2013年の「The Way」でアリアナ・グランデを知った人には、まず声の大きさと高音の動きが印象に残ったかもしれません。
テレビで親しまれていた若い女優が、こんなに自由に歌うのか。
デビュー・アルバム『Yours Truly』は、歌手としての存在感を一気に知らせる作品でした。
その後の彼女は、同じ力強さを見せる曲ばかりを増やしていったわけではありません。
長い歌い上げから短い言葉へ切り替え、自分の声を何層も重ね、映画では別の人物として歌う声まで作っています。
その中には、新しく身につけた歌い方も、デビュー前から好きだったことを大きな作品で生かした例もあります。
曲ごとに変わる声の聴かせ方を、録音の作り方とともにたどってみましょう。
2013年|「The Way」で見つかった、テレビの役とは違う声
アリアナは歌手として広く知られる前から、テレビドラマ『ビクトリアス』などに出演していました。
一方で、2008年にはブロードウェイ・ミュージカル『13』にも出ており、歌の経験がない女優だったわけではありません。
『Yours Truly』では、テレビの登場人物としての印象を越えて、どんな音楽を歌いたいのかを伝えることが大切でした。
アルバムの中心にあるのは、1990年代のR&Bを思わせる音楽です。
「The Way」は、弾むピアノとリズム、マック・ミラーのラップに、アリアナのよく動く高音が重なります。
ラップが短い言葉を刻む横で、彼女は言葉の終わりを伸ばし、音の高さを細かく変える。
一人の声を大きく聴かせながら、リズムの中にも入っていける歌でした。
この曲は、もともとジョーダン・スパークスのために作られていたものです。
制作陣の2023年の回想によると、アリアナはスタジオで曲を聴いて気に入り、自分の歌を録り、マックの参加へとつなげていきました。
新人の頃から、自分に合う曲を見つけたときの行動は速かったのです。
声や音楽からマライア・キャリーを連想する人も多くいました。
アリアナは当時の取材で、その比較を喜びつつ、アルバム全体を聴いて自分のことを知ってほしいとも話しています。
似ている歌手の名前が分かれば終わり、という作品にはしたくなかったのでしょう。

2018年|歌い上げた直後に、短い言葉でリズムを作る
『Sweetener』の「No Tears Left to Cry」は、ゆったりした歌から始まります。
伸ばした声や細かな節回しだけを聴くと、このまま大きなバラードになりそうです。
ところが、曲は踊れるビートへ進み、歌も短い言葉を繰り返す形へ切り替わります。
長く伸ばした声で聴かせる場面と、短く区切った言葉で身体を動かしたくなる場面。
アリアナは一曲の中で、その両方を使っています。
この曲では、高音の華やかさを残したまま、言葉の速さや区切り方でも曲を引っぱっています。
この時期、アリアナはファレル・ウィリアムスとの制作で、予想できる展開から離れた音楽を求めていました。
『The FADER』の取材では、ありきたりな曲の構成に飽き、新しい場所へ連れていってほしいと頼んだことを話しています。
「No Tears Left to Cry」の制作はマックス・マーティンやイリアらが担いましたが、アルバムには、曲が思いがけない方向へ進むことを楽しむ姿勢がありました。
曲の背景には、2017年のマンチェスター公演後に起きた爆破事件もあります。
「No Tears Left to Cry」は、その後に発表された曲です。
題名は、もう流す涙はない、という意味です。
けれど音楽は、人を踊らせる方向へ進んでいきます。
悲しみをすべて消せたという宣言としてより、悲しみを抱えていても音楽の中で動き出す歌として聴くと、静かな冒頭とビートの変化も違って聞こえます。
2020〜2021年|歌い終わった本人が、使う録音も選ぶ
『Positions』の頃になると、アリアナがどれだけ録音の細部を決めているかが、共作者の証言からも分かってきます。
制作に参加したトミー・パーカーは、彼女が一つのフレーズを何度か歌ったあと、自分で録音を選び直す様子に驚いています。
ここで行っているのは、録った歌の中から、使いたい部分を選んで一つの歌につなぐ作業です。
ある言葉は一回目の歌がよく、次の言葉は別の回に歌ったほうがよい、ということもある。
単に一番高い音が出た録音を選ぶのではなく、声の勢いや柔らかさ、言葉の聞こえ方を比べて、完成する歌を決められます。
高音が自由に出ることと、録音した高音をそのまま全部使うことは別です。
何度も歌える人だからこそ、どの歌を残すかという判断が重要になります。
パーカーが語ったのは、ブースで歌う人と、録音を聴いて選ぶ人の両方を、アリアナが担っていたということでした。
自分の声を重ねることは、彼女にとって昔からの楽しみでもありました。
まだ14歳だった2007年にも、声を録って繰り返す機材で歌を重ねた動画を公開しています。
歌手デビュー後に、初めて興味を持った作業ではありません。
2021年の「Positions」のVevoライブでは、声を繰り返し再生する機材を操作し、声の重なりを作るところから演奏を始めています。
録音した短い声が繰り返され、その上に別の高さの声が加わる。
主役の歌が始まる前から、彼女自身の声が伴奏の一部になっています。
「The Way」で目立ったのは、前に出てくる一人の大きな歌でした。
「Positions」では、前に出る声だけでなく、その後ろにどんな声を置くかにも耳が向きます。
十代から楽しんでいた声の重ね方が、大きなヒット曲をライブで聴かせる仕掛けにもなっています。
2024年以降|得意な歌い方を、役に合わせて作り直す
映画『ウィキッド』のグリンダ役では、アリアナは再び声の使い方を考え直します。
後に「善い魔女」と呼ばれるグリンダには、クラシックを思わせる高い女声で歌う場面があるからです。
普段のポップスで使う力強い声や、笛のような高音を、そのまま持ち込むだけでは足りませんでした。
本人は、役のために訓練したことで、ポップスを歌うときの声にも変化を感じるようになったと話しています。
映画の中だけで使う特別な声を作り、終わったら完全に元へ戻る、という経験ではなかったのです。
グリンダとして歌うために何を変えたのかは、アリアナ・グランデの歌い方で、「Popular」の登場人物の気持ちとともに詳しく扱っています。

2026年7月に発表した『petal』では、アリアナはイリアと制作を進め、普段より怒りの感情をそのまま曲にしたことも説明しています。
いつもなら言葉を優しく、遠回しに直すところを、今回はそうしなかったというのです。
声の音色を変えることだけでなく、どんな言葉を自分の声で歌うかも、引き続き選び直しています。
自由に歌える声を、どう使うか
『Yours Truly』には、テレビで知った人が驚くような、大きく華やかな歌がありました。
『Sweetener』では、歌い上げと短い言葉のリズムが、一曲の中で表情を変えます。
『Positions』では、本人が録音を選び、前と後ろの声を組み合わせる仕事も見えるようになりました。
そしてグリンダ役では、アリアナ自身の得意な歌い方より、登場人物に合う声を優先しています。
すでにある力を土台にしながら、その役に必要な新しい歌い方を作ったのです。
アリアナの歌声の変遷をたどると、ただ高音が増えたという話にはなりません。
どこで大きく歌い、どこで言葉を短くし、どの声を重ね、誰として歌うのか。
声の選び方が増えるたびに、同じ歌手の曲から、また違う楽しみ方が見つかります。
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