シーアの歌声の変遷|静かな「Breathe Me」から、大きなサビを自分で歌うまで

2006年、Zero 7とサンディエゴで共演するシーア シンガー
Tostie14 / CC BY 2.0

「Chandelier」や「Titanium」でシーアを知ったあとに、「Breathe Me」を聴くと、ずいぶん静かなところから歌が始まると感じるかもしれません。
ピアノのそばで、小さな声で誰かに話しかけるような曲です。
後年の、遠くまで届くような大きなサビとは、声を聴かせる場面が違います。

その間に、シーアは歌手として活動するだけでなく、他の歌手のために曲を書くようになりました。
人前に立つ仕事から距離を置きたくなった時期には、曲を書いて渡すほうへ進もうとさえしています。
ところが、相手に曲を伝えるための仮歌が、そのまま世界的なヒットになりました。

2004年の「Breathe Me」から、2017年のクリスマス・アルバムまでをたどると、大きな声が出るようになったという説明だけでは足りない変化が見えてきます。
誰のために書いた曲を、自分がどう歌うのか。
その選択を通して、静かなバラードで知られた声が、ダンス音楽や大きなポップソングでも求められるようになったのです。

2004年の「Breathe Me」には、助けを求める近さがある

2004年のアルバム『Colour the Small One』に収められた「Breathe Me」は、シーアの初期を代表する曲です。
米ドラマ『Six Feet Under』の最終回で使われ、彼女を知るきっかけにもなりました。

後年のヒット曲のように、早くから強いサビを待たせる曲とは違います。
まず、静かなピアノと歌に注意が向き、曲が進むにつれて演奏が大きくなっていく。
歌の中で誰かの助けを求める気持ちが、そばにいる人へ話すような距離で伝わってきます。

シーア自身にも、この曲を、いつもの自分の歌とは違う感覚で聴いた経験がありました。
自分のMySpaceのページを開いたときに流れた歌を、別の誰かが自分に歌っているように受け取ると、心が落ち着いたのだそうです。
自分で書いて歌った曲が、今度は自分を慰めてくれる曲になったのです。

この頃のシーアには、Zero 7との活動もありました。
落ち着いたリズムや楽器の重なりの中で歌う声は、のちの激しい歌い上げから入った人にも、同じ歌手の別の表情を教えてくれます。
声がかすれる質感まで消えているわけではありません。
その質感を、静かな音楽の中で近くに感じられるのが、この時期の面白さです。

2006年、Zero 7の公演で歌うシーア
2006年、Zero 7の公演で歌うシーア。写真:AZAdam / CC BY-SA 2.0

2008年、悲しい歌だけの人ではなくなる

2008年の『Some People Have Real Problems』では、シーアの声が、合唱や軽やかな演奏とも結びつきます。
「The Girl You Lost to Cocaine」のような曲を聴くと、悲しげなバラードだけで彼女の音楽を説明するのは難しくなります。

これは、ヒットした「Breathe Me」を捨てるような変化でもありませんでした。
本人は当時、以前の作品にあった深さは保ちつつ、少し明るい曲を作りたいと話しています。
一人の歌の周りへ人の声が加わる楽しさも、そのアルバムにはありました。

レコーディングには、友人たちを合唱のために呼んでいます。
ベックも「Academia」と「Death by Chocolate」に参加しました。
一人で気持ちを抱え込むような歌だけでなく、他の人と声を重ねて曲を作ることも、シーアの音楽の一部だったのです。

同じ年の取材で、シーアは自分の声について、いろいろな歌手をまねるうちに、それらが混ざって自分の歌い方になったと説明しています。
特定の誰かを再現する段階から、自分の声として歌える段階へ進んだ、という回想です。
静かな歌から明るい歌へ移っても、シーアだと分かる響きは、そうした経験の中で育っていました。

2008年のシーア
2008年のシーア。写真:savoryexposure from Atlanta, GA, USA / CC BY-SA 2.0

2011年、「Titanium」の仮歌が、そのままヒットした

他の歌手へ曲を渡すときには、メロディーや歌い方を伝えるために、作り手が仮歌を入れることがあります。
シーアがダヴィッド・ゲッタと関わった「Titanium」でも、彼女の声には、まずその役割がありました。

ところが、ゲッタはその歌を気に入り、シーアの声を残したまま発表します。
歌手として大きく売り出されるつもりで歌ったものが、予定どおりヒットした、という経緯ではなかったのです。
曲を提供する仕事へ向かおうとしていた本人にとっては、仮歌のほうが表舞台に出ていった出来事でした。

2011年の「Titanium」では、電子音の大きな盛り上がりの中でも、シーアの声がはっきりと印象に残ります。
静かな部分からサビへ向かう声には、傷つけられても持ちこたえようとする強さがあります。
「Breathe Me」では、誰かに助けを求めていました。
「Titanium」では、自分を傷つけようとする相手に、倒れないと伝える声が、大きな伴奏の上に響きます。

それでも、かすれを含む声が、きれいな音だけでは伝わらない感情を残すところは共通しています。
音楽の規模が変わっても、声の個性が埋もれなかった。
提供曲の仮歌を聴いたゲッタの判断は、結果として、その声を多くの人へ届けることになりました。

2014〜2016年、他の人へ書く力を、自分のアルバムへ

2014年の「Chandelier」では、シーア自身が大きなサビを歌うソロ曲が、広く知られるようになります。
曲を提供する仕事で身につけたポップソングの作り方が、自分の名義の作品にもつながっていきました。

「Titanium」では倒れまいとする強さを表していた声が、「Chandelier」では別の人物の歌になります。
酒や夜遊びで苦しさを忘れようとする人です。
「Chandelier」の高音が晴れやかに響くだけでは終わらない理由は、シーアの歌い方で詳しく扱っています。

2016年の『This Is Acting』では、さらに、他の歌手へ向けて作った曲を、自分のアルバムに集める試みに進みました。
シーアには、相手に採用されなかった曲の中にも、ヒットになりそうなものがあるという手応えがありました。
それを自分で歌って確かめる作品です。

他の歌手のために書くとき、シーアは、その人に似合う伴奏や題材を選んでいたと話しています。
そこで考えている人物像は、必ずしもシーア自身ではありません。
アルバム名の『This Is Acting』には、そうした曲を、役を演じるように歌うという考え方が表れています。

収録曲「Alive」は、シーア、アデル、トバイアス・ジェッソ・ジュニアの共作です。
2015年に先行発表されたこの曲では、生き残ったという言葉が、大きく伸ばす声と結びつきます。
荒さを残した響きが、無傷で平然としている人の宣言ではなく、何かをくぐり抜けてきた人の言葉として聴こえてきます。

同じ強い声でも、歌の中の人物が変われば、その強さの意味も変わります。
シーアは、大きなサビを歌う方法を繰り返すだけでなく、その声で伝える物語を増やしていったのです。

2017年、クリスマスの新曲でも、昔の声とつながる

2017年の『Everyday Is Christmas』は、よく知られたクリスマス曲を歌い直したアルバムではありません。
グレッグ・カースティンと作った、10曲のオリジナル曲を収めた作品です。
にぎやかな曲だけでなく、「Snowman」や「Snowflake」のような穏やかな曲もあります。

「Snowman」では、相手が雪だるまであるために、暖かくなれば溶けてしまうという心配が、恋の歌になります。
歌い方も、巨大なサビへ一直線に駆け上がるものではありません。
ゆったりした曲の中で、声のかすれや温かみが、そばにいてほしいという気持ちに合っています。

こうして聴くと、初期の静かな歌い方が、ヒット曲の成功によって必要なくなったわけではないと分かります。
大きなポップソングを作る経験を重ねたあとにも、シーアには、近い距離で歌う声の使い道がありました。
「Snowman」のような新しい曲でも、穏やかな伴奏に合わせて、相手へ優しく語りかけるように歌っています。

小さな声から大きな声へ、だけでは終わらない歩み

「Breathe Me」で助けを求め、「Titanium」で持ちこたえ、「Chandelier」で苦しさを忘れようとし、「Alive」で生き残ったことを歌う。
シーアの歩みを曲の中の人物からたどると、単に声が強くなったという話には収まりません。
大きな声は、強さにも、必死さにもなります。
静かな声には、弱さだけでなく、相手のそばにいたい気持ちも入ります。

歌手として前へ出ることをためらった時期に、他の人のために書いた曲が、自分の声を広く届けることになった。
そして、その曲作りの経験が、自分で歌う曲の幅も広げた。
シーアの歌声の変遷で面白いのは、この回り道です。

次に初期の曲へ戻るときには、後年より声が小さいかどうかだけで比べる必要はありません。
その声が、歌の中で誰に何を伝えようとしているのか。
そこから聴くと、大きく変わった音楽の中にも、長く残っているシーアの声の魅力が見えてきます。

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