マイケル・キスク(Helloween)の歌い方|アンディと声をそろえるより、交互に歌う理由

2018年、Helloween公演で歌うマイケル・キスク シンガー
dr_zoidberg / CC BY-SA 2.0

マイケル・キスクとアンディ・デリスは、どちらもHelloweenの難しい高音曲を歌ってきた歌手です。
二人で同じメロディーを重ねれば、もっと迫力が出そうに思えます。
ところがキスクは、アンディと同じ音を同時に歌うことには、あまり良い手応えを感じていません。
声の調子もリズム感も違うため、別の高さでハモったり、交互に歌ったりするほうがうまくいく、と説明しています。

キスクの歌い方を知るには、どこまで高い音が出るかに加えて、この「ほかの歌手とそろいきらない部分」に注目すると面白くなります。
同じ曲を歌える二人なのに、なぜ歌い方を重ねようとすると難しいのか。
2025年の『Giants & Monsters』に収められたデュエット「Into The Sun」には、その違いを生かす工夫があります。

アンディは、自分の曲の歌い方まで変えていた

キスクは『Keeper of the Seven Keys』2作品を歌った後、1993年にHelloweenを離れました。
翌年に加入したアンディは、自分の時代の新曲とともに、キスクが残した曲もライブで歌うことになります。
一回の公演の中で、二人のレパートリーを一人で引き受けていたわけです。

その仕事について、アンディは2026年のインタビューで、意外な苦労を明かしています。
キスクの難しい曲を歌える状態を保つために、自分の曲の歌い方を変える必要があったというのです。
好きなように歌って楽しみたい一方で、歌唱の方法を意識し続けなければならなかった。
キスクが復帰したことで、ようやく自分の曲に集中できるようになったと喜んでいます。

つまり、ある一曲で高音が出せることと、公演を通して自分らしく歌えることは別でした。
キスクの曲を歌えるアンディでさえ、その前後に何をどう歌うかまで考える必要があったのです。
同じ高さの音が出る二人でも、得意な歌い方や、一公演を歌い切るための力の配分は違っていたのです。

2017年からの共演では、キスクが自分の曲を歌い、アンディはその間に休めます。
キスクにも、アンディが歌う間の休みがあります。
二人いることで増えたのは声の数だけではなく、それぞれが得意な歌い方で歌える時間でした。

2018年、Helloweenのステージで歌うマイケル・キスク
2018年、Helloweenのステージで歌うマイケル・キスク。写真:Frank Schwichtenberg / CC BY-SA 4.0

同じメロディーを歌っても、声の調子とリズム感が違う

もっとも、担当曲を分けるだけなら、二人が一曲の中で共演する必要はありません。
「Into The Sun」が面白いのは、アンディの作った一つのバラードを、キスクとアンディの両方で歌っているところです。

キスクが苦手な組み合わせとして挙げたのは、同じ高さのメロディーを同時に歌う「ユニゾン」です。
二人とも歌えないわけではなく、重ねたときの響きがしっくりこない。
本人は、その理由に声の調子とリズム感の違いを挙げています。

同じ音符を歌っていても、言葉をどうリズムに乗せるかまで同じになるとは限りません。
声の違いに加えて歌い回しも違う二人を、いつも一つの声のようにそろえようとするのは難しい。
そこでキスクが良いと感じているのが、別々の高さを歌うハーモニーや、片方の歌にもう片方が続く歌い分けです。
声をそっくりに合わせなくても、二人で一曲を作ることはできます。

「Into The Sun」には、完成までに一度、作品化を見送られた経緯もあります。
2021年のアルバム用に録音した際、制作途中でキーや編曲が変わり、作者のアンディが納得できなかったためです。
2025年には当初の構想に戻して取り組み、キスクと歌うために歌詞も調整しました。

この曲の録音では、最初から決められた短いパートだけを各自が歌ったのではありません。
キスクもアンディも、曲全体をそれぞれ歌っています。
日本盤のデラックス・エディションには、本編のデュエットに加え、アンディのソロ版とキスクのソロ版が収録されています。
表記上の「Michi Solo Version」がキスクの歌唱です。

二人の違いを知りたいなら、このソロ版同士は分かりやすい比較になります。
別々の代表曲を持ち出すのと違い、同じメロディーを一人ずつ歌っているからです。
そのうえで本編のデュエットに戻ると、一人で最後まで歌ったときの印象と、途中で歌手が替わるときの印象を比べられます。
キスクが交互に歌うほうがよいと考える理由を、一曲の中で確かめられる作りになっています。

「Eagle Fly Free」が歌えても、新曲の答えはすぐには出ない

他の歌手との違いだけでなく、キスク自身が曲ごとに変える歌い方にも目を向けてみましょう。
得意な高音が含まれる曲なら、いつもの方法ですぐ歌が完成する、というわけでもありません。

キスクは、1988年の「Eagle Fly Free」と、2025年の「Universe (Gravity For Hearts)」では、歌を仕上げる難しさが違ったと話しています。
「Eagle Fly Free」はメロディーそのものが強く印象に残り、歌い回しを多少変えても曲がうまく成立する。
対して「Universe」は、本人にとってメロディーの動きが比較的少なく、歌にドラマを加える必要がありました。

プロデューサーは先に満足していたのに、キスクはまだ納得できず、歌の録音を三度試したと振り返っています。
ここで本人が問題にしていたのは、必要な高音へ届くかどうかではありません。
出来上がった歌に、自分の求めるドラマがあるかどうかでした。
音程の高い曲を歌い慣れていても、その曲をどう盛り上げればよいかは、別に探さなければならなかったのです。

同じアルバムの別の曲では、発音を大げさにし、少し滑稽さや皮肉を感じさせる調子で歌ったところ、うまくいったとも話しています。
本人はその曲名を挙げていませんが、1988年の『Keeper II』に収められた「Rise and Fall」に通じる、芝居がかった雰囲気になったと説明しています。
きれいに音を伸ばすだけでなく、言葉の言い方を誇張して、歌の性格を変えることもあるのです。

こうした歌い回しまで含めて考えると、アンディと同じメロディーを歌っても、同じ歌にならないことが分かります。
音の高さをそろえるだけでは、キスクが一曲ずつ考えている言葉の調子や表情まではそろいません。

2015年、WackenのRock meets classicに出演したマイケル・キスク
2015年、WackenのRock meets classicに出演したマイケル・キスク。写真:Frank Schwichtenberg / CC BY-SA 3.0

二人の声が違うまま、一曲を歌う

キスクは「Eagle Fly Free」のようにメロディーを伸びやかに歌える曲を持っています。
一方で、新曲では歌の表情を探して録音を繰り返し、アンディとの共演では声を重ねる方法を選んでいます。
高音を歌えるという共通点があっても、得意な歌い回しまで同じとは限らない。
だからキスクは、アンディと常に同じように歌うことより、それぞれの声が生きるハーモニーや交互の歌唱に良さを感じているのです。

「Into The Sun」のキスクのソロ版なら、デュエットでは途中で替わるリード歌唱を、最後までキスクの声で聴けます。
若い頃の『Keeper』と現在の声について、本人がどう捉えているかは、マイケル・キスクの歌声の変遷でたどっています。

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