テイラー・スウィフトの歌い方|なぜデモの歌声を、そのまま作品に残したのか

2013年のテイラー・スウィフト シンガー
Georges Biard / CC BY-SA 3.0

テイラー・スウィフトの2010年のアルバム『Speak Now』では、デモの段階で録った歌声が、そのまま完成盤に使われました。
予算が足りなかったわけではありません。
好きなスタジオや演奏者を選べる状況で、周りの音は作り直しても、歌は残したのです。

代表曲「Mine」も、この方法で作られました。
この話から見えてくるのは、何度も歌い直して一音ずつ整えることとは違う、テイラーの歌の大切にし方です。
作ったばかりの言葉を歌うときの勢いや、フレーズ全体に流れる感情を、どう作品に残すのでしょうか。

仮の歌だから、捨てるとは決めなかった

『Speak Now』を一緒に作ったネイサン・チャップマンは、初期からテイラーの録音を支えてきたプロデューサーです。
このアルバムでは、まず二人で曲の骨組みを作り、そのあとでほかの演奏者も加わる方法を選びました。

デモは、完成前に曲の形を確かめるための録音です。
ただ、ここでの歌は、適当に済ませた仮歌ではありませんでした。
伴奏の速さや構成を決めたあと、テイラーは歌を3、4回録ります。
その中の一部を組み合わせることはあっても、チャップマンは歌を細かくいじりすぎないようにしていました。

あとから生のドラムなどを足しても、彼女が最初に歌ったときの流れは残る。
「Mine」の完成盤に向けた作業には長い時間をかけていますが、時間をかけることが、そのまま歌を何度も録り直すことにはなっていません。
曲を仕上げる作業と、すでに伝わっている歌を残す判断が、分けられていたのです。

一つの言葉を18回録るより、曲の流れを残したい

テイラー自身も、2008年の時点で、歌を録る回数について印象的な話をしています。
以前組んだプロデューサーの中には、一つ一つの言葉を何度も歌わせ、各単語について18テイクも集めるような人がいた。
一方、チャップマンとの録音は、歌が自然に進むことを大切にしていたそうです。

言葉を一つずつ取り出して整えれば、細かな不揃いを直せます。
でも、歌っている人が前の言葉を受けて次の言葉へ進む、その流れにも表情があります。
テイラーが気に入っていたのは、疲れるまで同じ箇所を繰り返さずに、その流れを捉えるやり方でした。

Speak Now World Tourで歌うテイラー・スウィフト
Speak Now World Tourで歌うテイラー・スウィフト。写真:Eva Rinaldi / CC BY-SA 2.0

「Love Story」の2008年の歌も、バンドと同時に録ったものが使われています。
最初はアコースティックギター、ベース、ドラムと歌という小さな編成で、ほかの楽器はあとから加えられました。
出来上がった伴奏に合わせて歌を完成させる方法だけでなく、歌と演奏が一緒に動いた瞬間から作品を作っていたのです。

「Clean」は、二度目の歌を残した

もちろん、テイラーがいつも一回目の録音を採用しているわけではありません。
2014年の『1989』に収められた「Clean」では、イモージェン・ヒープと一緒に作業し、二度目に歌ったテイクが残りました。
ヒープは、あまりにすんなり進んだので、いずれ歌い直すことになるだろうと思っていたそうです。
ところが、しばらく置いて聴いても、その歌がよかった。

この判断が面白いのは、録音が簡単に終わったことを、出来が悪い理由にしなかったところです。
苦労して歌ったから良い歌になるとも、すぐに録れたから浅い歌になるとも限りません。
歌い直せる環境があっても、すでに言葉や感情が伝わるなら、残すことを選べます。

「Mine」のデモと「Clean」の二度目の歌は、録り方が同じではありません。
それでも、歌い直した回数より、今ある歌で何が伝わっているかを確かめる点では共通しています。

静かな「peace」に残った、一回の歌

2020年の『folklore』でも、その姿勢を感じさせる録音があります。
「peace」について、共同制作者のアーロン・デスナーは、一度歌ったテイクが作品に使われたと説明しています。
伴奏は低音の動きや一定の脈を中心にしたもので、歌を大きな音の塊で包むような曲ではありません。

この曲でテイラーが話しているのは、相手を愛していても、穏やかな生活までは約束できるだろうか、という難しさです。
有名人である自分の振る舞いは選べても、外で待つカメラや、勝手に書かれる記事までは制御できない。
本人は、そうした状況で普通の生活を守ろうとする思いが、曲につながったと話しています。

背景を知ると、静かな声で言葉を重ねる理由も見えてきます。
大丈夫だと勢いよく言い切る歌ではなく、自分にできることと、どうにもできないことを、相手に伝えようとしている。
そうした事情を踏まえると、相手への思いと不安を順に伝えていく、一回の歌の流れに耳を向けたくなります。

最初の歌い方を、あとからも聴き直していた

『folklore』『evermore』の制作では、テイラーが送ったスマートフォンの音声メモも役に立ちました。
録音を担当したジョナサン・ロウによれば、そのメモの音自体を完成盤に使ったわけではありません。
それでも、そこでの言葉の区切り方や声の抑揚は、あとから歌を録るときに立ち返る手がかりになりました。

思いついたときの歌には、あとで整える際にも失いたくない表情がある。
デモを残す場合も、改めて録り直す場合も、テイラーの制作では、その表情が判断の基準になっています。
若いころの代表曲を大人になって録り直した話は、テイラー・スウィフトの歌声の変遷でたどっています。

テイラーの歌を支えてきたのは、録音の回数の少なさそのものではありません。
言葉がつながり、気持ちが動いていく一回の歌を、細かく整えるうちに失わないことです。
「Mine」の歌声がデモから残ったという話は、仮の録音でも、歌としてはすでに完成していることがあると教えてくれます。

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