Judas Priestを一曲で説明するとしたら、ロブ・ハルフォード自身は何を選ぶのでしょうか。
2011年のインタビューで、彼が挙げたのは「Victim of Changes」でした。
理由は、激しいリフと叫び声だけでなく、繊細な歌や、演奏が静まる場面まで入っているからです。
ハルフォードの高音には、声が出た瞬間に驚かされる強さがあります。
ただ、「Victim of Changes」のような曲では、その直前にどう歌っていたかによっても、叫びの印象が変わります。
静かな旋律や低く語る声があるからこそ、激しい声へ切り替わった瞬間が大きな出来事になる。
今回は、この対比を中心に彼の歌い方を見ていきます。
1976年の『Sad Wings of Destiny』に収められた「Victim of Changes」は、2012年のロンドン公演でも歌われました。
ライブ作品『Epitaph』には、一曲の中を静と動が行き来する、その長い展開が残っています。
「Victim of Changes」は、叫びまでの道のりが長い
「Victim of Changes」は、もともと別々だった二曲を組み合わせた作品です。
一つは、前任の歌手アル・アトキンスが制作に関わったPriestの「Whiskey Woman」。
もう一つは、ハルフォードが加入前のバンドで歌っていた「Red Light Lady」でした。
一人の歌手のために最初から書き下ろされた曲ではなく、バンドと新しい歌手が持っていた材料から生まれています。
完成した曲も、同じ勢いで一直線に進む構成ではありません。
重いリフに乗った歌が続いたあと、途中で伴奏が静まり、ハルフォードは低めの声で旋律を歌います。
そこから再び重いリフへ戻り、鋭い叫びへ進んでいきます。
ここで静かな部分を、次の高音を待つための休憩だと考えると、声が変わる面白さを見落としてしまいます。
伴奏が静まると、それまで勢いのある演奏の中にいた声が、近くで語るような声に変わる。
同じ歌手の歌でも、聴き手と向き合う距離が変わったように感じられる構成です。
その時間を挟むことで、最後の叫びは、最初から続いていた叫びとは違う切迫感を持ちます。
本人がこの曲を代表に選んだときも、強い声だけを褒めたわけではありませんでした。
彼が挙げたのは、力強さと静けさの両方です。
最高音だけを抜き出すより、声を抑えるところから続けて聴くほうが、ハルフォードがこの曲を選ぶ理由に近づけます。

「The Ripper」では、小さな声も脅しになる
静かな歌が作るものは、穏やかさや美しさだけではありません。
『Sad Wings of Destiny』の「The Ripper」では、声を抑えることが不気味さにもつながります。
この曲の題材は、ロンドンの殺人鬼、切り裂きジャックです。
歌は、危険な人物が自分の存在を相手に知らせるように進みます。
この歌唱で印象を残すのは、鋭い声と、ところどころ話すようになる抑えた声との対照です。
ずっと叫んでいれば、歌手がどれほど激しいかは伝わるでしょう。
一方、落ち着いて語るような声には、相手を脅しながらも慌てていない人物の余裕を感じることができます。
殺人鬼が語っているという設定があるため、声が静かになっても、聴く側の緊張は解けないのです。
「Victim of Changes」では、静かな旋律を挟んでから激しさが戻ってきました。
「The Ripper」では、抑えた声そのものに緊張があります。
どちらも声の強弱を使っていますが、弱く歌う場面の意味は同じではありません。
ハルフォードは、大きな声と小さな声を交互に出すだけでなく、その曲の中で静かな声がどう聞こえるかまで含めて、歌の表情を変えています。
本人にとっては、澄んだ声のほうが難しいこともある
これほど激しい声を出せる歌手なら、静かな歌は楽に歌えるのではないか。
ところが本人は、「Painkiller」より、アコースティック版の「Diamonds and Rust」や「Beyond the Realms of Death」のほうが難しいことがあると話しています。
2021年、歌う前の飲み物について聞かれたときの発言です。
彼がその場で問題にしたのは、高音が出るかどうかではありませんでした。
澄んだ音を出したいところで、喉の痰が響きに混じってしまうことでした。
強く荒々しく歌えば成立する曲でも、同じ声を静かな旋律へ持ち込めば、求める響きにならない場合がある。
ハルフォード自身にも、激しい歌とは別に気を使う歌い方があるわけです。
「Diamonds and Rust」は、もとはジョーン・バエズの曲です。
Priestは1977年の『Sin After Sin』で取り上げ、後年はアコースティックな演奏でも歌うようになりました。
2012年の『Epitaph』公演にも、その形で組み込まれています。
この曲を取り上げた歌唱指導者レベッカ・レイが評価したのも、高い音へ届くことだけではありません。
言葉の明瞭さ、澄んだ声、伸ばした音の揺れ方、強弱をつけながらも歌いすぎないところでした。
ハルフォードは自著で、この評価を紹介しています。
静かな場面では、声を張らないぶん、何もしていないように見えることがあります。
しかし「Diamonds and Rust」で注目したいのは、声の勢いを抑えたあとにも、言葉や旋律がはっきり残っていることです。
ただ音量を下げて存在感まで薄くするのではなく、歌を聴かせる手段を変えている。
本人が澄んだ音の難しさを語る理由も、この歌唱なら分かりやすくなります。

静かな声を知ると、最後の叫びが変わって聞こえる
「Victim of Changes」へ戻ると、静かな部分を飛ばして最後の高音だけ聴くのは、惜しい聴き方です。
旋律を落ち着いて歌う時間があり、やがて演奏が激しさを取り戻すと、ハルフォードも鋭い叫びへ切り替える。
その変化があってこそ、一曲の終盤に大きな緊張が生まれます。
「The Ripper」では静かな声で不気味さを作り、「Diamonds and Rust」では澄んだ声と言葉の明瞭さで歌を聴かせる。
ハルフォードの静かな歌には、激しい声を出さない時間にも聴き手を引きつける役目があります。
だから、次に叫んだときの驚きも、高い音が出たという驚きだけでは終わりません。
それまで歌っていた人物の表情が、一気に変わるように聞こえるのです。
ただ、この激しい声を長い年月にわたって保つことには、本人なりの苦労もありました。
「Painkiller」を昔のようには歌えないと語りながら、2024年の新曲でその歌い方を再び試した経緯は、ロブ・ハルフォードの歌声の変遷でたどっています。
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