ターヤ・トゥルネンは、オペラを思わせる歌声でメタルを歌う人として知られています。
2004年のアルバム『Once』に収められた「Nemo」は、その組み合わせを代表する一曲です。
ところが本人は、自分のことをオペラ歌手とは考えていません。
主に学んできたのは室内楽の声楽で、クラシックとロックでは声の使い方を変えているといいます。
例えば、クラシックとロックを同じ公演で歌った際には、曲に応じてマイクを替え、ロック曲ではクラシック曲より声量を抑えていました。
力強い声を持っていても、歌う曲に合わせて、どれくらいの大きさで声を出し、マイクにどう拾わせるかを変えているのです。
「オペラのように聞こえる声」と、オペラ歌手の仕事
オペラでは、歌手が物語の登場人物を演じながら歌います。
一方、ターヤが自分の専門として挙げるのは、少人数の演奏家と声を合わせる室内楽です。
クラシックの声楽を学んだことと、オペラの舞台を職業にしてきたことは、同じではありません。
本人は、自分の声が最もよく響くと感じる音楽としても、室内楽を挙げています。
毎年のクリスマス公演で歌ってきた「アヴェ・マリア」を録音しようとしたのも、その得意な音楽を一枚の作品にする試みでした。
そこから生まれたのが、2015年発表の『Ave Maria – En Plein Air』です。
もっとも、得意な分野だから、すぐ録音できたわけではありません。
長年ロックで活動していたターヤは、この作品のためにほかの音楽活動を控え、先生と曲を確認しながら数か月にわたって声を整えました。
若いころから学んできた歌い方でも、それだけに集中できる時間が必要だったのです。
クラシックの公演では、演目の技術的な難所を考え、ロックの公演より入念に声を準備するとも話しています。
一方、ロックのステージでは、客席の反応から力をもらい、その場の気持ちで動けるといいます。
ターヤ自身は、クラシックでは難しい演目を歌いきることに緊張し、ロックでは観客と盛り上がることを楽しんでいるのです。
ロック曲では、声量を抑えてマイクを近づけることもある

ドラマーのマイク・テラーナと行った『Beauty & the Beat』は、オーケストラと合唱にドラムを加えた公演です。
クラシックからロックまでを一つのステージで演奏したため、ターヤは公演中に両方の歌い方を切り替える必要がありました。
クラシックの曲では、スタンドに取り付けたマイクを、口からおよそ30センチ離して使います。
自分の自然な声を聴き、両手も自由にして歌いたいからです。
ロック曲になると、手持ちのマイクに替え、声をより明瞭に拾わせました。
本人によると、この公演のロック曲では、クラシック曲よりも声の音量を下げていたそうです。
重い音楽を歌うからといって、声まで常に最大にするわけではありません。
マイクとの距離や使い方も含めて、その曲で欲しい声を作っています。
会場で大きく聞こえる歌声と、歌手が口から出している声の大きさは、分けて考える必要があります。
ただし、クラシックとロックを行き来するのは、本人にとっても簡単ではありませんでした。
曲順を慎重に組み、テラーナのソロ演奏中には舞台裏で休み、次の曲へ集中し直していたといいます。
歌い方の異なる曲を続けて歌う負担を考え、曲順と休む時間も調整していたのです。
「The Siren」で、後任のフロールが好きになった歌い方
ターヤは、クラシックとロックで歌い方を変えるだけでなく、一曲の途中でも声色を切り替えています。
Nightwishの「The Siren」では、その歌い分けを後任の歌手も気に入っていました。
「Nemo」と同じ、2004年の『Once』に収録された曲です。
この曲では、ターヤと、ベースも担当するマルコ・ヒエタラが歌っています。
女性と男性という二人の声の違いに注目したくなりますが、のちにNightwishの歌を引き継いだフロール・ヤンセンが好きだと話したのは、ターヤ一人の中で歌い方が変わる場面でした。
フロールが挙げたのは、中東風の旋律を歌うところで、ターヤがチェストボイスへ切り替える部分です。
クラシカルな響きとは違う、地声を思わせる歌い方が出てくることを面白がっていました。
声の高さだけでなく、どんな声色で旋律を歌うかにも、曲の個性があると分かる指摘です。
フロールは、加入時にこの曲を短期間で覚える必要がありました。
好きだった曲を、今度は自分でも歌えるように覚えなければならなかったのです。
後任の歌手が気に入ったのが、あの堂々とした声そのものだけでなく、そこから違う歌い方へ移る瞬間だったことに興味をひかれます。
こうした歌い分けを身につけるまでの苦労と、その後のソロでの変化は、ターヤ・トゥルネンの歌声の変遷でたどれます。
自分のアルバムでも、共演者の声を中央に置く

もう一人の歌手と歌うときには、相手の声をどう生かすかも重要になります。
2019年の『In the Raw』に収められた「Goodbye Stranger」では、Lacuna Coilのクリスティーナ・スカビアと共演しました。
この曲は、初めから二人用に書いたものではありません。
ターヤが自分の声のために作った曲を、制作の途中で女性同士のデュエットにできると考えたのです。
クリスティーナとは以前から共演を話し合っており、ようやくその声を生かせる曲が見つかりました。
そこで、自分が主役のアルバムでも、ターヤは相手を目立たせる配置を選びます。
録音ではクリスティーナの声を左右のスピーカーの中央から聞こえる位置に置き、自分の声は左右に振り分けました。
伴奏の楽器もギター、ベース、ドラムに絞り、二人の声が歌の表情を作る編成にしています。
本人が共演者に求めるのは、指示した旋律をただなぞってもらうことだけではありません。
共演者にも、歌い回しや表情を自分で考えて歌ってほしいといいます。
ターヤ自身、ゲストとして呼ばれたのに表現を任せてもらえなければ、窮屈に感じるからです。
クリスティーナの声が自分とは違うことを歓迎し、その違いが分かる録音にしたのでした。
この共演には、二人それぞれの個性が出ていると喜ぶファンの評もあります。
それぞれに自分らしく歌ってもらい、声の違いが聞き分けられるように録音を仕上げる。
歌う相手を選んだ後も、ターヤは二人の個性を生かすために工夫していました。
ターヤの歌い方を知るには、声量や最高音に加えて、曲の中で何を選んでいるかに注目すると理解が深まります。
「The Siren」で声色を変えることも、「Goodbye Stranger」で共演者を中央に置くことも、曲に合う歌を作るための選択です。
クラシックで育てた声を大切にしながら、その響かせ方を曲や相手に合わせて変えられるところに、ロックを歌うターヤの工夫があります。
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