遠藤正明の高音はなぜ極太なのか?「always full voice」を支える歌い方・発声

シンガー

遠藤正明さんの高音は、喉の力だけで押し切る大声ではありません。
太い声のまま言葉を立たせ、曲のリズムから少し違う場所へ声を置き、最後に必要な熱量を集中させる歌です。

本人は「always full voice」を掲げ、ボイストレーニングも受けずに自己流で歌ってきたと話しています。
それだけを聞くと、強い喉を持つ人が最初から全開で歌っているように思えるでしょう。

ところが歩みをたどると、現在の歌い方はむしろ細かな選択の積み重ねです。
124回も「ガ」が出てくる曲をどう格好よく聞かせるか考え、JAM Projectでは強烈な個性に埋もれないため、声量以外の場所まで工夫してきました。

極太の声の本体は、力の大きさではなく、力を一曲の中で意味へ変える技術にあります。

「always full voice」は常に最大音量という意味ではない

遠藤さんは、手を抜く方がしんどいので、与えられた舞台へ120パーセントで返したいと語っています。
ここでいう全力は、すべての音を同じ大きさで叫ぶことではありません。

アニソンには、作品の主人公を登場させる一声、必殺技を決める言葉、仲間と重なるサビがあります。
同じ強さで塗りつぶすと、それぞれの役割が消えてしまいます。

本人が強調しているのは、声の形を一つに固定することより、求められた作品へ自分の持てるものを全部返す姿勢です。
熱血の主題歌も、陰りのあるバラードも、自分が目立つためではなく、その曲が必要とする人物になるために歌います。

だから「フルボイス」は音量計の数値では測れません。
曲の目的へ一切逃げずに向き合うことが、遠藤さんにとっての全開です。

124回の「ガ」が、声量を言葉の武器へ変えた

「勇者王誕生!」の歌詞を最初に受け取った時、そこには「ガ」が大量に並んでいました。
本人が数えたところ124回あり、曲中には何度も転調が現れます。

さらに、技の名前を叫ぶ「投げ込み」は、後から声優が担当する仮素材のつもりで録音しました。
ところが、そのまま遠藤さんの声が採用されます。

この偶然が面白いのは、歌声とせりふの境目が消えたことです。
旋律を正確に歌うだけでなく、ロボットが動き出す瞬間を一つの子音で作る役目まで、歌手が背負いました。

「勇者王誕生!」で声量を言葉のアクションへ変えた遠藤正明

「ガ」は、息をためてから一気に放つ破裂音です。
母音だけを長く叫ぶより輪郭が立ちやすく、バンドの大きな音の中でも言葉が前へ出ます。

水木一郎さんからは、流派は違うが投げ込みがよいと評価されました。
先輩の型を真似できなかったからこそ、自分の身体と言葉に合う叫び方を探した結果です。

大声が先にあって曲をねじ伏せたのではありません。
一見すると奇妙な歌詞を、格好よいヒーローソングへ変える仕事が、声の強さに方向を与えました。

極太に聞こえても、母音の中身はつぶれていない

複数の発声分析では、遠藤さんの低音には温かく息を含む成分があり、高音へ進むほど声の芯がはっきりすると説明されています。
最初から最後まで同じ硬さの声を押し上げている、という見方ではありません。

特に興味深いのが「イ」の扱いです。
口を横へ狭く引くだけでなく、「エ」に近い広さを残して響かせるという分析があります。

細い母音のまま高音へ行くと、言葉は鋭くなっても、喉の中が窮屈になりやすいものです。
遠藤さんの歌では、母音の意味を失わない範囲で通り道が確保されるため、音が高くなっても声の胴体が残って聞こえます。

一方で、喉の位置や声区の呼び方については説明が一致していません。
低い響きを保つという見方もあれば、高音の成分を自然に混ぜているという見方もあります。

ここを「特殊な地声」か「ミックスボイス」かの二択にすると、歌の動きを見失います。
音の高さ、母音、長さ、直前のフレーズに応じて重さを変えながら、聞き手には同じ人物の太い声として届けていると捉える方が自然です。

ミックスボイスと地声の違いを知りたい場合も、名称より、音量を落とした時に同じ声質を保てるかを見ると理解しやすくなります。

JAM Projectで覚えたのは、さらに大きく歌うことではなかった

JAM Projectに加わった当初、遠藤さんは最年少で、代表曲もまだ多くありませんでした。
周囲には、声を聞いただけで人物が分かる歌手が並んでいます。

そこで学んだのが、声量以外の場所へ個性を置くことでした。
普通なら二拍目と四拍目を強く感じるフレーズを、あえて一拍目と三拍目から捉えるなど、五人の中で声が消えない方法を考えたと振り返っています。

JAM Projectで声量だけではない「残り方」を覚えた遠藤正明

これは、単にリズムをずらせば遠藤さんらしくなるという話ではありません。
全員が同じ場所で同じ強さを出すと、声の塊は大きくなっても、一人ひとりの表情は見えにくくなります。

入り口を半歩変え、子音の角度を変え、次の歌手へ渡す場所を作る。
その判断があるため、遠藤さんの声は合唱へ溶け込みながら、必要な瞬間だけ前へ出ます。

影山ヒロノブさんの発声が客席全体を動かす合図だとすれば、遠藤さんは大合唱の中へ太い柱を一本立てる役です。
同じ熱血系でも、声が担う仕事は違います。

強さの裏に、後ろへためるリズムと静かな歌がある

遠藤さんの歌を分析する記事の中には、音の立ち上がりが少し後ろへ感じられるとする見方があります。
息を大きく使い、声の重さを保ってから発音するため、音符の先頭へ軽く飛びつく歌とは異なる感触になるという説明です。

これが正しい身体の仕組みだと断定することはできません。
ただ、本人がJAM Projectでリズムの置き方を意識してきた事実と合わせると、太い声の印象が音量だけから生まれていないことは分かります。

もう一つの鍵は、静かな歌を苦手としていない点です。
「恍惚ラビリンス」のカップリングでは、音数を削ったピアノ中心のバラードを作り、暗く内向きな歌も昔から得意だと話しています。

伴奏が小さくなれば、声量の看板では隠せません。
言葉の距離、語尾の残し方、息をどこで止めるかがそのまま聞こえます。

極太の高音が説得力を持つのは、静かな場所を知らない人が急に叫ぶからではありません。
小さく語る場所を持ったうえで、物語が開く瞬間に声を大きくできるからです。

今入れる? 近くで入りやすい飲食店がわかる混雑予報マップ

代表曲ごとに「全力」の中身は変わる

「勇者王誕生!」では、破裂音と投げ込みがヒーローの動作を作ります。
最高音だけでなく、何度も現れる「ガ」を毎回言葉として成立させる持久力が必要です。

JAM Projectの「SKILL」では、一人の声を完成させるより、別の歌手から受け取った熱量をさらに大きな合唱へ渡します。
遠藤さんの太さは、全員の声を支える低い土台にも、サビを突き抜ける一撃にもなります。

「恍惚ラビリンス」では、熱血ロボットソングの型から離れ、ファンキーなリズムと父親の視点を選びました。
強く歌えることを証明するより、作品に古さを感じさせない提案を優先しています。

三曲を比べると、同じ声で同じ勝ち方を繰り返していないことが見えてきます。
声量は遠藤さんの武器ですが、どこへ使うかを変えられることが歌手としての強さです。

真似するなら、声の太さより「何を動かす一音か」を考える

遠藤正明さんらしく歌おうとして、最初から最大音量や長いシャウトを選ぶ必要はありません。
自己流で到達した本人の身体条件と長年の現場経験を、短い練習で再現することはできないからです。

参考にしやすいのは、言葉の役割を決める考え方です。
一節の中で、物語を説明する言葉、人物が動く子音、仲間へ渡す語尾を分けて聞くと、声量を上げる場面が意外に少ないことへ気づけます。

小野正利さんの澄んだ高音と比べるのも有効です。
同じ強い高音でも、透明な線を上へ伸ばす歌と、言葉の塊を前へ置く歌では、聞き手が受け取る力の形が違います。

痛み、強いかすれ、翌日まで続く話し声の異常が出る歌い方は、熱量の再現ではありません。
高音で喉が痛くなる原因も確認し、粗さや大きさより、普段の声へ戻れることを優先してください。

遠藤正明さんの高音が極太に聞こえる理由は、生まれつき大きな声だから、という一文では終わりません。
「ガ」をアクションへ変え、母音の中身を残し、JAM Projectでリズムの置き方を覚え、作品ごとに全力の意味を変えてきました。

だから声は大きいだけでなく、登場人物や客席を動かす方向を持っています。
「always full voice」とは、常に叫ぶ発声ではなく、一音を何のために出すのかから逃げない歌い方なのです。

遠藤正明さんの歌声の変遷では、売れないロック歌手だった時代から「勇者王誕生!」、JAM Project、ENSON、30周年へ進む中で、この全力の意味がどう変わったのかを追っています。

こちらの記事もおすすめ

コメント

タイトルとURLをコピーしました