あまりに高いメロディーを渡されて、それなら自分で歌ってみてほしいと言い返す。
Stratovariusのティモ・コティペルトにも、そんな経験があります。
相手は、当時の曲作りを担い、自身も歌手だったギタリストのティモ・トルキでした。
高音で知られるコティペルトでも、どんな高い旋律でも同じように歌えるわけではありません。
そして本人は、渡された旋律をどう歌うか考えるだけでなく、メロディーのほうも自分の声に合わせて作るようになっています。
では、コティペルトにとって、声に合う高音とはどんなものなのでしょうか。
2022年の『Survive』では、コティペルトの歌のメロディーをもとに、メンバーがサビを組み立てました。
歌手が出来上がった曲に合わせるだけでなく、歌いながら曲も作る。
この作り方を本人が気に入った理由から、彼の高音を考えていきます。
「S.O.S.」は高い。それでも本人には歌いやすい
「S.O.S.」は、1998年の『Destiny』に収められた曲です。
コティペルトは2026年の取材で、その夏に久しぶりにこの曲を歌った話をしています。
どんな曲だったか、難しかっただろうかと思いながら歌ってみると、特に困ることはなかったそうです。
高い曲ではあるけれど、自分の音域に合っているから歌いやすい、というのが本人の説明でした。
コティペルトは、この曲の高音を必死に乗り越えるというより、自分に合った場所で歌えるものとして語っています。
過去のライブではどう歌っていたのか。『Polaris Live』には、2009年の『Polaris』発表後のツアーで歌った「S.O.S.」が残っています。
一方、過去の曲の中には、本人が極端に高すぎると感じるものもありました。
アルバムには入っていても、ライブで歌いたいとは思えない歌がある、とも話しています。
スタジオで録音を完成させたことと、その歌い方を公演で繰り返せることは、本人にとって同じではないのです。
だから、コティペルトの歌を最高音の高さだけで並べても、本人の得意不得意までは分かりません。
「S.O.S.」のように、自分の声に合う高い曲もある。
高音を得意とする歌手にも、無理なく歌える旋律と、負担を感じる旋律の違いがあります。

高すぎるか、低すぎるかを、作っているその場で試す
では、声に合わないメロディーがあったら、どうするのか。
コティペルトたちは、曲が出来上がる前に歌を試すようになりました。
『Survive』の制作では、ギタリストのマティアス・クピアイネン、キーボードのイェンス・ヨハンソンと、同じ部屋で曲を作っています。
以前は、作曲した人が歌のメロディーまで決めていて、コティペルトはそれをどう歌うか考えていました。
『Survive』では、特にサビで、自分の歌のメロディーに合わせて演奏を組み立てたと説明しています。
歌のメロディーが決まった曲を受け取る段階より前に、本人が曲作りへ加われるようになったのです。
2026年にも本人は、この共同作業について、高すぎる、あるいは低すぎると感じたら、その場で変えていると話しています。
ギターのリフと歌のメロディーを試し、うまく合う形を探す。
ここでは、低くすれば必ずよくなるわけでも、高くすれば必ず華やかになるわけでもありません。
歌う本人の感触を聞きながら、曲を作り直せることが大切なのです。
コティペルトは『Survive』について、この方法で歌と演奏がよく合い、自然に聞こえるようになったと評価しました。
聴き手には一曲として届く歌と伴奏も、制作中には、どちらを先に決めるかで歌手の仕事が変わります。
曲に声を合わせる苦労を知る人だからこそ、声を確かめながら曲を作れることに意味があったのでしょう。
『Stormcrow』では、歌詞を本心から歌っているように
声に合うメロディーで、何を聴かせたいのか。
コティペルトが別のバンド、Cain’s Offeringで歌った『Stormcrow』(2015年)では、作曲者が求めた歌の表情まで知ることができます。
中心となる作曲者は、元Sonata Arcticaのギタリスト、ヤニ・リマタイネンです。
ヤニはこの作品の録音を振り返り、歌詞の感情を大切にしたと話しています。
歌手が上手に演じているように聞こえるだけでなく、その言葉を本心で言っているような歌にしたかったのです。
高い音を正しく歌えていても、言葉がただ通り過ぎてしまえば、二人が求める歌にはならない。
録音では、その違いにまで時間をかけていました。
このアルバムの歌唱については、コティペルトの低音から高音までを、メロディーが無理なく生かしているという評価もあります。
高いところを歌い続ける印象だけでなく、音域の広さと歌の感情に注目した聴き方です。
ヤニ自身も、作品の中心に置いたのは歌の旋律だと説明していました。
「Stormcrow」――Cain’s Offering『Stormcrow』(2015年)
ここでコティペルトに求められたのは、歌詞に書かれたことを、本人が本当にそう感じているように歌うことでした。
低い音も高い音も使えるメロディーは、彼の声の違った表情を引き出すためのものとして聴けます。
ヤニとは、ギター一本で過去の曲を歌い直した『Blackoustic』も作っています。
声の勢いを抑えることで歌詞の伝わり方が変わった「Black Diamond」の話は、ティモ・コティペルトの歌声の変遷で詳しく扱っています。

声に合う曲でも、簡単な曲になるとは限らない
曲作りの段階から声に合わせるなら、新しい曲は昔の曲より楽なのか。
ここで本人の答えは、少し意外です。
2026年の取材では、最近のアルバムの曲のほうが、昔の曲より歌うのが難しいと話しています。
古い曲を何年も歌ってきたため、そちらのほうが楽に感じるのかもしれない、という説明でした。
声に合うように作ることと、慣れた歌であることは別です。
曲作りの場でメロディーを調整できても、何年も歌ってきた旧曲と同じ慣れまでは得られません。
「S.O.S.」のような高い曲でも歌いやすく感じることがあり、自分で制作に加わった新曲でも難しく感じることがある。
コティペルトが話す歌いやすさには、声と旋律の相性に加え、その曲を歌ってきた経験も関わっているのです。
コティペルトが探しているのは、ただ低い歌でも、ただ簡単な歌でもありません。
自分の声が生きるメロディーを、作曲者と試しながら見つけることです。
「S.O.S.」の高音を本人が気持ちよく歌えることも、『Stormcrow』で音域を広く使いながら歌詞の感情を大切にしたことも、その声と曲の相性を考える手がかりになります。
『Survive』の共同作業では、高すぎるときだけでなく、低すぎるときにもメロディーを変えています。
高音を歌い切る力があっても、旋律を自分の声に合わせて考える余地はある。
コティペルトは、渡された高い曲に応える経験を重ねたうえで、曲を作っているその場で、声に合う形を仲間と探すようになりました。
作曲者とのやりとりを知ると、彼の歌の聴きどころは、高い音を出せたかどうかだけではなくなります。
その曲で、コティペルトの声をどう生かそうとしているかにも耳を向けたくなるのです。
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