ケリー・クラークソンの「Since U Been Gone」は、サビに入ると、聴いているこちらまで大きな声を出したくなる曲です。
高く、強く、ギターの音にも負けずに伸びていく声。
それだけでも気持ちがいいのですが、サビの前から聴くと、その爽快さには理由があります。
曲の中の女性は、別れた相手との関係を振り返っています。
そしてサビでは、相手がいなくなったことで、ようやく自由になれたと歌う。
ケリーの声が大きく開く瞬間と、歌の中の人物が解放される瞬間が、ぴったり重なっているのです。
話し始める声があるから、サビの高音が効く
2004年のアルバム『Breakaway』に収められた「Since U Been Gone」は、最初から最後まで同じ力で歌い続ける曲ではありません。
冒頭では、相手との関係を説明する言葉が、短いまとまりで並んでいきます。
歌はリズムに乗って進みますが、まだサビのような大きな歌い上げにはなりません。
この声を聴いていると、終わった恋の話を、本人から聞いているように感じます。
何があったのか、どんな相手だったのかを聞いているうちに、曲はサビへ進む。
そこで歌の内容が、自分を縛っていた関係から抜け出した喜びへ変わります。
サビでは音域が上がり、伸ばす声にも強さが増します。
言葉を区切って話していた人が、もう遠慮しなくていいと分かって、思いきり歌い始めたようです。
高い音に届いた驚きと、歌の人物が自由になった気持ちを、一緒に味わえるところが面白いのです。
ギターを強くしたい、サビで跳ね上がりたい
このサビの形には、ケリー本人の意思もありました。
2015年に曲を振り返った取材で、彼女は、ギターを多く入れることや、サビでオクターブを跳ね上がる形にすることを、制作時に強く求めたと話しています。
歌うだけでなく、声の周りの音や、声が高くなる場所にも意見を出していたのです。
共作者・プロデューサーは、マックス・マーティンとドクター・ルークです。
ケリーによると、当時は新しく組んだチームで、互いに思い描く方向について行き違いがありました。
出来上がった曲の勢いからは想像しにくいですが、録音が最初から順調に進んだわけではありませんでした。
ギターが強くなると、歌手の声にも、それに応える勢いが必要になります。
「Since U Been Gone」では、伴奏が広がるところへ、ケリーの高音も飛び込んでくる。
声だけを大きくするのではなく、バンドの音ごと気分を変えるようなサビになっています。
ライブでこの曲を歌うことは、のちに本人にとっても大きな楽しみになりました。
ファンから曲にまつわる思い出を聞き、公演ではみんなが待っている場面になる。
録音時に形を探したサビが、客席も一緒に歌うサビへ育っていったのです。

自分の時間を取り戻す言葉を選ぶ
ケリーの歌では、声の強さだけでなく、強く歌う言葉の内容にも目を向けたくなります。
「Stronger (What Doesn’t Kill You)」も、別れたあとに自分を取り戻す曲ですが、その歌詞には、レコーディングの際にケリーが提案した変更があります。
共作者のアリ・タンポジによると、最初の歌詞には、相手からの電話を待たなくてよくなったという内容の行がありました。
ケリーはそこを、自分の望むことをして、鮮やかな夢を見られるという内容に変えました。
別の案も録音して比べたうえで、その言葉が残ったのだそうです。
相手を待たなくていい、という説明から、自分がこれから何をできるか、という歌へ進む。
短い変更ですが、曲の中の人物が向いている方向は変わります。
ケリーの伸びやかな声も、その先の生活を楽しめそうな言葉とよく合っています。
「Since U Been Gone」のサビで感じる爽快さにも、同じように、相手のことばかり考える時間から抜け出す喜びがあります。
ケリーの高音は、単に怒りをぶつけるだけの声ではありません。
自分の時間を取り戻した人が、ようやく大きな声を出せるようになった、と感じさせる声でもあるのです。
難しい高音も、曲に必要なら歌いたい
もちろん、ケリーには、難しい歌を歌うこと自体への意欲もあります。
2017年の『Meaning of Life』に収められた「I Don’t Think About You」では、誰もが簡単に歌えるわけではないバラードがほしいと、作り手に頼んでいました。
出来上がった曲は、自分にも歌えないかと思うほど難しかった、と本人は笑って振り返っています。
この曲で伝えたかったのは、苦しい関係を経験しても、自分は壊されなかったという気持ちでした。
過去の誰かを思い出し続けるより、そこを通り抜けた自分として歌う。
力のある声を十分に聴かせたいという希望と、曲で伝えたいことが、結びついています。
「Since U Been Gone」が勢いよく外へ飛び出す歌なら、こちらは、立ち止まって自分の変化を確かめるようなバラードです。
同じ高音の見せ場があっても、曲の速さや言葉の置き方が違うと、聴く側の気持ちも変わります。
ケリーの声の大きさは、速い曲にも遅い曲にも、それぞれの意味を持って使えるのです。

カバーでも、サビだけを残せばよいわけではない
他の歌手の曲を歌うときにも、どこで声を聴かせるかという判断が必要になります。
テレビ番組のカバー企画「Kellyoke」では、長い曲を放送時間に収まるように短くしていました。
高音が出るサビだけを抜き出せば、それで一曲になるわけではありません。
音楽監督のジェイソン・ハルバートは、短くするときに大切なのは、曲の物語を残すことだと説明しています。
物語が順に進むカントリーの曲なら、三つの節を続けて残すこともある。
ポップソングでは、同じサビの繰り返しを減らせることもあります。
この作業の話は、ケリーの高音の魅力を考える手がかりにもなります。
何を歌ってきたあとで、そのサビに入るのか。
そこが分かるからこそ、大きな声が出たときに、曲の気持ちまで届くのです。
初期のR&B寄りの曲から、ロックのヒット、ソウルの作品、カバーへと広がった歩みは、ケリー・クラークソンの歌声の変遷でたどっています。
歌う曲が変わっても、彼女の強い声は、歌の人物の決意や喜びをはっきり伝えています。
「Since U Been Gone」を聴き直すなら、サビの高い音へすぐに飛ばず、最初の話し始めるような声から聴いてみてください。
小さく事情を話していた人が、自由をつかんで大きく歌う。
そこまでの変化があるから、あのサビでは、こちらも一緒に声を出したくなるのです。
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