2025年、マイリー・サイラスは2020年のアルバム『Plastic Hearts』を振り返り、歌声の仕上がりを変えたいと話しました。
ところが、歌い直す必要はないとも言います。
録音には欲しかった歌が残っていて、変えたいのはその声をどう聴かせるか、という部分でした。
なぜ、本人が大切にする声と、完成した作品で聴こえる声の間にずれが生まれたのでしょうか。
2013年の「Wrecking Ball」から2025年の『Something Beautiful』までたどると、マイリーが歌い方だけでなく、声の届き方そのものを考え続けてきたことが見えてきます。
2013年――「Wrecking Ball」で聴いてほしかったもの

写真:Melissa Rose / CC BY 2.0
2013年の「Wrecking Ball」は、マイリーの代表曲の一つです。
歌の中心には別れの痛みがありますが、当時のMVが残した印象も非常に強いものでした。
2020年の『Rolling Stone』の取材で、彼女は『Bangerz』期には音楽以上にポップカルチャー上の出来事が話題になりがちだったと振り返っています。
「Wrecking Ball」についても、曲にある痛みより、映像の大胆さを人々が思い出すことを気にかけていました。
「誰か曲を聴いたのだろうか」と感じたことがあったのです。
これは「昔の声が足りなかった」という話ではありません。
本人が後から問題にしたのは、歌に込めた感情と、世間が先に受け取ったイメージとの距離です。
どれほど歌っても、映像や人物像が曲より強く記憶されることがある。
ただ、彼女は華やかな演出そのものを捨てたいわけでもありませんでした。
同じ取材で、ショービジネスや忘れられない場面を作ることへの愛着も語っています。
歌に耳を向けてほしい気持ちと、大きな見せ場を作りたい気持ちが、同時にあったのです。
2017年――「Malibu」はギターだけでも歌えた
2017年の「Malibu」では、歌と人物像の関係が変わります。
2017年の『Younger Now』を作ったころ、マイリーは自分で歌詞を書くことを重視し、その時の自分の考えを自分の言葉で伝えたいと話していました。
自分の気持ちを知っているのは自分だから、この作品の言葉は自分で書きたい。
当時の取材では、ファンにも自分から出た本当の言葉だと受け取ってほしい、と説明しています。
声の印象を変える前に、その声で語る内容を自分の手に置こうとした時期でした。
ただ、2025年の長いインタビューでは、当時をもう少し複雑に振り返っています。
彼女によれば、「Malibu」は移動中にギターの旋律に合わせて書き上げ、ギター一本でも成立する曲でした。
しかし最終的にはドラムや手拍子を足してポップに寄せた。
以前に実験的な作品を出したこともあり、レーベル側にも歩み寄ろうとした、と説明しています。
この時期の変化は、声を無理に別人のものへ変えた、ということではありません。
大きな演出で注目を集めた曲の後、身近な言葉をギターの旋律に乗せて歌う道を選んだ。
一方で、どこまでその簡素さを作品に残すかでは迷いがあったのです。
本人は後年、『Younger Now』では私生活を守るために自分を制限していたとも語っています。
2020年――ロックで初めて声を聴かれた、という逆説
2019年には声に関する手術を受け、翌年『Plastic Hearts』を発表します。
ここを「手術で声が変わったからロックを歌えた」と結びつけるのは早計です。
本人は2010年のアルバムでもロックの曲をカバーしており、ロックへの関心は以前からありました。
2020年、彼女は「Midnight Sky」を発表し、ブロンディの「Heart of Glass」などもステージで歌いました。
『Rolling Stone』は、そうした歌唱を通して初めてマイリーの声に気づいたような聴き手がいた、と記しています。
本人も同じ取材で、ようやく自分の声と言葉が真剣に受け止められているように感じる、と話しました。
歌手としての声が、この年に突然生まれたわけではありません。
ロックの曲、共演者、ステージでの見せ方がそろったことで、かつて映像に隠れたと感じた歌に、人々の関心が向いたのです。
音楽を聴かれた手応えは確かにあった。
一方で、アルバムに残された歌声には、本人が後から気づく別の問題がありました。
2025年――不満があったのは歌唱ではなく、声の仕上げ方
『Plastic Hearts』を作ったアンドリュー・ワットについて、マイリーは自分の中にあった音楽を思い出させてくれた、と2025年に評価しています。
アルバム全体を否定したわけではありません。
それでも、その取材で彼女は声の制作処理には満足していないと語り、将来、作品を改めてミックスしたいと希望しました。
そこで重要なのが「歌い直す必要はない」という言葉です。
彼女によれば、欲しい歌は録音の中にすでにあります。
『Plastic Hearts』の「Hate Me」では、CD・レコードと配信とでボーカルのミックスが異なるとも説明しました。
一度歌った声でも、ほかの音とどう混ぜ、どんな処理を残すかで、完成形は変わりうるのです。
「2013年は映像に歌が隠れた」「2020年は歌が注目された」。
それでも2025年の本人は、聴かれた歌が自分の望む音で残ったかを問い直していました。
受け手の注目だけでなく、録音の仕上がりにも目を向けるようになったのです。
『Something Beautiful』で選んだ声の残し方
その制作へ向かう間には、2024年の「Flowers」でのグラミー賞受賞もありました。
本人は後に、望んだアルバムを作れれば十分だと言い聞かせながら、評価されることも自分には大切だったと認めています。
実際にトロフィーを手にしたことで、大人になってからずっと作りたかった作品へ進む自由を感じた、と話しました。
ロック作品で声が注目された2020年を経ても、認められたい気持ちがすべて満たされていたわけではなかったのです。
2025年発表の『Something Beautiful』では、マイリーとショーン・エヴェレットが制作を担いました。
本人はこのアルバムの歌声を高く評価し、エヴェレットが「何を加えたか」より「何をしなかったか」、そして録音の過程を重視して語っています。
声を際立たせることは、何も手をかけないこととは違います。
必要な音作りをしながら、本人が残したい表情を覆わないという選択です。
タイトル曲の始まりは、壮大な構想というより、スタジオで鳴った一つのコードへの反応でした。
制作仲間が弾いた響きを受けて言葉がすぐ浮かび、その美しさに見合うことを歌いたいと感じたといいます。
声をどう仕上げるかに意見を持つ一方で、歌が生まれる最初の感覚も大切にしている。
ギターの旋律から生まれた「Malibu」と比べると、音に反応して言葉を歌にするところには、共通する姿勢が見えます。
この年、マイリーは声帯の状態についても明かしました。
2019年に手術を受けた一方、2025年には大きなポリープがあり、歌う負担になると説明しています。
本人は、その状態が声の質感にも関わっていると感じており、新たに除去することで自分らしい声が変わる可能性を心配していました。
医学的な原因を外から決めつけることはできませんが、声の特徴と歌いやすさの間で、本人が慎重に判断していることは分かります。
『Something Beautiful』の「More to Lose」も、その時期の録音です。
アルバムの声を「過去最高の録音」と評価した聞き手に、マイリー自身も同意しました。
かつての『Plastic Hearts』を歌い直すより、そのとき残した歌を適切に聴かせたいという希望と、今の声を今の作品に残す姿勢はつながっています。
マイリーの変遷は、「若いころより声が低くなった」という一言では説明できません。
「Wrecking Ball」では歌の感情がどう受け取られるか、「Malibu」ではどこまで素朴な曲の形を守るか、『Plastic Hearts』では聴かれた声をどう録音に残すか。
問いは作品ごとに変わりました。
2025年の彼女が守ろうとしたのは、昔と同じ声を再現することではなく、それぞれの時期に歌った自分の声を、その歌にふさわしい形で届けることでした。
低い音域を使うときの歌い方と「Flowers」の表現については、マイリー・サイラスの歌い方で詳しく扱っています。

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