。
静かな曲でも、言葉のリズムを組み立て、そこから旋律を作っていくのです。
一方、サビでは、長く広がる伴奏に合わせて、歌も滑らかにする方向を選びました。
言葉を細かく刻む部分と、旋律を伸びやかに歌う部分。
一曲の中でその違いがあるため、サビへ入ったときに、歌の流れがゆったりしたことを感じやすくなります。
ヘイリーらしい言葉のリズムを残しながら、サビでは滑らかに歌う。
高音の見せ場を探すのとは違う楽しみが、この曲にはあります。
「Ain’t It Fun」で、何人もの声が加わる理由
声のリズムをもっとにぎやかに楽しめるのが、2013年のアルバム『Paramore』に収められた「Ain’t It Fun」です。
ギターのテイラー・ヨークが作ったマリンバの音の繰り返しを聴いて、ヘイリーはすぐに歌を書き始めました。
マリンバは、木の音板をたたいて音を出す楽器です。
その弾むような音から、曲の発想が膨らんでいきます。
曲の途中で現れる合唱にも、最初から狙いがありました。
ヘイリーとテイラーは、同じ音を保つ声を重ねて、緊張感を高めたいと考えます。
まず二人で何度も声を録り重ねましたが、望んだ響きにはならず、最終的にゴスペルの合唱隊を招きました。
子どものころからゴスペルが好きだったヘイリーは、その歌を聴いて涙ぐんだと話しています。
この合唱を、豪華な飾りとだけ考えるともったいない。
同じ言葉を繰り返す声が加わると、ヘイリー一人が歌い進めていた曲に、大勢で応える場面が生まれます。
主役の歌を大きくする以外にも、曲の熱を上げる方法があるのです。
曲の内容も、ただ陽気に楽しもうというものではありません。
ヘイリーによると、新しい環境で自分をかわいそうだと思っていた自分へ、しっかりしようと呼びかける気持ちから書いた歌でした。
弾む音楽と、少し手厳しい言葉。
その組み合わせが、合唱でいっしょに歌いたくなる曲を、単純な応援歌とは違うものにしています。
「Hard Times」の歌い方につながる、意外な先輩
2017年の「Hard Times」も、体を動かしたくなる音楽に、つらい時期の気持ちが重なる曲です。
題名は「苦しい時期」という意味。
楽しげな曲調に誘われていても、歌っている本人は苦しさを訴えている。
その食い違いがあるため、踊れる曲なのに、単に楽しい歌としては聴き終えられません。
この曲の歌い方について、ヘイリーは後に、トーキング・ヘッズのデヴィッド・バーンから影響を受けたと明かしました。
とくにサビ以外の部分の、言葉のリズムや声の調子に、その影響があるといいます。
単に同じような楽器を使ったという話ではなく、歌を口にするときの動きにも、好きな歌手の表現が生きていました。
2024年には、そのバーン本人が「Hard Times」をカバーします。
自分の歌い方の参考になった人が、今度は自分の曲を、その人ならではの歌い方で歌う。
ヘイリーは、その出来事への驚きと喜びを伝えています。
この話を知ると、「Hard Times」の印象的な部分を、声の強さだけで捉えなくなります。
どこで言葉を短く切るのか、どの言葉を目立たせるのか。
高い音を伸ばす瞬間と同じくらい、その細かな言い方が、歌手の個性を作っています。

高音へ着く前から、歌は動いている
ヘイリーの歌には、強い高音にたどり着く前から聴く人を引き込む工夫があります。
「Liar」では、言葉を刻む部分から、滑らかなサビへ移る。
「Ain’t It Fun」では、一人の歌に合唱を加え、繰り返しの力で盛り上げる。
「Hard Times」では、言葉のリズムや声の調子に、自分の好きな歌手から学んだ表現を取り入れる。
いずれも、音を正しく大きく出せば完成する歌ではありません。
言葉をいつ出し、どこを伸ばし、周りの声とどう組み合わせるかまでが、ヘイリーの歌い方です。
その一方で、ソロ作品では、整った歌だけを残そうとしない録音も試しています。
デモの声や自宅録音を作品に生かすようになった過程は、ヘイリー・ウィリアムス(Paramore)の歌声の変遷で取り上げています。
次にParamoreを聴くときは、高音の少し前で、言葉がどう並んでいるかにも耳を向けてみてください。
あの力強い声が、ドラムやギターと一緒に曲を動かしている様子が、もっと面白く感じられるはずです。






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