力強い声を持ち、宙を舞いながら歌うステージでも知られるピンク。
そんな彼女が、どうしても一人で歌う曲にしたくなかったのが「Just Give Me a Reason」です。
恋人同士の会話を歌うには、もう一人の声が必要だと考えたのです。
ピンクの歌い方の面白さは、大きな声を出せることだけでは説明できません。
共演では、誰と歌えば曲の気持ちが伝わるのかを考え、その人の声を大切にしています。
「Just Give Me a Reason」から、ダラス・グリーンとのYou+Meまでたどると、強い声の持ち主が二人で歌うことを楽しんでいる姿が見えてきます。
最初は、二人で歌う約束をしていなかった
「Just Give Me a Reason」は、2012年のアルバム『The Truth About Love』に収録された曲です。
ピンクとともに歌っているのは、バンドfun.のネイト・ルイス。
最初からこの二人のデュエット曲として企画されたわけではなく、出発点は一緒に曲を書くことでした。
制作初日に最初の節とサビの大部分ができたあと、家に帰ったピンクは、歌詞を見直して考えます。
これは恋人の一人が気持ちを語るだけの歌ではなく、二人の間で交わされる会話なのではないか。
そう考えた彼女は、ネイトにも歌ってほしいと思うようになりました。
ピンクが一人で歌えば、相手への思いを一人の歌手が語る形になります。
もう一人の歌手が加われば、その相手にも、言葉を返す声が生まれます。
曲の中にいる二人を、歌詞の説明だけでなく、別々の声として聴けるようになるのです。
ピンクは、会話のもう一人を歌う役目を、ネイトに任せたかったのです。
ネイトの声だったから、あきらめられなかった

ただ、ネイトはすぐに共演へ賛成したわけではありません。
ポップスターとの共演を、バンドや所属先がどう受け止めるのかという迷いがありました。
ピンクはまず仮の歌を入れてもらい、その声を聴いたうえで、やはり彼に歌ってほしいと考えます。
参加してもらうまでには、何か月も説得を続けたそうです。
先に歌う役を割り振って終わりにするのではなく、相手の歌声を聴いて、この人と完成させたいと決める。
その順番に、ピンクが共演者の声そのものを気に入っていたことが表れています。
ネイト自身も、後年この共演をよい経験だったと振り返っています。
レストランなどで、この歌が自分たちの結婚生活にとって大切だった、と声をかけられるようになったのです。
それまでの活動ではあまりなかった、聴き手からの反応でした。
ピンクが曲の中に必要だと考えた「もう一人」は、聴き手にとっても、自分と身近な人の関係を思い浮かべるきっかけになりました。
二人の歌唱力に驚く楽しさに加え、二つの声で歌う意味が、曲の外にも広がったわけです。
You+Meでは、二人の声そのものが作品の中心になった
2014年、ピンクはダラス・グリーンとYou+Meを組み、『rose ave.』を発表しました。
ダラスはCity and Colourとしても活動する歌手です。
二人は以前から友人で、ステージで一緒に歌った経験もありました。
You+Meの「You and Me」は、アコースティックギターを中心に、二人の歌を聴かせる曲です。
声を重ねて響きを作るハーモニーが、伴奏の多くない音楽の中で大きな役割を持っています。
一人が歌い終わるのを待って次の人が出てくるだけでなく、一緒に歌っている時間そのものが聴きどころになります。
こうした静かな編成は、ピンクにとって以前から親しみのある音楽でした。
本人によれば、子供のころから父親とギターやハーモニーを楽しんでおり、自分のアルバムにもアコースティックな曲はありました。
You+Meで目指したのは、二人の声で何ができるかを確かめることだったのです。
「Just Give Me a Reason」では、歌の会話を成立させるために相手の声を求めました。
You+Meでは、相手と一緒に歌うこと自体から、新しい曲が生まれていきます。
どちらにも、ピンク一人の歌を目立たせるだけでは得られない楽しさがあります。
母親への感謝を歌う「Break the Cycle」

You+Meの「Break the Cycle」は、ピンクが母親への思いを歌にした曲です。
それまで家族との衝突を歌うことはあっても、母親への感謝を伝える歌は、なかなか作れなかったと本人は話しています。
母親を完全に理解できるようになったから、突然すべてが解決したという話ではありません。
複雑な関係があるまま、それでも愛情を伝える歌を作りたかったのです。
「Break the Cycle」には弦楽四重奏も加わっています。
You+Meは全曲を声とギターだけで押し通す作品ではなく、曲に応じて楽器を加えながら、二人の歌を中心にしています。
楽器が増える曲でも、二人の歌声が重なる形を楽しめます。
恋人同士が話す「Just Give Me a Reason」と、母親への気持ちを歌う「Break the Cycle」。
二人で歌う理由は、恋愛の場面を演じることだけに限られません。
身近な人への思いをもう一人と一緒に歌う形にも、ピンクは自分の声を生かしているのです。
二人で歌うと、ピンク自身も違う表情を見せる
ダラスは2019年の取材で、ピンクと作業をすると、自分で自分にかけていた重圧がなくなると話しています。
ステージでも、彼女の方を見て歌い、彼女も自分に向かって歌ってくれることで、安心できるそうです。
ダラスにとっては、歌っている自分を評価することから離れ、目の前の相手に向かって歌える時間だったのでしょう。
「Just Give Me a Reason」をデュエットにした理由も、ここまでたどると理解しやすくなります。
相手の言葉を別の声で聴かせたい曲があり、二人の声を重ねることで作りたい音楽もあるのです。
「Just Give Me a Reason」では恋人同士の会話を、You+Meでは近くで重なる二人の歌を聴く。
その違いに目を向けると、ピンクの声の強さが、相手を圧倒するためだけのものではないことが分かります。
一緒に歌いたい声を見つけ、その人と歌う時間を楽しむことも、彼女の歌の大切な一部です。






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