「Since U Been Gone」や「Stronger」の印象が強いと、ケリー・クラークソンは、ロック寄りの伴奏を背に高音を歌い上げる人に見えるかもしれません。
けれど、2017年の『Meaning of Life』では、ソウルやR&Bの色が濃くなります。
さらにカバーを聴くと、曲によって声の柔らかさや、言葉の運び方が変わる歌手だと分かります。
本人にとって、そのソウル寄りの歌い方は、途中から新しく身につけたものではありませんでした。
昔から親しんできた音楽であり、ライブではすでに歌っていた声でもあったのです。
2002年のデビューから2023年の『chemistry』までをたどると、歌手として経験を重ねながら、持っている声をどんな作品に生かすかを選んできた歩みが見えてきます。
2002〜2004年、バラードの優勝者から、リズムとギターの歌手へ
ケリーは、2002年に『American Idol』の初代優勝者になりました。
「A Moment Like This」では、強い声と大きな盛り上がりを持つバラードが、番組での勝利と重なります。
歌のうまさを多くの人に知ってもらううえで、分かりやすい始まりでした。

ただ、そのまま同じ種類のバラードだけを歌ったわけではありません。
2003年の「Miss Independent」では、R&Bのリズムに乗る歌い方と、鋭く開くサビが出てきます。
言葉を細かく進める部分があるから、長く伸ばす声との違いもはっきりします。
2004年の『Breakaway』では、その声が、さらに強いギターの音と結びつきました。
「Since U Been Gone」や「Behind These Hazel Eyes」のような曲が、ケリーのポップ・ロックのイメージを作っていきます。
大きな高音を出せることに加えて、バンドが激しくなる場面で、その音に応じて歌を盛り上げられることが、広く知られるようになりました。
「Since U Been Gone」で、サビまでにどんな気持ちを歌い、その高音がなぜ爽快に響くのかは、ケリー・クラークソンの歌い方で詳しく扱っています。
同じアルバムには、「Because of You」のようなバラードもあります。
声を張る場面だけでなく、傷ついた気持ちを静かに歌う場面にも、耳を引きつける力がありました。
この時点ですでに、ケリーの声は、勝利の喜びだけを歌うものではなくなっていたのです。

2007年、すぐに元気になれない曲も歌う
2007年の『My December』では、ケリーが作詞作曲に関わった曲を通して、さらに暗い感情や迷いが歌われます。
本人は、いろいろな種類の曲を書いた中から、一枚のアルバムとして物語になるものを選んだと説明しています。
一曲ごとの強いサビだけでなく、曲を続けて聴いたときの気持ちの流れも考えていたのです。
「Sober」は、その違いが伝わる曲です。
静かに始まり、すぐには大きな声で答えを出さず、時間をかけて歌が強くなっていきます。
「Since U Been Gone」のサビで一気に解放される感じとは、気持ちが進む速さが違います。
「Sober」には、酒に酔っていないという意味がありますが、ケリーはこの曲を、人生の困難を乗り越えようとする歌として説明しています。
乗り越えると宣言することより、その後も進み続けることの難しさを歌った曲です。
その話を知ると、時間をかけて強くなる歌も、途中であきらめずに進んできた人の声として聞こえてきます。
2011年、明るいサビのそばに、言い返す声もある
2011年の『Stronger』では、ダンスのリズムやポップなギターを使った、力強い曲がまた前に出てきます。
「Stronger (What Doesn’t Kill You)」は、別れを経て立ち直る言葉を、明るく大きなサビで歌う曲です。
ケリーの声は、一緒に歌う人を励ますような働きをしています。
一方、同じアルバムの「Mr. Know It All」には、別の強さがあります。
相手に、自分のことを分かったつもりにならないでほしいと伝える歌です。
伴奏が比較的すっきりしているため、言葉を言い返す声の張りや、少し苦しそうに聞こえる響きが伝わりやすくなっています。
ケリー本人も、この曲は恋愛相手だけでなく、レコード会社やメディアへの言葉としても受け取れると話していました。
一人の相手へ向けた歌が、自分を決めつける人に言い返す歌にもなる。
声の大きさが、ただの景気のよさで終わらないところです。
2017年、ソウルの歌い方をアルバムの中心へ
2017年の『Meaning of Life』は、アトランティックへ移ってから初めてのアルバムです。
ここでは、ソウルやR&Bの影響をはっきり出した曲が並びます。
ケリーが昔から好きだった音楽を、新しい作品の中心に置けるようになりました。
この方向へ進むために、声を鍛え直す必要があったのか。
取材でそう聞かれたケリーは、必要なかったと答えています。
ツアーで他の歌手の曲をカバーするときには、すでに、このように歌っていたのだそうです。
つまり、2017年になって突然、ソウルを歌えるようになったのではありません。
ステージで聴かせていた自分の声を、アルバムにも十分に出せるようになった。
その前提があると、この作品は、大きな方向転換であると同時に、昔から持っていた好みが形になった作品にも聞こえます。
タイトル曲「Meaning of Life」では、リズムに言葉を乗せる部分と、大きく声を伸ばす部分に、コーラスの厚みも加わります。
ギターを背に一直線にサビへ飛び出すだけでなく、他の声やリズムとやり取りしながら、歌がふくらんでいきます。
伸ばした声の響きと、次の言葉をリズムに乗せる楽しさの両方を味わえる歌です。
ケリーは、古いソウルの時代をそのまま再現したかったわけでもありませんでした。
アレサ・フランクリンらから受けた影響を、現代のポップソングでどう歌うかを考えていたのです。
大きな声を持つ歌手としての経験と、子どもの頃から好きだった音楽が、同じ作品の中で結びつきました。
2019〜2022年、他の人の曲を、自分の解釈で歌う機会が増える
2019年に始まった『The Kelly Clarkson Show』には、他の歌手の曲をカバーする「Kellyoke」という企画がありました。
ポップ、ロック、カントリーなど、さまざまな曲を歌う機会が、テレビ番組の中にできたのです。
これにより、ケリーの歌を、自分のヒット曲以外でも聴く機会が増えました。
よく知っているメロディーだからこそ、声が柔らかくなるところや、強く伸ばすところの違いにも気づきやすい。
曲を替えるたびに別人になるのではなく、ケリーの声のままで、その曲に合う歌い方を探せることが伝わります。
2022年には、六曲入りのカバー作品『Kellyoke』も発表しました。
ビリー・アイリッシュの「Happier Than Ever」は、その一曲です。
番組の短い演奏だけでなく、録音作品としても、その歌い方が残りました。
この曲でも、静かな歌から強い歌へ進む変化が、大きな聴きどころになります。
ケリーの声で聴くと、言いたいことを抑えていた人が、ようやく相手へはっきり言い切るような勢いが感じられます。
自分のヒット曲で知られた強い声が、別の作家の書いた物語でも、何を言いたい歌なのかを伝えています。
2023年の『chemistry』では、怒りだけにまとめない
2023年の『chemistry』には、本人の別れの経験から生まれた曲が入っています。
ただ、ケリーは、恋愛の嫌な部分だけを並べるアルバムにはしたくなかったと話しています。
「Favorite Kind of High」のように、相手へ強く引かれる気持ちを歌う曲も選びました。
苦しい関係が終われば、最後はすっきりした応援歌になる。
それだけでは描けない気持ちを、一枚の中に残したかったのです。
また、自分にしか分からない事情に閉じず、他の人も経験を重ねられる曲を選んだとも説明しています。
ケリーの高音は、この時期にも、感情を大きく伝える声であり続けています。
けれど、声を強くする理由は、怒りや勝利だけではありません。
相手に引かれた喜びも、うまくいかなかった悲しさも歌うために、同じ声の中で表情を変えています。
変わったのは、声の強さだけではない
初期のバラードとR&B、ギターの強いヒット曲、暗い気持ちを時間をかけて歌う作品、そしてソウルやカバー。
ケリーの歩みには、声が前より大きくなったかどうかでは説明しきれない変化があります。
どの言葉を大切にし、どんな伴奏の中で、いつ声を大きくするかという選択が増えていったのです。
とくに『Meaning of Life』の話からは、発売された曲だけが、その時点で歌手にできたことの全部ではないと分かります。
ライブでは歌っていた声を、ようやくアルバムの中心にできることもある。
カバーが広く聴かれることで、昔からあった得意な歌い方に、あらためて気づいてもらえることもあります。
ケリーのヒット曲へ戻ると、あの力強いサビが、いくつもある歌い方の中で選ばれたものに聞こえてきます。
大きな声を出せるだけでなく、その声で曲の気持ちをはっきり伝えられる。
そこが、曲の種類が変わっても、彼女の歌を聴き続けたくなる理由なのでしょう。
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