デビューのきっかけになった歌なのに、本人は22年後に録音した版のほうが好きだという。
クリスティーナ・アギレラが2020年に歌い直したのは、ディズニー映画『ムーラン』の「Reflection」。
1998年版には、まだ広く知られていない十代の自分がいる。
新しい版には、経験を重ねて自分の声をより知るようになった現在の自分がいると、彼女は語ります。
若い頃の高音が出なくなったから、新しい歌い方に変えたという話ではありません。
最初の録音から2020年版に至る間に、誰が歌の形を決めるのかが変わっています。
歌う内容、見せる自分、声に残す感情をどう選ぶようになったのか。
そこをたどると、彼女が新しい「Reflection」を好む理由が見えてきます。
1998〜1999年――声を認められたが、使い方はまだ選べなかった
1998年のアニメーション映画『ムーラン』で、クリスティーナは「Reflection」のポップス版を歌いました。
劇中でムーランが歌う声は別の歌手によるものです。
クリスティーナにとっては、この曲のオーディションが最初のレコード契約にもつながりました。
すでに大きな声を響かせられる。
でも、その声をどう聞かせたいかまで、自由に決められたわけではありません。
翌1999年のデビューアルバムについて、後年の彼女は、レコード会社側から細かな歌い回しやアドリブを抑えるよう求められたと話しています。
彼女の得意な、伸ばした一音の中で音程を細かく動かす歌い方も、当時のポップスター像には収まりきらなかったのです。
これは「Reflection」自体の録音指示がそうだったという意味ではありません。
デビュー作で起きたことです。
彼女は17歳で仕事を始めた頃、周囲の助言に感謝もしていたと述べています。
ただ、成功のために用意された歌と見せ方の中では、自分のすべてを出せない感覚が残りました。
2002年――強い声だけでなく、隠してきた言葉も出した
その感覚を、2002年のアルバム『Stripped』で変えようとします。
制作に関わった人たちの証言によれば、クリスティーナはツアー中に書いた大量の日記を持ち込み、歌う題材や、一緒に作る人の選択にも深く関わりました。
デビュー作では求められる声に合わせていた歌手が、今度は自分が伝えたいことから曲を作る側に回ったのです。
日記を勧めたのは、デビュー前のデモにも関わったロブ・ホフマンとヘザー・ホリーでした。
ツアーへ出る彼女に、いきなり歌詞を書こうとせず、起きたことを何でも残しておくよう伝えていたといいます。
戻ってきた彼女と床に座り、積み重なった記録から曲の案を話し合う。
その時間が、自分の言葉で歌う内容を見つける入口になりました。
制作を統括したロン・フェアも、この頃には曲や制作者を彼女が選び、自分は前に出る立場から退き始めたと説明しています。
彼女が持ち込んだのは、自由に歌わせてほしいという希望だけではありません。
何を誰と作るかという、録音前の具体的な判断もそこにありました。
「Fighter」では反発を勢いに変える一方、「I’m OK」では家庭内で経験したつらさを歌いました。
後者について、彼女は録音中に実際に泣いていたと話しています。
共同制作者のリンダ・ペリーも、その感情が表に出た歌を録ったと振り返りました。
声の強さを証明するだけでなく、傷ついてきた自分を声から消さない。
『Stripped』での大きな選択でした。
同じアルバムの「Beautiful」には、歌を整え直すか、最初の録音に残った不安を生かすかという別の判断がありました。
その一曲の録音で起きたことは、クリスティーナ・アギレラの歌い方の記事で詳しく扱っています。
2006年――怒りを押し出すだけでなく、憧れた歌の世界へ入った
『Stripped』で自分の内側をさらけ出したあと、2006年の『Back to Basics』では、子どもの頃から親しんだジャズやブルース、ソウルを前面に出しました。
本人が影響を挙げたのは、ビリー・ホリデイやエタ・ジェイムズ、オーティス・レディングら。
過去の音楽を飾りとして借りるのではなく、かつて聴いて育った声やリズムを、自分の新しい作品の土台にしました。
「Ain’t No Other Man」で歌う彼女は、2002年の自分の苦しみをそのまま吐き出しているわけではありません。
華やかなステージに立つ人物として、曲を勢いよく運びます。
本人は当時、赤い口紅などの装いが、歌の世界に入る助けになるとも話しました。
見た目が声を変えたと断定はできません。
ただ、どんな人物として歌うかを、彼女自身が意識して選んでいたことは分かります。

写真:D.S.B / CC BY 2.0
クリスティーナはこの時期、以前の怒りや攻撃的な気持ちから、もっと世界を受け入れる方向へ心境が動いたと語っています。
『Back to Basics』の表現は、技巧を増やした結果というだけではない。
自分を語る歌から、自分が憧れた世界へ入って歌うことへ、声の向け先も広がりました。
2018年――大きく歌う力を、誰のために使うか
2018年の『Liberation』に向けて、彼女は音楽が商業的な方向に寄りすぎていたと感じ、愛や正直さを作品へ取り戻したかったと話します。
アルバムの「Maria」には、子どもの頃にベッドの上で歌っていた記憶を重ねました。
マリアは彼女自身のミドルネームであり、『サウンド・オブ・ミュージック』でジュリー・アンドリュースが演じた人物の名でもあります。
幼い彼女はベッドを舞台に見立て、その映画の歌を歌っていました。
仕事としてどう見られるかを考える以前の、歌いたくて歌っていた感覚を、もう一度作品の中心へ戻そうとしたのです。
「Fall in Line」はデミ・ロヴァートとの共演曲で、抑え込まれてきた人に声を与えたいという思いを込めています。
ここでも大きな声を捨てたわけではありません。
ただ、誰かに求められた華やかな声を披露することより、何を伝えるためにその力を使うかを前に置きました。
本人はこの時期の気持ちを、『Stripped』を作った頃にも重ねていました。
『Liberation』は一度獲得した自由を確認し直し、音楽が自分にとって何だったかを取り戻す仕事でもあったのです。
2020年――「Reflection」を、今の自分が選ぶ規模で歌う
そして実写映画『ムーラン』のため、「Reflection」を再録音する機会が来ました。
クリスティーナが目指したのは、映画の重厚な雰囲気と大きなオーケストラに応える歌です。
本人によれば、録音は自宅スタジオで、自分のペースと条件に合わせて進めました。
1998年の録音をそのままなぞるのではなく、2020年の映画に合う表現を自分で考えました。
この二つを比べ、彼女は新しい版のほうが好きだと伝えています。
昔の声には、まだ自分の力を十分に知らなかった若い自分を感じる。
今の声には、経験から来る深みと確かさがある――そういう本人の見方です。
オーケストラの編成も録音条件も異なるため、二つの音源だけで声の能力がどう変わったかを測ることはできません。
それでも、1998年に「認められたい」と歌った曲を、2020年には自分の意図で大きく作り直せた。
その違いは録音の背景から確かめられます。

写真:nagi usano from Tokyo, Japan / CC BY-SA 2.0
2024年――若い声を再現するより、今の声で初期の曲を歌う
デビューアルバム25周年の企画では、初期の6曲を新しい編曲で演奏しました。
「What a Girl Wants」にはサブリナ・カーペンターが加わり、かつて一人で歌った曲に、別の世代の歌手との掛け合いが生まれます。
「Reflection」も再び選ばれました。
同じ2024年の対談で、クリスティーナは若い頃の澄んだ声より、経験を重ねた今の声を好むと語っています。
ざらつきや感情を含んだ声に、本人が魅力を感じているのです。
それは1998年の録音の価値を下げる言葉ではありません。
声を認めてもらおうとした時期の録音は残しながら、その声に戻ることを現在の目標にはしていない、ということでしょう。
「Reflection」で歌われるのは、本当の自分を見てほしいという願いです。
デビュー時はその曲が仕事への扉を開き、のちには自分の歌う内容と姿を選び、ついには同じ曲を自分の望む大きさで歌い直しました。
彼女が2020年の声を好むのは、単に22年分うまくなったからではない。
自分の声で何を見せるかを、自分で決めてきた年月まで、そこに聴いているからなのです。

こちらの記事もおすすめ






コメント