チェスター・ベニントンの声といえば、リンキン・パークの重い演奏を突き抜けるシャウトが思い浮かびます。
ところが、2003年のアルバム『Meteora』に収められた「Breaking the Habit」には、そのシャウトがありません。
それでも、この曲はチェスターの歌を語るうえで欠かせない一曲になりました。
本人にとっては、録音中に泣いてしまい、歌い続けられなくなるほど身近に感じた曲でした。
ただ、強く感情を揺さぶられることと、その感情を歌として届けられることは同じではありません。
叫ばないこの曲を歌い切るまでの話に、チェスターの歌い方を考える手がかりがあります。
リンキン・パークらしい音を外しても、歌は残った
初期のリンキン・パークには、分かりやすい特徴がありました。
マイク・シノダのラップ、チェスターの歌とシャウト、重くひずんだギター。
性格の違う声や音が一曲の中で組み合わさるところに、バンドの面白さがありました。
「Breaking the Habit」では、そのおなじみの組み合わせが変わります。
ラップもシャウトもなく、ピアノの反復や弦の音、打ち込みのドラムが曲を動かし、その上をチェスターの歌が進んでいきます。
マイクは、この曲をシングルにしたかった理由として、リンキン・パークが大きなギターの音や叫び声だけのバンドではないことを挙げています。
シャウトを使わないことと、曲全体が穏やかなことは別です。
「Breaking the Habit」は、伴奏を止めてゆっくり語りかけるバラードにした曲ではありません。
細かなリズムや繰り返す音型が歌の後ろで動き続けるため、チェスターが叫ばなくても、曲の緊張感を支えるものがあります。
その中で、チェスターは傷ついた気持ちや、繰り返してきたことを終わらせたいという歌詞を、旋律に乗せて歌います。
大声で感情を爆発させる場面がなくても、歌の内容まで軽くなるわけではない。
この曲では、強い感情を表す役目をシャウト一つに背負わせていないのです。
書いたのはマイク。でも、チェスターには自分の話に聞こえた
チェスターの歌に切実さを感じると、歌詞も本人の体験をそのまま書いたものだと思いたくなります。
しかし、「Breaking the Habit」の歌詞を書いたのはマイクでした。
チェスターは、マイクが自分の人生について書いているように感じたと振り返っています。
マイクの側にも、この曲にたどり着くまでの時間がありました。
同じ題材を歌にしようと何年も試していたものの、ありきたりになったり、暗くなりすぎたりして、納得できる形にならなかったといいます。
それが「Breaking the Habit」の音楽と出会ったことで、長く書けなかった歌詞を短い時間でまとめられたのでした。
書き手が時間をかけて探していた言葉を、別の人が自分のことのように受け取る。
この曲では、レコードを聴くファンよりも先に、歌い手のチェスターがその体験をしています。
本人も、自分を分かってくれる歌に出会ったファンのような気持ちだったと話しています。

だからといって、マイクが書いた歌詞の一行一行を、チェスターの人生の出来事に当てはめる必要はありません。
チェスター自身が書いた言葉ではなくても、そこに自分の気持ちを見つけられた。
そのことを知ると、彼の歌を「自分の過去を告白している声」だけで捉えるより、もう少し広く聴けるようになります。
自分とは違う人が書いた歌を、自分にも関わる言葉として引き受ける。
マイクが書いた歌詞に自分自身を重ねて歌うことで、チェスターは「Breaking the Habit」を切実な歌にしていきました。
泣いてしまうほど近い歌を、最後まで歌うために
ところが、歌詞を深く受け止めたことが、録音を難しくしました。
チェスターは歌っている途中で泣いてしまい、いったん気持ちを立て直さなければ続けられなかったと話しています。
完成した録音だけを聴いていると、その歌が途中で止まってしまうほど本人を揺さぶっていたとは、なかなか想像できません。
録音が終われば解決したわけでもありませんでした。
今度はライブで歌ったとき、同じように感情が強く動いてしまったのです。
チェスターは、歌をきちんと届けるために、その曲に対する個人的な感情からいったん離れる必要があったと振り返っています。
ここでいう「離れる」は、歌詞に関心を持たなくなったという意味ではありません。
自分の気持ちにのみ込まれて歌が止まってしまう状態から、観客に向かって一曲を歌える状態へ戻る、ということです。
歌の内容に共感するだけでは、ステージで最後まで歌うことはできなかったのでした。
録音を中断するほどの共感がありながら、歌うときには気持ちを整えなければならない。
チェスターにとって、この曲を歌えるようになることは、ただ感情を大きく表に出せるようになることではありませんでした。
歌詞を自分のことのように感じたままでも、途中で歌が止まらず、最後の言葉まで聴き手に届くようにする必要があったのです。

自分の気持ちに近い歌を、他の人にも届く歌にする
リンキン・パーク以前からチェスターと活動していたGrey Dazeのショーン・ダウデルは、彼の魅力を、静かな歌と激しい叫びの両方を歌えたことだけでは説明していません。
歌っている内容を本人が信じていたこと、そして聴いた人が、自分では言葉にできなかった気持ちを彼の歌の中に見つけていたことも挙げています。
「Breaking the Habit」の録音の経緯を知らなくても、聴き手は歌詞や旋律に自分の気持ちを重ねられます。
チェスターがマイクの書いた言葉を自分の話のように感じたのと同じように、今度は聴いた人が、チェスターの歌に自分の苦しさや決意を見つける。
一人で抱えていた気持ちが、他の人の歌によって言葉になるという点で、この曲はショーンが語ったチェスターの魅力をよく表しています。
2017年のインタビューで好きなリンキン・パークの曲を尋ねられたときも、チェスターは新作の「Sharp Edges」や「Papercut」とともに、「Breaking the Habit」を選んでいます。
歌うのがつらかった曲を、遠ざけて終わりにしたわけではありませんでした。
発表から長い時間がたっても、自分にとって大事な一曲として挙げていたのです。
チェスターは後年、初期の代表曲「Crawling」もピアノ伴奏で歌うようになります。
あの激しい曲がどのような歌に変わったのかは、チェスター・ベニントンの歌声の変遷でたどっています。
「Breaking the Habit」に戻ると、シャウトがないことを、迫力が足りないことと結びつける必要がなくなります。
この曲のチェスターは、感情を強く揺さぶられながらも、その気持ちを旋律と言葉にして歌い切りました。
激しく叫ぶ声に驚くのとは違う形で、自分のことを歌われているように感じさせる。
そこに、この曲のチェスターの歌を何度も聴きたくなる理由があります。
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