アヴリル・ラヴィーンの歌声の変遷|震える声を残した歌手が、再び軽快に歌うまで

アヴリル・ラヴィーンは「Head Above Water」の録音で、感情がこみ上げ、声が震えたといいます。それでも、その歌を録り直さずに残しました。歌の中に、本当の気持ちが表れていたからです。

一方、2022年の『Love Sux』では、ライブで楽しく歌える曲を求めています。真剣なバラードを歌ったあとに、軽快な曲へ戻る。その変化は、単に昔の作風へ戻ったと考えるより、声で何を伝えたいかが作品ごとに変わったと考えるほうが分かりやすくなります。

その前段階にあるのが、2011年の『Goodbye Lullaby』です。収録曲「Darlin」は、アヴリルが14歳のころに書き、このアルバムで発表した曲でした。

2011年、同じ曲でも伴奏が減ると歌い方が変わる

アヴリルは以前から、「Girlfriend」や「Sk8er Boi」をアコースティックな編成でも歌っていました。そこで、厚い伴奏のときとは違う歌い方になることに気づき、その感覚を気に入ります。

もともとアコースティック用に作った新曲を歌った話ではありません。すでに歌ってきた自分の曲なのに、伴奏を減らすと、歌い方まで変わる。その経験から、アコースティックギターと歌そのものを中心にしたアルバムを作りたくなったのです。

『Goodbye Lullaby』の制作時、本人は、録音した声の音量差を抑える処理をかけすぎると、歌い手ならではの響きや表情が隠れることがあると説明していました。この作品では、その細かな感情を聴いてほしかったといいます。

その方針に、若いころの自作曲「Darlin」が加わりました。14歳で書いた曲を、デビュー後に経験を重ねた歌手が自分のアルバムへ持ち込んだわけです。曲を書いた年齢と、この録音で歌っている年齢は違います。

しかも、同じアルバムには明るい「What the Hell」もあります。静かな音楽しか歌わなくなったのではなく、歌の表情を細かく伝える作品を、自分の活動の中に増やそうとしていました。

2011年、パリ公演のアヴリル・ラヴィーン
2011年、パリ公演のアヴリル・ラヴィーン。写真:Rudy 40 / CC BY-SA 3.0

2018〜2019年、震えた声を録り直さなかった

ライム病による療養を経て、2018年に曲「Head Above Water」を発表し、翌2019年には同名のアルバムを届けます。歌手として戻れるのかという不安も抱いていた時期の作品でした。

アヴリルは、長く歌っていなかったため声が弱くなっているのではないかと心配していたものの、再び歌ったときには、むしろ強い声を出せたと振り返っています。本人にとっては、作品を作れること自体が大きな喜びだったのでしょう。

その曲を録音していたとき、アヴリルは泣きそうになり、声も震えたと話しています。普通なら、声が安定してからもう一度歌うという選択もできたはずです。しかし、彼女はその歌を残しました。感情が本物だったからだと説明しています。

『Goodbye Lullaby』で求めたのは、声の個性や細かな表情が聴こえる録音でした。「Head Above Water」では、本人の感情によって生まれた声の揺れも、作品に必要なものになっています。

声が揺れたことを失敗として扱わず、そのときの気持ちが伝わる歌として選んだ。その判断を知ると、この曲を聴くとき、声の強さだけでなく、こみ上げる感情にも関心が向きます。

2022年、深刻な歌のあとに欲しかった楽しさ

その次のアルバム『Love Sux』では、アヴリルは再びギターとドラムの勢いを前面に出します。2021年に先行して発表した「Bite Me」も、この作品につながる曲です。

『Head Above Water』で感情の深い部分を歌ったあと、次は楽しめる作品にしたい。制作時には、ライブのステージで歌う場面も思い描いていたといいます。

ここで「明るくなった」とだけ言うと、歌詞の内容が見えなくなります。『Love Sux』でも、恋愛がうまくいかなかったことや、相手への不満を歌っています。ただし、その気持ちを、ユーモアを交えて歌える作品にしようとしていました。

つらい経験を歌う方法は、切実なバラードだけではない。不満を言い切ってしまう爽快さもあり、観客と一緒に楽しめる曲にもなる。アヴリルが求めた変化は、伴奏を大きくしたことだけでなく、そうした歌の気分にもありました。

2011年には、慣れた曲の伴奏を減らすことで、いつもとは違う歌い方を見つけました。2022年には、ライブの楽しさを思い浮かべながら、曲を作っています。演奏の形や歌う場面を変えることが、新しい歌を考えるきっかけになっていたのです。

声の成長を、一方向の変化にしない

アヴリルの2011年から2022年までをたどると、年齢とともに静かな歌へ向かった、という一本線には収まりません。声の細かな表情を伝えようとした時期も、震える声を残した曲も、その後の軽快な歌もあります。

変わったのは、どんな声をよい歌として残すかという判断です。声の揺れまで必要な曲ではそれを残し、ステージで楽しみたい作品では、恋愛の苦い経験にも笑える余地を作る。真剣に歌ったあとでも、軽やかに歌うことを選べます。

初期にも、歌い直しを重ねるより、気負わず歌えたテイクを生かす録音がありました。アヴリル・ラヴィーンの歌い方で扱っているその話とつなげると、整っているかどうかだけでなく、その曲の気持ちが届く声を選んできた歌手として見えてきます。

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