フロール・ヤンセン(Nightwish)の歌い方|「Ghost Love Score」の高音と、静かな歌の難しさ

フロール・ヤンセンの歌を聴くと、どこまで高い声が出るのか、どれだけ力強く歌えるのかに驚かされます。Nightwishの「Ghost Love Score」の終盤は、その印象を決定づけた歌唱の一つでしょう。

ところが本人は、穏やかな「Sleeping Sun」にも難しさを感じています。オペラ風に歌いすぎても、声を軽くしすぎても、曲が求める表情から離れてしまうからです。

フロールの歌の面白さは、いろいろな声を出せることに加え、その曲のどこで、どんな声を使うかにあります。2013年のWacken公演で歌った「Ghost Love Score」には、自分の解釈を曲へ加えた経緯がありました。

あの終わり方は、最初から決まっていたわけではない

「Ghost Love Score」は、フロールが加入する前からあるNightwishの曲です。新しく歌手になった彼女には、すでに親しまれている歌を引き継ぐ役割がありました。

しかし本人は、加入前からこの曲を歌うとき、アルバムと同じ終わり方にはしていなかったといいます。曲の最後に、もう少し何かを加えたいと感じていたそうです。

2015年にその経緯を振り返ったフロールは、自由に解釈できると感じるようになってから、少しずつ終盤の歌を変えたと説明しています。サウンドチェックだったかもしれない、と本人の記憶も断定的ではありませんが、バンドの前で歌ってみると、メンバーが気に入ってくれました。

その歌い方を公演でも使えるようになり、やがてファンに喜ばれる場面になっていきます。本人も、これほどの反応があるとは予想していませんでした。

高い音を出せるという能力があっても、どの曲で、どんな終わり方に使うかは別の判断です。あの終盤には、前任者の歌を覚えるだけでなく、自分ならこの曲をどう締めくくりたいかを考えた歌手の意思があります。

2013年、Nightwishのステージに立つフロール・ヤンセン
2013年、Nightwishのステージに立つフロール・ヤンセン。写真:Tuomas Vitikainen / CC BY-SA 3.0

「Sleeping Sun」は、強く歌えば解決する曲ではなかった

一方、フロールが「Sleeping Sun」で難しいと話していたのは、声の強弱を含めた全体の加減でした。2016年のインタビューでは、オペラ的になりすぎず、軽くなりすぎず、曲の中で強弱を作る必要があると説明しています。

「オペラもロックも歌える」と聞くと、曲ごとにどちらかの歌い方を選ぶ姿を想像するかもしれません。しかし、この曲では、オペラ風にする度合いそのものを調整しています。

高い音で一気に盛り上げたい曲と、声の重さや強さを丁寧に整えたい曲。同じ歌手でも、うまく歌うために考えることが変わります。「Ghost Love Score」の高音に驚いたあとで「Sleeping Sun」へ戻ると、派手な見せ場以外での選択にも関心が向きます。

こうした柔らかい声を使う機会は、Nightwishに入ってから増えました。その変化は、フロール・ヤンセンの歌声の変遷でたどっています。

「Shoemaker」で、オペラの声を使う意味

2020年のアルバム『Human. :II: Nature.』に収められた「Shoemaker」では、終盤にオペラ風の歌唱が現れます。曲の題材は天文学者ユージン・シューメーカーで、星や宇宙へ思いを向ける歌です。

フロールにとって、この曲のような複雑な歌は、得意な声を順番に出せば完成するものではありませんでした。曲を細かく分けて覚え、繰り返し練習し、作曲者のトゥオマス・ホロパイネンとも話し合っていきます。

本人が説明しているのは、歌詞の意味をつかんだうえで、力強くするのか、柔らかくするのか、オペラ風にするのか、どの声色が必要なのかを考える作業です。

声の切り替えを聞き分けるだけでも楽しい曲ですが、その前に、なぜここでこの声が必要なのかを歌手が考えています。「Shoemaker」の終盤の歌も、星へ向かう曲の感情と結びつけると、技術の披露とは違った意味が見えてきます。

たくさんの声を、全部同じ強さでは使わない

フロールは、歌を学び始めたころには、高い声が出ることを特別な能力だと思っていたと振り返っています。学び、歌う経験を重ねるうちに、音の高さだけでは歌手を語れなくなっていったのでしょう。

「Ghost Love Score」では終盤の歌を自分なりに育て、「Sleeping Sun」ではオペラ的な響きの加減や強弱を考える。「Shoemaker」では、曲の物語を理解しながら声色を選んでいく。

その選択を知ると、フロールの歌で注目したいのは、一番高い音だけではなくなります。声を強くしない場面や、オペラ風の響きを抑える場面にも、曲をどう聴かせたいかという判断がある。多彩な声を持つ歌手が、その曲に必要な使い方を探しているところに、聴き続けたくなる理由があります。

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