ボビー・キンボール(元TOTO)の歌い方|精密な演奏に、ブルースの熱を加える声

TOTOの「Rosanna」を聴くとき、歌っているのが一人だと思ってはいないでしょうか。
低めの歌い出しを担うのは、ギタリストのスティーヴ・ルカサー。高い声で続くのが、ボビー・キンボールです。同じ曲の中で歌い手が変わることで、歌の勢いも大きく変わります。

キンボールの高音には、整った演奏の中でも埋もれない強さがあります。けれど、彼の仕事は、バンドに負けない大声を出すことだけではありませんでした。
本人はTOTOの音楽を、メンバーの洗練されたスタジオでの演奏と、自分のルイジアナのブルースに根ざした歌い方との組み合わせだと説明しています。

緻密な演奏に、どうやって人の声の勢いを加えるのか。1982年の「Rosanna」と、キンボール自身の歌への考え方からたどってみましょう。

目指したのは、高い音よりレイ・チャールズの感動だった

キンボールにとって、歌手としての大きな出発点はレイ・チャールズでした。
子どもの頃にレイの歌を聴き、自分の進む道が決まったと語っています。あの歌で受けた感動を、自分でも生み出したい。それが、歌い続ける理由になりました。

ロックバンドで高音を歌う姿だけを見ると、とにかく強く声を張ることを目指してきた人のようにも見えます。
でも、本人が挙げる手本には、レイだけでなく、アレサ・フランクリン、マーヴィン・ゲイ、ダニー・ハサウェイ、スティーヴィー・ワンダーらがいます。声の高さを競うために、そうした歌手を聴いていたわけではありません。

キンボールは、憧れの歌手たちから受けた影響が重なるうちに、自分の声になったと説明しています。
誰か一人に似せ切るのではなく、いろいろな歌を好きになり、その歌い方を自分の中に残す。その積み重ねが、TOTOに持ち込んだブルースやソウルの感覚でした。

後に、レイ本人と同じ曲の録音に参加する機会が訪れます。
キンボールの歌を聴いたレイが、短く「Yeah」と声をかけた。本人はその一言を、憧れの歌手から認めてもらえた瞬間として大切にしています。
高い音が出たという達成感とは違う、歌手として欲しかった反応だったのでしょう。

「Rosanna」の高音は、別の声があるから効いてくる

TOTOには、キンボールのほかにもリードを歌えるメンバーがいました。
そのため、作曲したデイヴィッド・ペイチ自身が歌えない高さの旋律でも、曲にすることができました。ペイチは「Rosanna」について、ルカサーからキンボールへ歌を分け、自分がその高い音を出せないことを理由に、曲作りを制限しなかったと話しています。

ここで大切なのは、キンボールが一曲を最初から最後まで高い声で押し切る構成ではないことです。
先に別の声があるから、キンボールが加わったときに歌の表情が変わる。高音の高さそのものに加えて、声の違いが曲を盛り上げます。

「Africa」でも、ペイチが歌う部分と、高い声が重なるサビでは印象が変わります。
ペイチは、その高い歌をインタビュアーが裏声と呼んだ際、キンボールはフルボイスで歌っていると訂正しました。本人の出し方を細かな発声用語で決めつけるより、作り手が、しっかりとした強さのある高音を想定していたことに注目したいところです。

キンボールの声には、曲を一段と勢いづける役割がありました。
どれだけ高い音かに加えて、その声がどこで加わるか。それによって、TOTOの曲で彼の歌が必要とされた理由も分かりやすくなります。

2007年、スティーヴ・ルカサーとボビー・キンボール
2007年、スティーヴ・ルカサーとボビー・キンボール。写真:Matt Becker / CC BY-SA 3.0

自分が最後まで歌わないほうが、よくなる曲もある

では、キンボールはいつも最も高い部分を担当すればよいのでしょうか。
2006年の『Falling in Between』に入っている「Spiritual Man」には、少し違う面白さがあります。

この曲では、まずペイチが歌い、途中をキンボールが担当し、最後はグレッグ・フィリンゲインズが歌います。
キンボールは、自分の部分を中音域の勢いある歌として説明しています。自分が入ったあと、そのまま最後まで歌うのかと思ったものの、グレッグの歌を聴いて、その終わり方が必要だったと感じたそうです。

高い声を持つ人でも、いつも最後に一番目立つ役を取るわけではありません。
ペイチの歌のあとで勢いを加え、最後の盛り上がりはグレッグに任せる。その途中の役にも、自分の声を生かせます。

キンボールは、歌い手が増えたこの作品を、自分の出番が奪われたものとは受け取っていませんでした。
違う人が歌えば、同じバンドの中から違う表現が出てくる。自分の歌を目立たせるだけでなく、曲全体がよくなることを楽しんでいたのです。

複雑な演奏を、歌える旋律でつなぎ留める

キンボールは、TOTOで自分が担う役割について、複雑な曲の構成や演奏を、旋律によって一つの歌としてまとめることだと話しています。
メンバーが楽器で大きく展開しても、聴き手には口ずさめる歌が残る。そのためには、高い声を出すだけでなく、旋律をはっきり伝えなければなりません。

本人がTOTOの歌を難しい仕事だと語るときも、挙げるのは高音だけではありません。必要なエネルギーと、正確なタイミングも含まれています。
勢いよく歌っていても、演奏から好き勝手にはみ出してよいわけではない。リズムや歌の入り方を合わせたうえで、自分の歌に熱を持たせる必要がありました。

その負担にどう備え、復帰後には発声も学び直していったのかは、ボビー・キンボールの歌声の変遷でたどっています。

2010年、Yosoの公演で歌うボビー・キンボール
2010年、Yosoの公演で歌うボビー・キンボール。写真:Fredamas / CC BY-SA 4.0

レイ・チャールズに心を動かされた歌手が、精密な演奏をするTOTOに加わった。その組み合わせは、感情と技術が別々に置かれているということではありません。
「Rosanna」では違う声との対照で曲を盛り上げ、「Spiritual Man」では途中の歌を引き受け、バンドが複雑に展開するときにも、聴き手が覚えられる旋律を歌う。

キンボールの声の強さは、それらを支える力でした。
大きな声で演奏をかき消すのでなく、演奏の勢いを歌の興奮に変える。高音の迫力の奥に、そんなTOTOの歌い手としての仕事があります。

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