トニー・カッコ(Sonata Arctica)の歌声の変遷|歌い直したからこそ分かった、昔の声の魅力

2025年のソナタ・アークティカ公式プロモーション写真に写るトニー・カッコ シンガー

フィンランドのメタルバンド、Sonata Arcticaで歌うトニー・カッコは、15年ぶりにデビュー作を録音し直しました。それでも1999年の原盤のほうが好きだと話しています。
2014年の再録は、歌も演奏も以前より正確になりました。
それでも、若いメンバーが勢いのまま演奏したときの危うさは、練習して取り戻せるものではなかったのです。

一方で、昔の高い声を出し続けることが、本人にとって理想だったわけでもありません。
Sonata Arcticaの速い曲で知られる彼は、初期の高さが当時から難しく、その後は録音の重ね方や歌うキーを選び直してきました。
「昔の歌が好き」と「今は別の歌い方をしたい」は、トニーの中でどうつながっているのでしょうか。

デビュー作『Ecliptica』に収めた「Kingdom for a Heart」も、2014年に歌い直しています。

1999年|憧れた高音は、デビュー当時から難しかった

『Ecliptica』でのトニーは、速い曲に高い旋律を重ねて歌っています。
当時、目標にしていたのはStratovariusのティモ・コティペルトでした。
大きく高く歌う彼に憧れ、トニーもその方向へ曲を書き、声を出していたと振り返っています。

ただ、レコードに残っている高さを、本人が楽に歌えていたとは限りません。
トニーによれば、最初のアルバムはスタジオでも苦労し、若いころのライブでも初期曲を続けて歌うのは大変でした。
地元で公演はしていたものの、高い歌を何曲も続けるメタルのツアーには慣れていなかったのです。

「Kingdom for a Heart」を『Ecliptica』に収めた1999年から再録までの15年間に、トニーは高い声との付き合い方を変えていきました。

2007~09年|声を重ねすぎた曲から、一人で歌える旋律へ

初期曲を歌い続ける一方で、バンドの新曲も変わっていきます。
2007年の『Unia』では、それまでの速さを前面に出す作りから離れ、トニーはやりたい曲を自由に作りました。
後年の本人の説明では、長いツアーで疲れていた時期でもあり、バンドの方向を大きく変えたのは自分だったといいます。

声については、別の問題が生まれました。
『Unia』ではトニーの歌をいくつも重ね、録音の中に何人ものトニーがいるようなコーラスを作ったのです。
2009年、本人はその歌をライブで再現するのは複雑すぎたと振り返りました。

次の『The Days of Grays』(2009年)では、トニーは一人の歌い手がたどれる旋律を中心に考えました。
ピアノやギターだけでも歌える形にするためです。
同じ取材では、柔らかい声、澄んだ声、攻撃的な声を使い分け、ライブで試したことも録音へ生かしていると話しています。
高い声を出すかどうかだけでなく、声を何本重ね、どんな声色で歌を届けるかが変わっていたのです。

2014年|歌い直したからこそ、原盤の良さが分かった

『Ecliptica』再録と同じ2014年のソナタ・アークティカ公式プロモーション写真

日本のレーベルから提案を受け、バンドはデビュー作を2014年のメンバーでもう一度録音しました。
『Ecliptica – Revisited』は音質を整えただけの再発売ではなく、トニーも歌を新たに録っています。
かつての曲をできるだけ元に近い形で残す方針でしたが、同じ演奏を機械的に再現したわけではありません。

トニーは2015年の取材で、一部の曲は元のキーが自分には高すぎたため、すでにライブでしていたようにキーを下げたと説明しました。
キーとは曲全体を歌う高さのことです。
若いころの録音をそのまま再現するより、繰り返し歌える高さを選んだのです。
どの曲をどれだけ下げたかは、その発言だけでは特定できません。

再録を作った鍵盤奏者ヘンリク・クリンゲンベリも、一部の曲のキーやソロを変えたと話しています。
1999年と2014年の「Kingdom for a Heart」も、声だけを入れ替えた二つの音源ではなく、メンバーと演奏を含めて録り直した二つの版です。

再録へ向かう前、15周年ツアーの準備で、10年以上聴いていなかった昔の曲を聴き返す機会がありました。嫌な作業になると予想していたのに、トニーは自分が笑顔になっていることに驚いたと話しています。

それでもトニーは、歌と演奏が正確になったことを認めたうえで、原盤を好むと言いました。
初期の演奏には、予定どおりに進むか分からない勢いがある。
2014年の技量を持ってしても、若いころの無邪気さまで演じ直すことはできなかったのです。
ここで彼が惜しんでいるのは、高い音そのものではなく、その時期にしか録れなかったバンドの姿です。

2016年|高音を捨てず、自然な高さで役を演じる

2016年の新曲では、歌う高さを選ぶ姿勢がさらに前に出ます。
『The Ninth Hour』(2016年)の取材では、数作かけて少し低い音域へ寄せ、この作品では自然に歌える高さを以前より多く使ったと説明しました。
高音も残しながら、声色を変え、曲の人物を演じるように歌うことが増えたというのです。

トニー自身は、自然な高さならライブでも無理を減らせると考えていました。
1999年に「高く歌う歌手」に憧れて作った曲から、2016年には自分の声が生きる高さを考えて曲を歌うようになっています。

中音域でどんな声色を使い分けるかは、トニー・カッコの歌い方で、曲ごとの表現を中心に扱っています。

2022年|曲を声に合わせて、伴奏から作り直す

アコースティック作品の発売前に公開された、2021年のソナタ・アークティカ公式プロモーション写真

曲の高さを考え直す試みは、2022年の『Acoustic Adventures』でさらに進みました。
アコースティックギターやピアノを中心に、過去曲の伴奏も組み直した作品です。
突然思いついた企画ではなく、以前のアコースティック演奏や2019年のツアーを経て、2020年に録音されました。

トニーによれば、元のキーのままでは、静かな伴奏の横で自分だけが強く歌わなければならない曲がありました。
そこで自然に歌える高さを探し、独唱とコーラスで使う声色を増やしたのです。
新しい伴奏に合う声を出すため、曲と歌の両方を調整しました。

本人は2022年の取材で、メタルとアコースティックの公演のどちらかだけを選ぶなら、迷わず後者にすると話しました。理由は楽だから、だけではありません。静かな編成では、声にもっと多くの色や細かな表情を加えられるからです。

2003年の『Winterheart’s Guild』に入った「Victoria’s Secret」も、2022年にアコースティックで歌い直した曲です。
2014年の『Ecliptica』再録では昔のアルバムをできるだけ元に近く録り直しましたが、こちらは伴奏から組み直し、声の使い道を探しました。

2024年|速い曲へ戻ることと、初期の高さへ戻ることは別

「Angel Defiled」を収めた『Clear Cold Beyond』(2024年)では、Sonata Arcticaは速い曲を再び前に出しました。
アコースティックでの長いツアーのあとに違う音楽を演奏したくなり、初期曲を歌った記念公演では観客の反応に力をもらったとトニーは話しています。

ただし、曲が速くなったことと、1999年の高さへ声を戻したことは同じではありません。
2024年の取材でも、トニーは初期曲のライブではキーを下げてきたと説明しています。
かつて憧れた高音は今も歌えるとしながら、自分が好むのは、少し荒さも加えられる中音域だと語りました。

歌い直した『Ecliptica』を聴いて原盤を選んだのは、現在の歌を否定したからではありません。
1999年の原盤には、今は作り直せない若さの勢いがあります。一方、アコースティック公演でトニーが見つけたのは、当時は使い切れなかった声の色を生かせる自由でした。
速い曲へ戻った今も、若い日の録音を消さずに、自分の声で歌い続ける方法を増やしてきたのです。

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