Evanescenceのエイミー・リーは、「Sweet Sacrifice」を作っていたとき、歌とギターの動きが重なる部分ができたことに興奮したと話しています。
あのサビの迫力を作るために、彼女は声と伴奏の関係まで考えていました。
サビに入るまでに何を歌うか。ギターとどう重なるか。そして、いちばん伝えたい旋律をどこから歌い始めるか。
エイミーは歌う人であると同時に、そうした展開を作る人でもあります。
「Going Under」「Sweet Sacrifice」「Wasted On You」の制作の話からは、強い声が、曲のどの瞬間で力を発揮するのかが見えてきます。
「Going Under」は、助けを求めるだけの歌ではない
2003年の『Fallen』は、「Going Under」から始まります。
エイミーたちは、この曲を最初のシングルにしたいと考えていました。
実際に先に世に出たのは「Bring Me to Life」でしたが、アルバムの最初には、自分たちが選びたかった曲が残ったのです。
エイミーがこの歌に感じていたのは、傷ついている人が自分の意志で状況を変えようとする強さでした。
苦しい関係から抜け出すと決めているのに、まだ相手にのみ込まれそうになる。
「Going Under」には、その二つの気持ちが同時にあります。
そのため、サビで声が強くなることも、単純な勝利宣言にはなりません。
決意した人が、それでも苦しさを訴えている歌として読むと、強い声は、そこから抜け出そうとする必死さにも結びつきます。
ここに、このサビを切実な訴えとして受け取れる理由があります。
エイミーの迫力を味わうなら、サビの高音だけを待つより、歌い始めにどんな態度を示していたかも覚えておきたいところです。
「もう終わりにする」という意志を持った人物が、その後に何を訴えるのか。
曲の前半とサビをひと続きに捉えることで、大きな声の意味もはっきりします。
「Sweet Sacrifice」では、声とギターが一緒にサビへ向かう
その盛り上がりを、言葉だけでなく音の組み合わせから作った例が、2006年の『The Open Door』に収められた「Sweet Sacrifice」です。
バンドの共同創設者でギタリストのベン・ムーディーが去ったあと、エイミーは新たなギタリスト、テリー・バルサモと曲を書いていました。
彼女が振り返っているのは、サビへ向かう途中で、ギターと歌の動きが重なる部分です。
二人は、その組み合わせができたことに興奮したといいます。
ここでは、歌が伴奏の上に乗るだけでなく、ギターと一緒に曲を進める役割を持っています。
歌の旋律とギターの動きが呼応すると、サビへ向かう勢いを声ひとつで背負う必要がありません。
バンドの演奏も、その声と同じ方向へ動いてくれるからです。
この部分を聴くときは、サビそのものの大きさに加えて、そこへ入る手前の歌とギターにも耳を向けてみてください。
サビで急に力を出すのか、その前から演奏と一緒に期待を高めているのかで、同じ強い声でも働き方は変わります。
ベンが去ったことで、次の作品は穏やかな音楽になると考えた人もいました。
ところが、エイミー自身も重い音楽が好きで、テリーとの制作から生まれたのは、さらに激しい面もある音楽でした。
彼女は重い伴奏に合わせて歌わされているだけの人ではありません。その迫力を、ギターと声の両方から組み立てていたのです。
「Wasted On You」では、声だけでサビを作った
では、エイミーの歌には、いつも重い演奏が先に必要なのでしょうか。
2020年に発表され、翌年の『The Bitter Truth』に入った「Wasted On You」は、逆の順序で生まれました。
当時のエイミーは、曲のアイデアが出ると、すぐにパソコンで録音や音作りを始めていました。
音を作り込むほど、その形が気に入ってしまい、自由に変えにくくなる。
そこでこの曲では、機材に触る前に、家のポーチで歌いながらサビの旋律と言葉をまとめたのです。
本人は、この曲がサビから始まるのも、その作り方と関係していると話しています。
頭の中で最初にできた、歌として伝えたい部分から、曲そのものも始まったわけです。

「Sweet Sacrifice」では、声とギターがサビへの勢いを作っていました。
「Wasted On You」では、伴奏を作り込む前に、歌の旋律と言葉を成立させています。
この順序を知ると、エイミーの歌を、壮大な音の中から出てくる高音としてだけでなく、一曲の中心になる旋律として追いやすくなります。
歌い出しですでにサビを聴いているので、そのあとに同じ旋律が戻ってきたとき、曲がどう展開したかにも気づけます。
最初に受け取った言葉が、曲の続きを経て、どんな重みを持つのか。
強い声が出る瞬間だけでなく、繰り返して歌われる意味まで楽しめる構成です。
サビの強さは、その前後の歌にもある
エイミーの歌の迫力には、曲を作る側の判断が深く関わっています。
「Going Under」では、抜け出す決意と、まだ消えない苦しさを同じ人物に歌わせる。
「Sweet Sacrifice」では、声とギターの動きを重ねてサビへ向かう。
「Wasted On You」では、声で確かめた旋律を曲の最初に持ってくる。
サビだけを取り出すと、どれも「力強い歌声」と呼べるかもしれません。
曲全体で追うと、何を訴える声なのか、どの演奏と一緒に盛り上がるのかが、それぞれ違います。
その違いを自分で作れるところに、歌手とソングライターを兼ねるエイミーの面白さがあります。
既存の曲の伴奏を組み直すと、彼女自身の歌い方も変わりました。
オーケストラを取り入れた『Synthesis』での挑戦は、エイミー・リーの歌声の変遷でたどっています。
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