マイリー・サイラスの歌い方|低い声を変えるより、その声が生きる曲を歌う

2018年のマイリー・サイラス シンガー
Danilo Lauria / CC BY-SA 3.0

マイリー・サイラスは、メタリカの「Nothing Else Matters」を歌ったとき、低い音域を使えることがうれしかったと話しています。
あの低く特徴のある声も、仕事の現場でいつも歓迎されてきたわけではありません。
もっと高い声を求められてきた歌手にとって、自分の声に合う曲との出会いは、歌いやすさ以上の意味を持っていました。

ただし、マイリーの歌い方を「低い声で力強く歌う」と決めてしまうと、「Flowers」のような曲で何を工夫しているのかが見えにくくなります。
声そのものを別人のように変えなくても、伴奏や言葉の意味が変われば、その声で伝えられる気持ちは変わる。
メタリカのカバーと「Flowers」には、その違いがよく表れています。

高い声を求められてきた人が、低く歌える曲に出会う

2021年の「Nothing Else Matters」は、エルトン・ジョンらと参加したメタリカのカバー録音です。
マイリーは、その年のラーズ・ウルリッヒとの対談で、周囲から高い音やファルセットを求められ、自分の声を説明しなければならなかった経験を振り返っています。
声の低さを、男性の声になぞらえて言われることもありました。

そんな彼女にとって、この曲を低い声で歌えることは、自分の声を生かせる機会でした。
必要なのは、いつもより高い声を出して周囲の期待に近づくことではありません。
普段から持っている低さを、曲の中心に置いてよかったのです。

マイリーは2019年のグラストンベリーでも、この曲を歌っています。
その後の自宅での録音では、大観衆の前とは違い、声の出し方を試す余裕があったとも話しました。
同じ曲でも、本番で一度歌い切ることと、納得のいく表現を探すことは別の作業です。
低い声に合う曲を選んだうえで、その声をどう使うかを試していたわけです。

自分に合う声を知ることと、難しい曲に挑むこと

2019年、Primavera Soundのマイリー・サイラス
2019年、Primavera Soundのマイリー・サイラス。写真:Raph_PH / CC BY 2.0

低い声を認められたら、高い声を使う曲は歌わなくてよいのでしょうか。
マイリー本人の曲選びは、そこまで割り切ったものではありません。

2020年には、ジョニ・ミッチェルの「California」を歌いたいけれど、そのためにはファルセットを練習する必要があると話していました。
気に入った曲に自分の声を近づけていく挑戦も、彼女は楽しみにしていたのです。
低い声が自然に使える曲と、まだ練習が必要な曲の両方が、歌いたい曲の中にありました。

カバーは、自分の技術を確かめる場であると同時に、好きな音楽をファンに知ってもらう機会でもあります。
ドリー・パートンの「Jolene」を歌うことで、若いファンがその曲を知ることを、マイリーは喜んでいました。
有名な歌手の難しい曲を歌って実力を証明する、という目的だけで選んでいるわけではありません。

ここまでの曲選びを見ると、マイリーが低い声を大切にする理由もはっきりします。
歌える曲を狭めたいのではなく、自分の声を否定することなく、好きな歌へ近づきたい。
その考え方は、自分の曲を作るときにも、別の形で表れています。

「Flowers」は、最初からあの前向きな曲ではなかった

2023年の「Flowers」は、自分で自分を満たせるという思いを歌った曲です。
ところがマイリーによれば、制作初期の歌詞は、相手がいなければ自分を愛せない、という方向の内容でした。
完成した曲とは、自分と相手の関係が逆になっていたのです。

この違いは、歌い手が声に込める気持ちにも関わります。
相手を必要としている人の言葉と、自分の足で立とうとしている人の言葉では、同じ別れを扱っていても、歌が向かう先が変わります。
完成版の強さを、声の大きさだけで説明できない理由です。

制作に参加したキッド・ハープーンの話では、曲はピアノのバラードから発展しました。
マイリーがマイクを持ち、彼がベースを持って、しばらく一緒に演奏したのです。
マイリーが帰ったあと、ハープーンがその演奏をもとに曲を組み立てると、彼女も仕上がりを気に入りました。

歌詞を前向きに変えるだけでなく、体を動かしたくなる伴奏へ変えていく。
その二つがそろったことで、「Flowers」は別れの悲しみを説明する曲から、自分を励ましながら歌える曲へ進みました。
「Flowers」の前向きさは、マイリーの声質だけでなく、何を、どんな伴奏に乗せて歌うかによって作られています。

自信のある歌を歌う人にも、舞台の怖さはある

「Flowers」を堂々と歌うマイリーを見ると、もう人前で歌うことに迷いなどないように思えるかもしれません。
しかし、2024年のグラミー賞授賞式で歌う前、本人は舞台に立つ怖さと向き合っていました。
コロナ禍で大きなステージから離れたあと、人前で歌う感覚を取り戻す必要があったと振り返っています。

そのとき目指したのは、子供のころに持っていた、考えすぎずに歌える自信でした。
見た目や歌手としての経験は大人のものでも、歌う喜びにはもう一度戻りたかったのです。
「Flowers」の自立した主人公と、その曲を人前で歌う本人が、初めから同じ気持ちだったわけではありません。

だから、この曲の前向きさには、自分を励ます歌としての面白さがあります。
本人の説明を踏まえると、授賞式の堂々とした歌も、不安のない人が自然に歌った結果というより、舞台に立つ勇気を取り戻した姿として見えてきます。

マイリーの声が生きるのは、低さを隠さなくてよいとき

「Nothing Else Matters」では、低い声を歓迎する曲に出会いました。
「Flowers」では、歌詞と伴奏を変えることで、同じ自分の声から前向きな表情を引き出しました。
一方で、「California」のように、歌いたいからこそ新しい歌い方を練習する曲もあります。

この三つは、低い声に合う歌だけを選び続ける、という話には収まりません。
自分の声を直すべき欠点として扱わず、その声でどんな歌を歌いたいかを考える。
そのうえで必要な工夫や練習を選ぶところに、マイリーの歌い方の軸があります。

ただ、歌った本人が納得していても、録音の仕上げ方まで気に入るとは限りません。
『Plastic Hearts』の歌声に後年抱いた不満と、その後の録音の変化は、マイリー・サイラスの歌声の変遷でたどっています。

今入れる? 近くで入りやすい飲食店がわかる混雑予報マップ

こちらの記事もおすすめ

コメント

タイトルとURLをコピーしました