ティモ・コティペルトが、アコースティックのライブを録音しているファンに、なぜ毎曲録っているのか尋ねたことがあります。
返ってきたのは、この歌い方を家でも聴きたい、アルバムを作ってくれないか、という言葉でした。
Stratovariusの曲なら、すでにレコードがあります。
それでもファンが欲しかったのは、ギター一本で歌い直された、その日の演奏だったのです。
コティペルトとヤニ・リマタイネンの『Blackoustic』(2012年)は、そうした期待を受けて作られました。
ただし、聴いた人が全員すぐに喜んだわけではありません。
「Black Diamond」の勢いが抑えられたことに、最初はがっかりした評者もいます。
高い声と速い演奏で親しまれた曲を、なぜ別の歌い方で残すことになったのか。
その変化を考える出発点になるのは、やはりバンドで歌う「Black Diamond」です。
2011年11月19日のタンペレ公演でも、コティペルトはこの代表曲を歌っていました。
1990年代――高い曲を歌い、声の手応えを増やしていく
コティペルトが初めてStratovariusのアルバムに参加したのは、1995年の『Fourth Dimension』です。
それまで歌とギターを兼ねていたティモ・トルキに代わり、リード・ボーカルを担当するようになりました。
『Episode』(1996年)、『Visions』(1997年)と作品が続き、「Father Time」や「Black Diamond」が生まれます。
本人にとって、この頃の録音は楽な仕事ではありませんでした。
『Episode』期には、高い歌を八時間も続けて歌えるものではないと話しています。
一方で、トルキは自分の歌をよく理解してくれる、厳しく優れたプロデューサーだとも評価していました。
難しい歌を要求されたことと、その仕事を通じて得たものの両方があったのです。
1999年、初参加作から歌がどう変わったかを聞かれると、コティペルトは、歌うことが次第に楽になり、声も強く、色合いが増してきたと答えました。
高い旋律を歌う経験を重ねる中で、自分の声への手応えも育っていました。
その声で歌った「Black Diamond」は、長くライブの代表曲になります。
冒頭のタンペレ公演は、1997年のスタジオ録音から十四年後のバンド演奏です。
ところが翌2012年には、同じ歌手が、同じ曲をギター中心の小さな編成でも残すことになります。
2012年『Blackoustic』――ライブの歌を、家でも聴きたいファンのために
『Blackoustic』で組んだヤニ・リマタイネンは、元Sonata Arcticaのギタリストです。
ヤニも歌に加わり、二人はStratovariusやコティペルトのソロ曲、好きなバンドの曲を、アコースティックのライブで演奏していました。
少人数の演奏では間違いもよく聞こえてしまいますが、二人はそこで笑い、ときにはコメディーのようなステージになるそうです。
バンドで代表曲を歌うときとは違う、客との親しさもあるライブでした。
ファンが持ち帰りたいと思ったのは、この二人組の演奏です。
ただ、コティペルト自身は、初めからアルバムが売れると思っていたわけではありません。
2013年の取材では、歌手とギタリストの二人組の録音を、誰が欲しがるのかと疑っていたことも話しています。
当初は自分たちでフィンランドだけで出すつもりでしたが、レコード会社も関心を示し、海外へも届ける作品になりました。
ただ、メタルの曲から電気楽器を外せば、そのままアコースティックの歌になるわけではありません。
本人によると、ギター一本と二人の歌で成立する曲を選び、編曲するまでに時間がかかりました。
フルバンドではドラムやベース、キーボードが受け持つものを、少ない人数でどう表すか。
声の勢いを保つところも、抑えるところも、元の演奏とは違う釣り合いを考える必要があります。
録音場所は、コティペルトの別荘でした。
二週間ほどで終わる予定が、実際にはもっと長くかかったそうです。
気軽なライブから始まった二人組でも、家で繰り返し聴ける一枚にするには、演奏の形を練り直さなければなりませんでした。

「Black Diamond」に失望した人が、聴き直して気づいたこと
『Blackoustic』では、コティペルトはバンド版より声の勢いを抑えて歌います。
この変化を楽しんだ評者は、「Black Diamond」に陰りや感情のこもった歌唱を聴いていました。
いつもの力強さから少し離れたことで、同じ曲の別の表情が伝わったのです。
一方、この版を最初に聴いたときには落胆した、と振り返った評者もいます。
「Black Diamond」は、大好きなStratovariusの名曲でした。
その曲を期待して聴くと、勢いが抑えられた演奏は、よかった部分を変えてしまったように感じられたのです。
ところが後に聴き直すと、その人の耳は、元の演奏との迫力の差より、言葉の扱い方へ向かいました。
もともと「Black Diamond」の歌詞には、相手に強く惹かれながら、ずっとそばにはいられないという切なさがあります。
言葉に合わせてリズムを整えた歌い回しを聴いて、その評者は、愛を歌う内容が以前より伝わってくると感じたのです。
初めは物足りなさとして聞こえた変化に、歌詞を聴かせる意味を見いだしました。
この反応は、静かに歌えば必ず歌詞がよく伝わる、という話ではありません。
その評者は、同じアルバムの「Hunting High and Low」では、落ち着いた始まりから速い部分へ移る展開になじめなかったとも書いています。
「Black Diamond」ではうまくいったと感じた歌い直しが、別の曲では同じように響かなかったのです。
高音と速い演奏を楽しんでいた曲が、誰かを思う言葉に耳を傾ける曲にもなった。
「Black Diamond」の歌い直しには、そんな聴き方の変化を起こす面白さがありました。
2013年――「Black Diamond」を、今度は鍵盤と歌う
小さな編成で歌う試みは、ヤニとのアルバムだけで終わりませんでした。
2013年の『Nemesis』の宣伝では、Stratovariusのキーボード奏者、イェンス・ヨハンソンと二人で歌う企画も持ちかけられます。
コティペルトにとって、イェンスとこの形で演奏するのは初めてでした。
本人は、ギターまでなくした状態で成立する曲は多くないと話しています。
それでも、イェンスの演奏なら取り組みやすかった。
慣れたバンド仲間であっても、人数と楽器が変われば、同じ曲をどう演奏するかを改めて考える仕事になります。
Gibson Showroomの「Black Diamond」では、歌とキーボードだけで曲を演奏しています。
これは2012年の『Blackoustic』の録音ではなく、翌年の『Nemesis』期に公開された、イェンスとの演奏です。
2011年のタンペレ公演ではフルバンド、2012年の『Blackoustic』ではヤニのギター、そしてこの演奏ではイェンスの鍵盤。
わずか数年の間に、コティペルトは同じ代表曲を、違う伴奏の中で歌っていました。
バンドで歌い続けている曲に、ギタリストやキーボード奏者と二人で聴かせる歌い方を加えていたのです。

名曲の勢いと、歌詞を聴く楽しさを、別々の演奏に残す
1990年代のコティペルトは、高い曲を歌う経験を重ね、自分の声が強く、豊かになったと感じていました。
『Blackoustic』では、その歌手が声の勢いを抑え、ヤニのギターと一緒に過去の曲を組み直します。
「Black Diamond」を聴き直した評者の反応も、勢いが足りないという落胆から、愛の歌として伝わってくるという評価へ変わりました。
バンド版で好きになった曲を、アコースティック版でも必ず好きになる必要はありません。
それでも、元の演奏の勢いを期待する聴き方と、歌い回しや歌詞を追う聴き方では、気づくものが変わる。
コティペルトたちは、同じ名曲を、その両方で聴けるように残しました。
さらに2022年の『Survive』では、歌う本人の感触を、新曲の制作へ反映する作り方に取り組んでいます。
『Survive』で自分の歌のメロディーからサビを組み立てた話や、本人にとって歌いやすい高音の違いは、ティモ・コティペルトの歌い方で扱っています。
出来上がった曲の歌い直しでも、新しい曲の制作でも、声をどう聴かせるかを、伴奏と一緒に考える歌手なのです。
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