オペラ風の声も、激しいロックの声も使える歌手を迎えたのに、Nightwishはそのオペラ風の歌をあまり使わないことにしました。
作曲者トゥオマス・ホロパイネンは、2015年のアルバム制作時に試してみたものの、曲に合わなかったと話しています。
フロール・ヤンセンにとっても、以前の自分ならあまり使わなかった、軽く柔らかい声を歌の中で生かすことは新しい課題でした。
ReVampで「どれだけ多くの声を使えるか」を追っていた歌手が、Nightwish、そしてソロでは、何を歌わず、どの声を残すかまで考えるようになる。
その変化は、一番高い音だけを比べても見えてきません。
ReVamp――声の種類をできるだけ広げた
フロールは、2000年にAfter Foreverで発表した最初のアルバム『Prison of Desire』を、後年、18歳で録音したころは作曲も録音も歌も分からないことばかりだったと振り返っています。
ただ、その出発点を恥ずべきものとは言っていません。
初めての作品だからこその大切さも語っています。
そこから活動を重ね、After Foreverの後には自身のバンドReVampを率いました。
2013年の『Wild Card』で掲げた目標は、前作よりも重く、多彩な作品にすること。
フロールは、うなり声から激しいロック、オペラ風、ポップス寄りまで、歌でできることをできるだけ持ち込もうとしたと話しています。
その多彩さは、Nightwishに呼ばれて突然身についたものではありません。
2012年にNightwishのツアーへ加わったあとも、ReVampで自分の表現の幅をさらに押し広げていたのです。
2013年の「Nothing」は、その時期の『Wild Card』に収められています。

写真:Foxistar / Public domain
「できる声を増やす」ことには、もちろん意味がありました。
けれどもReVampで使えた声のすべてを、Nightwishの曲へそのまま移せるわけではありません。
次のバンドには、フロールが書いていない曲と、すでに別の歌手が歌ってきた曲が待っていました。
Nightwish――得意な声を使わない選択
新作を録音する前には、すでに一緒にツアーをした時間がありました。
フロールは、そこでバンドのさまざまな面を知っていたことが制作への助けになったと話しています。
ただし、舞台で息を合わせることと、リハーサルや録音で曲を作り上げることでは、互いの別の面も見える。
加入後の最初のアルバムは、声の相性を試すだけでなく、創作での関わり方を知る機会にもなりました。
フロールがNightwishに参加して初めて作ったアルバム『Endless Forms Most Beautiful』(2015年)では、トゥオマスは彼女の幅広い声を前提に作曲できました。
それでも、特に試したかったのは、After ForeverやReVampではあまり聞かれなかった、柔らかく幻想的な歌だったといいます。
オペラ風の歌もリハーサルで試しましたが、曲に合わず、完成作では控えめにしました。
フロール自身も翌年、Nightwishで軽く柔らかい歌を以前より使うようになったと話しています。
新しい発声法を一から覚えたのではなく、知っていても曲の中で十分に使ってこなかった声を、実際に働かせる機会が増えたのです。
古い曲の「Amaranth」はポップな感触に最初は慣れず、歌うのが難しかったとも説明しています。
ここでの変化は、強く歌う力を失ったことではありません。
強さを出せる歌手に、あえて別の表情を求めた曲があった。
彼女も、声の種類を示すより、その曲に合うかを先に考えるようになっていきます。
過去のNightwishの録音を聞いて曲を覚えるだけでは、前任者の解釈まで引き継いでしまいます。
フロールは、実際にバンドとリハーサルを重ねてから、自分なりの曲の理解をつかんだと振り返っています。
すでに知られた歌を歌い直す難しさは、声が出るかどうかとは別のところにありました。
2020年――難しい旋律の先に、物語があった
2020年の『Human. :II: Nature.』では、その「曲の中で声を選ぶ」作業がさらに細かくなりました。
冒頭の「Music」は、人が音楽を生み出してきた歴史をたどる曲です。
フロールは、特にヴァースが歌いにくく、サビの声の重ね方も試したと話しています。
幅広い声を使えるようになっても、複雑な旋律を自分の言葉として歌えるとは限りませんでした。
もう一つの「Procession」では、難しさの種類が違いました。
本人は最初、繰り返しの多い曲をどう捉えたらよいか分からなかったといいます。
しかし、人類の後に現れて地球を離れた種が、過去へ向けて人類の歴史を語る歌だと知ると、反復する旋律の意味が変わりました。
歌の先には人類の滅びがあり、その物語を理解した後、この曲は本人にとって特に愛着のある一曲になっています。
複雑な旋律を覚える「Music」と、反復の意味を受け止める「Procession」。
同じアルバムでも、歌手が向き合う課題は同じではありません。
声を増やすだけでは届かない部分を、物語の理解で埋めていました。
同じアルバムの「Shoemaker」のような曲では、短く分けて練習し、作曲者とも話しながら、曲の意味と声の使い方が結びつくまで六週間以上かかることもあったと説明しています。
音を覚えることに加え、物語を理解して歌にする時間が必要だったのです。
歌い方記事では、「Ghost Love Score」「Sleeping Sun」「Shoemaker」での声の使い分けを一曲ごとに扱っています。
変遷をたどると、かつて幅を広げるために集めた声を、今度は曲の意味に合わせて選ぶようになったことが分かります。
その一方で、フロールには別の思いもありました。
以前のバンドでは作曲や作詞にも参加していたのに対し、Nightwishでは制作が進んだ段階から加わります。
本人にとって、その違いにはまだ新しさがありました。
2020年には、歌手として成長する一方、曲を書く側としては同じほど進めていないと話し、自分の音楽を作りたいと語っています。
Nightwishの複雑な曲を自分の声で成立させることと、何を歌うかを自分で決めることは、同じ仕事ではありません。
2023年――大きな演奏なしで、自分の歌を探す
初のソロアルバム『Paragon』(2023年)は、その問いに向き合った作品です。
メタルの厚い演奏を外したとき、自分の歌がどう聞こえるのか。
フロールは後年、最初のソロ制作を、何が自分に合うか試しながら、深みを失わずに音楽を簡潔にする過程だったと振り返っています。
作品にはポップス寄りの曲やバラードが並びます。
これは、Nightwishで柔らかい歌を覚えたから自動的にできた仕事ではありません。
曲そのものの方向を選び、自分の名前で歌う。
2022年に先行して発表した「Fire」からも、その新しい出発点をたどれます。
ReVamp時代は声の幅をどこまで広げられるかを追い、Nightwishでは曲のために得意な声を使わないことも学びました。
ソロではさらに、声を乗せる曲の形から自分で探すようになります。
歌える声が増えた先に、自分は何を歌いたいのか、という問いが残っていたのです。
2026年――重い音へ戻っても、出発点は同じではない
2026年のシングル「Run」は、彼女自身が、より重く直接的な新しい始まりだと説明する曲です。
『Paragon』のポップ寄りの方向を経て、再び強い音へ向かう。
ただし、2013年にできる声を全部見せようとしていたころへ、単純に戻ったわけではありません。
2026年5月の取材でフロールは、制作中の次のソロ作品について、重さはあってもNightwishのような合唱やオーケストラに頼らず、歌を中心に置きたいと話しています。
『Paragon』では自分に合う形を探す試行錯誤が多かったが、今は直感をより早く信じられるとも言いました。
これは、その時点で本人が語った制作の方針です。
重さと柔らかさのどちらも、自分の歌に必要なら選べるという考えが見えます。
同年8月には、新作『Hytress』を2027年1月に発売する予定だと正式に発表しました。
声の種類を増やすことから始まり、歌のために引くことを覚え、今度は自分で重さと柔らかさの置き場を決める。
フロールの変化は「高い声が出るようになった」という一本道ではありません。
使えるものが増えたからこそ、どの曲で何を残すかを、本人が選び続けているのです。

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