Paramoreのヘイリー・ウィリアムスは、十代のころから、力のある声でバンドを引っ張ってきました。
あれほど歌える人なら、録音でも、最もきれいに歌えた声を選んでいるように思うかもしれません。
けれども、2017年の「Forgiveness」では、作業の初期に録ったデモの歌を残すことになりました。
さらにソロ作品へ進むと、声を曲作りの最初の材料にしたり、自宅で歌っている近さを録音に求めたりしています。
変わったのは、声の大きさだけではありません。
どんな歌を作品に残したいのか、その選び方が広がっていきました。
2017年、「Forgiveness」はデモの歌でよかった
「Forgiveness」が入る『After Laughter』では、Paramoreの音楽が、踊れるリズムや明るい響きへ大きく広がりました。
ただし、ヘイリーの気分まで明るかったわけではありません。
本人は、制作中はつらい状態にあり、自分の歌を気に入れなくなっていたと振り返っています。
「Forgiveness」の本番の歌を録ろうとしていたときも、すでに録ってあったデモへの思いが強く、結局その歌を使うことにしました。
デモは、通常なら曲の形を伝えるための仮の録音です。
あとで歌い直せるものですが、歌い直せば必ずよくなるとも限りません。
ヘイリーは、最初に録ったときには、どう聴こえるかよりも、とにかく気持ちを歌にして外へ出したかったと話しています。
うまく歌おうと考えすぎていない声に、そのときの気持ちが残っていたのでしょう。
翌2018年、ソッカー・マミー名義で活動するソフィー・アリソンとの対談でも、相手の歌詞の伝え方をうらやましく思うと話しています。
自分は「歌手であること」を意識しすぎるときがある。
それに対して、ソフィーの歌は、その人にしか言えない言い方で物語を伝えている、と。
高い音が出ることや、歌の上手さに自信があれば、すべて解決するわけではなかったのです。
自分の気持ちを、最も伝えられる声はどれなのか。
その問いが、デモを完成版に残す判断にもつながっています。

2020年、声は曲を作り始めるための楽器にもなった
初のソロアルバム『Petals for Armor』では、声の役割そのものも広がりました。
バンドで作った音楽に歌を重ねるだけでなく、自分の声から曲を始めるようになったのです。
ヘイリー自身も、この作品では楽器や曲作りの方法を、より実験的に試していると説明しています。
その様子が分かるのが「Cinnamon」です。
制作中、彼女は小さなドラムセットをたたき、さらにソファに寝そべって、言葉のない声を録りました。
その声をサンプラーで使いながら、曲を育てていったといいます。
サンプラーは、録った音を素材として鳴らせる機器です。
ここでの声は、歌詞を伝える主旋律だけではありません。
楽器のように、曲の音やリズムを作る材料にもなっています。
歌手として最後に登場して、完成した演奏の上で歌うという順番から、音楽そのものを声で作り始める順番へ。
同じ声でも、曲の中でできることが増えているのです。
また、このアルバムでは、自分の声のよい部分だけでなく、そうでない部分も聴きたいと、本人は話しています。
常に最も整った状態の歌を目指すより、その曲ができたときの自分を、録音に残そうとしていました。
『After Laughter』のデモを残す選択から、ソロで声を使って音楽を作る試みへ。
声の完成度を気にするだけでは見つからなかった表現を、試せるようになっていったのです。
2021年、自宅で歌う距離を録音に残す
翌年の『FLOWERS for VASES / descansos』は、ヘイリーの自宅で録音されました。
制作と録音を担当したダニエル・ジェームスは、最初に届いたスマートフォンのボイスメモを聴いて、彼女と同じ部屋にいるように感じられる作品にしたかったと説明しています。
そのために望んだのは、残響を多くかけず、声を近くに感じられる音でした。
広いホールで響くように聴かせるのではなく、歌っている人がすぐそばにいるようにする。
これはヘイリーが小さく歌うことだけでなく、録音する側にも必要な判断でした。
アルバムの最初の曲「First Thing to Go」では、去っていった相手の声を思い出せなくなる気持ちが歌われています。
忘れていくことを恐れる歌だからこそ、目の前にいるような歌い手の声が、いっそう親密に感じられます。
ただ、家で録ったら自動的にその近さが生まれるわけではありません。
ジェームスによると、古い家にはさまざまな物音や部屋の響きがあり、近くで録る音を整える難しさもありました。
自宅録音という言葉から想像する、何もせずに録っただけの歌とは違います。
客席全体へ歌を届けるParamoreのステージと、部屋で個人的な話を聴くようなこの作品。
伴奏や録り方が変わると、同じ歌手の声でも、聴く人との距離が変わります。
ソロ活動は、ヘイリーにとって、その距離を自分で選ぶ場所にもなりました。
きれいに歌い直すことだけが、完成ではなくなった
「Forgiveness」では、初めに歌ったときの声を残した。
「Cinnamon」では、声を素材にして、音楽を作り始めた。
『FLOWERS for VASES / descansos』では、自宅で歌う近さを、録音の音作りにも求めた。
この変化を、Paramoreの強い声から、ソロの弱い声へ移っただけと考えると、大切な部分を見落としてしまいます。
歌を録り直すか、録った声をどう使うか、どの距離から聴こえるようにするか。
ヘイリーは、作品に声を残す方法を増やしてきたのです。
2023年のParamoreの「Liar」でも、言葉をリズミカルに並べる歌と、滑らかな旋律を歌う部分を使い分けています。
バンドの中での具体的な工夫は、ヘイリー・ウィリアムス(Paramore)の歌い方で詳しく取り上げています。
大きなステージでの歌も、部屋の中で聴くような歌も、どちらもヘイリーの声です。
上手に歌い直せたかだけでなく、その曲に残したいものが録れているか。
その選び方を知ると、ソロ作品の小さな声にも、はっきりした意思があることが分かります。
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