デビュー作を、15年の経験を積んでもう一度録音する。
演奏も歌も上達したはずなのに、トニー・カッコは、1999年の『Ecliptica』原盤のほうが好きだと話しています。
2014年の再録には、若いころの熱意や、何も分からず飛び込んだ無邪気さを、そのまま持ち込むことはできませんでした。
それでも、昔の歌い方を変えずに守り続けたわけではありません。
ライブで歌ってきた方法を録音に取り入れ、声を生かしやすい高さを選び、アコースティックでは伴奏から作り直してきました。
同じ曲を歌い続けることが、同じ歌い方を続けることにはならなかったのです。
「Kingdom for a Heart」――2014年の『Ecliptica – Revisited』再録版
1999年の高音は、若い本人にも簡単ではなかった
『Ecliptica』で歌っていたトニーには、目標にした声がありました。
ストラトヴァリウスのティモ・コティペルトです。
本人によれば、大きく高い声でティモのように歌おうとしていましたが、それは自分が自然に歌える音域よりも高いものでした。
初期曲を歌う難しさは、年齢を重ねてから突然生じたものではありません。
トニーは、デビュー当時のスタジオ録音でも苦労し、若いころからライブで歌うのが大変だったと振り返っています。
それまでも歌ってはいましたが、メタルの公演で高い歌を何曲も続ける経験は、まだ十分ではありませんでした。
1999年の「Kingdom for a Heart」は、その時期の歌を残した曲です。
この原盤の歌い方を完成形と見なし、その後を衰えとして読むと、本人が初めから抱えていた難しさを見落としてしまいます。
レコードに残せた歌を、毎晩の舞台でも歌えるようにすることが、早くから課題だったのです。
実際、過去の曲を歌い直す試みは、2014年より前に始まっていました。
2006年のベスト盤『The Collection』では、「Replica」と「My Land」を再録しています。
何度もライブで演奏した2曲を、その時点での演奏の仕方で録音しようと考えたのです。
トニーは、技術的には良くなった一方、録り直せば原盤の感触をいくらか失うとも話していました。
歌えるようになったことを増やすだけで、昔の録音をすべて置き換えられるわけではない。
その感覚を、デビュー作全体に向き合う前から持っていました。
2014年、整えた再録にも戻せなかったもの

『Ecliptica – Revisited; 15th Anniversary Edition』は、日本のレーベルの提案から始まった企画です。
トニーたちは、2014年のメンバーでデビュー作を録音し直しました。
昔の録音の音質を調整しただけの再発売ではなく、演奏も歌も新しく録った作品です。
鍵盤のヘンリク・クリンゲンベリによれば、編曲を大きく作り替えることは避け、音作りを更新し、一部の曲のキーやソロを変えました。
ここでのキーは、曲全体をどの高さで演奏するかという意味です。
声だけを同じ伴奏に差し替えた比較ではなく、バンドの演奏ごと変わっています。
ヘンリクは、原盤ではテンポが上下し、若い演奏の危うさも魅力になっていたと説明しています。
経験を積めば、演奏はそろいやすくなる。
しかし、当時の不安定さから生まれていた勢いまで、意図して再現できるとは限りませんでした。
トニーも、再録の歌や演奏は正確になったと認めながら、自分は原盤のほうを好むと話しています。
若さや無邪気さを失った代わりに、成熟した技量を得たという考えでした。
昔の録音が好きなことと、今の自分が成長したと感じることは、本人の中で両立しています。
「Kingdom for a Heart」の1999年版と2014年版にも、この15年を隔てた演奏と歌が残っています。
冒頭の再録版と、前の節の原盤は、同じ曲を違う時期のバンドがどう演奏したかを確かめられる2本です。
言葉が明瞭になっても、切迫感を惜しむ人はいた
原盤と2014年版を聴き比べたあるファンは、「My Land」は発音と歌い進め方が整い、歌詞が分かりやすくなったと評価しました。
一方、「Replica」ではサビに間を取る歌い方へ変わり、原盤の切迫感が弱まったと感じています。
ただ、同じ人が見たヒューストン公演では、その「Replica」の間が、客席も一緒に歌う時間になっていました。
録音を一人で聴くと物足りなくても、公演に参加していると楽しい。
言葉をどう進め、どこに間を置くかの評価は、聴く場面によっても変わったのです。
再録で歌い方を整えれば、必ず原盤より好まれるわけではない。
先へ急ぐような歌に魅力を感じていた人には、落ち着いて歌うことが、その曲の良さを減らしたようにも聞こえます。
正確さと勢いのどちらを重く見るかで、同じ再録への感想も変わります。
2016〜2022年、自分の声に合う高さと伴奏を選び直す
再録の後も、トニーは自分の声をどう使うかを考え続けます。
2016年の『The Ninth Hour』では、以前より自然な音域を使い、声で演技をすることが増えたと話していました。
高音を出せることと、その高さで欲しい表現ができることを分けて考え、少し低い音域も積極的に使うようになったのです。
2022年に2枚が発売された『Acoustic Adventures』では、過去の曲の伴奏まで変えました。
2019年のアコースティックツアーでの演奏をもとに、2020年に録音した作品です。
電気楽器で演奏していた曲を、アコースティックギターやピアノに合う形へ編曲し直しています。

このときの課題は、ただ演奏の音量を小さくすることではありませんでした。
元の曲の高さのままでは、トニーは強い声を出さなければならず、仲間が作る落ち着いた雰囲気と歌が合わなくなることがあったといいます。
そこで、自然に歌える高さを探し、独唱やコーラスで、もっと多様な声色を使えるようにしました。
必要だったのは、この編曲の穏やかな雰囲気を保ったまま、トニーが声色を変えて歌える高さです。
キーを変えることは、歌いやすくするだけでなく、曲の表情を変えるためでもありました。
本人にとっては、メタルの大きな演奏音に埋もれていた細かな声色を、生かせる機会にもなりました。
『Acoustic Adventures – Volume Two』の「Victoria’s Secret」は、2003年の『Winterheart’s Guild』に収められた曲を歌い直したものです。
『Ecliptica』再録で同じバンド編成の演奏を更新した後、今度は楽器の響きから変え、歌に合う条件を探していました。
トニーが中音域で好む声の質感や、曲の人物を演じる歌い方は、トニー・カッコの歌い方で詳しく扱っています。
2024年以降、歌い方を変えても速い音楽には戻れる
アコースティック作品を作った後の『Clear Cold Beyond』(2024年)では、速いパワーメタルの曲が再び多くなりました。
トニーが理由に挙げたのは、長いアコースティックツアーを終えて違う音楽を演奏したくなったことや、記念公演で初期曲に沸く観客から力をもらったことです。
昔の曲は、録音し直して検討する対象であると同時に、今も公演を盛り上げる曲でした。
ただし、速い曲ばかりを詰め込もうとはしていません。
本人は、速い曲だけが続けば速さを感じにくくなると考え、異なる勢いの曲との配分も重視していました。
『Clear Cold Beyond』の「Angel Defiled」も、高速曲を再び前に出した時期の歌唱です。
2026年には、結成30周年を祝う単独シングル「Freedom Concept」も発表しました。
さらに9月には、フィンランドの公共放送Yleの記念公演で、放送交響楽団と共演しています。
速いバンド演奏へ戻りながら、別の編成で歌う活動も続いています。
初期のトニーは、憧れた歌手のような高音を出そうとし、その曲をライブで歌い続ける難しさに向き合いました。
再録では言葉の運びを変え、アコースティックでは、声と伴奏が合う高さを探し直します。
1999年の録音にあった危うい勢いは、後から身に付けた正確さで代用できるものではありませんでした。
それでも、自分に合う声や編曲を見つけることで、昔の曲を新たな形で歌い続けられます。
原盤には原盤の魅力があり、今の歌手には今できる歌い方がある。
『Ecliptica』の再録からアコースティック化を経て高速曲へ戻る歩みには、その両方を選んできたトニーの姿が表れています。
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