新居昭乃の歌声の変遷|自分の世界を見つけ、昔の歌を今の声へ迎えるまで

新居昭乃/公式プロフィール掲載写真 シンガー
新居昭乃/公式プロフィール掲載写真

自分の歌であっても、昔と同じように歌えるとは限らない。
新居昭乃の歩みには、過去の録音と向き合う難しさと、人と歌うことで自分の枠が広がる喜びがあります。
透明感のある声という印象の奥で、彼女は何を変え、何を大切にしてきたのでしょうか。

1980年代、歌うことと自分の音楽を探すこと

新居昭乃は1986年、アニメ映画『ウインダリア』の主題歌「約束」でメジャーデビューしました。
1984年には「金色の目」でヤマハのポピュラーソングコンテストに入賞しています。
作った歌を自分で歌う活動は、デビュー以前から始まっていました。

最初のアルバム『懐かしい未来』は、経験豊かな作家や演奏家に支えられた作品でした。
しかし、本人は当時、自分のアルバムができたという実感を持てずにいたと振り返っています。

求められる音楽と自分が作りたいものが重ならず、曲を書けなくなった時期もあります。
そこから再び曲が生まれたきっかけが、『ぼくの地球を守って』の登場人物に寄せた「Moon Light Anthem」でした。
人物の世界を借りることで、自分の内側から歌を取り出せたのです。

1993年の「金色の時 流れて」では、菅野よう子の曲との出会いも大きな意味を持ちました。
新居は、頭の中にありながら形にできなかった世界に触れたと振り返っています。
声をどんな音楽の中へ置くかが、彼女自身の表現を見つける道になっていきます。

1990年代後半から2000年代、声の周りに世界ができる

1997年の『そらの庭』では、菅野や寺嶋民哉、保刈久明らとの制作が、曲ごとに異なる景色を生みました。
「人間の子供」は、もとの素朴なピアノの曲から、菅野の編曲で大きな幻想世界へ姿を変えています。
続く2000年の『降るプラチナ』からは、保刈が音楽面のプロデューサーを担いました。
長く制作を共にする仲間が集まり、歌と演奏を一緒に育てる関係が形になった時期です。

2012年には『Red Planet』『Blue Planet』を二枚同時に発表し、その曲をバンド公演で披露しました。
本編の最後には、ピアノの弾き語りで「虹」を届けています。
音や映像で世界を大きく描くことと、小さな編成で声を近くへ届けることが、同じ夜に共存していました。

新居昭乃/2012年8月の東京公演
新居昭乃/2012年8月の東京公演。
画像出典:画像掲載元

2013年の香港公演の際には、本人は表舞台より創作する側を好むと話していました。
それでも、声や曲を好きでいてくれる人のために歌い、公演を開く。
そうした言葉からは、自分の中の景色を作る作業が、聴き手のいる場所へ向かっていたことが分かります。

同年の「Unknown Vision」でも、自分の思いと作品の世界を重ねています。
保刈と鍵盤やギターで作り始めた段階では、曲の姿をつかめませんでした。
きっかけになったのは、拍子の定まらない打ち込みのループです。
そこへ旋律が生まれ、サビでは視界が開くような構成になりました。
新居は完成した歌と演奏に、長年の仲間と作ってきた音楽の到達点を感じていました。

2016年、今の自分で原点を歌い直す

30周年の『リトルピアノ・プラス』では、未知の音楽を求めるだけでなく、自分から自然に出てきたものを受け入れる制作へ向かいます。
しかし「金色の目 premiere version」は、昔の歌と比べて納得できず、録音を重ねました。
中学生の頃の原型にも近づけたこの版で、新居は今の自分の歌を問い直しています。

同年の弾き語り公演では、「Moon Light Anthem」の昔の録音を超えられないと感じることも語っています。
歌手本人にとっても、初期の歌は単純に未熟だった時代の記録ではありません。
その時だけの歌があるからこそ、歌い直す難しさもあるのでしょう。

2020年、もう一人の声が表現の枠を開く

AKINO from bless4との「月明かりのMonologue」では、自分の雰囲気を押し通すより、曲の展開や仕掛けに沿うことを意識しました。
新居は完成した歌に、一人ではできなかった表現を感じています。
自分にできることは限られているという思いも、共演によって動きました。
長く守ってきた世界の外に出ることが、新しい歌い方に出会う機会になったのです。

新居昭乃(左)とAKINO from bless4/2020年
新居昭乃(左)とAKINO from bless4/2020年。
画像出典:画像掲載元

同じ2020年には、観客のいない配信公演という変化もありました。
5月の配信ライブは、緊張したまま終わったと振り返っています。
次の「旅のスフィア」に向けた準備では、観客がいて初めてできる場と、その時だけのエネルギーの大切さを語りました。

一方、保刈は2004年の「NEW WORLD」に新しいアレンジを施しています。
離れていても音楽を届ける方法を探す中で、以前の曲も作り直す。
配信への移行は、会場だけを替える出来事ではなく、聴き手との関係を考え直す時間にもなりました。

2022年、歌を録る環境も自分たちの手へ

自身のレーベルから発表した『ミツバチの羽音』では、10曲中8曲のサウンドプロデュースとアートワークを新居が手がけています。
長年の協力者と作る音楽でありながら、自分で形にする範囲がさらに広がった作品です。

歌は保刈の制作環境で録りました。
決められた時間に合わせるだけでなく、録れそうなら録るという進め方に、新居は気持ちの楽さを感じています。
長年の協力関係が、落ち着いて歌える録音の条件にもつながりました。

2026年、昔の曲を今の演奏から作り直す

40周年の『Akinosphere』は、初期の曲を中心に選んだセルフカバーアルバムです。
過去のアルバムを全曲演奏する公演シリーズで、保刈が手がけたアレンジを土台に制作されました。
「VOICES」や「Moon Light Anthem ~槐1991」などに加え、牧野由依に提供した「Tale of Blue」も取り上げています。

昔の録音を並べ直す記念盤ではなく、ライブで育った演奏から、今の作品を作る。
原点の歌と新しく迎える歌が、一枚の中で出会う形になりました。
2016年の歌い直しからさらに時間を経て、旧曲と向き合う機会が、アルバム全体へ広がっています。

新居昭乃の変遷は、透明感を保ったかどうかだけでは捉えきれません。
自分の歌を探すこと、仲間の音に導かれること、過去の声と向き合うこと、共演で思い込みをほどくこと。
その積み重ねが、昔の歌を今も歌い続ける表現につながっています。

曲の中での声の選択は、新居昭乃の歌い方で詳しく取り上げています。

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