2026年7月のアルバム『petal』について、アリアナ・グランデは、普段なら優しい言い方に直す怒りの言葉を、今回はあまり書き直さなかったと話しました。
ところがリード曲「hate that i made you love me」の歌唱は、音楽批評家のマリア・シャーマンに控えめだと評されています。
強い感情を書くことと、声を強く張ることは、彼女の新作では同じではありません。
2013年の「The Way」では、華やかな高音で歌手として広く知られました。
そこから2026年の、直接的な言葉と抑えた声が並ぶ作品まで、何が変わったのでしょうか。
2007~13年|声を重ねていた少女が「The Way」を選ぶ
テレビドラマの役で広く知られる前、14歳のアリアナは、録った声をその場で繰り返す機材を使い、自分の声を重ねた動画を公開していました。
一人で主旋律も伴奏になる声も作る楽しみは、後年のライブ収録でも生かすことになります。
歌手としての出発点になった2013年の「The Way」は、最初から彼女のために作られた曲ではありません。
共同作詞者のジョーダン・スパークスとプロデューサーのハーモニー・サミュエルズによれば、もとはスパークスの作品に向けた曲でした。
アリアナはスタジオで聴いて気に入り、自分の歌を録りました。
サミュエルズは、レーベルがリード曲として推すことに乗り気でない中、彼女が「The Way」を推したとも振り返っています。
1990年代のR&Bとラップを取り入れた曲で、マック・ミラーの声と並ぶアリアナの高音は強い印象を残しました。
声をマライア・キャリーと比較されることについて、本人は光栄だとしながらも、アルバム全体を聴いて自分の音楽を知ってほしいと語っています。
目立つ高音を持っていることと、どんな曲で自分を紹介するかを決めることは、彼女にとって最初から別の仕事だったのです。

写真:Melissa Rose / CC BY 2.0
2016~18年|予想できる曲の形を離れ、個人的な言葉を戻す
「The Way」の成功後も、同じ作りの曲を重ねるだけでは、アリアナの望む音楽にはなりませんでした。
2016年、ファレル・ウィリアムスに会った彼女は、自分をまったく新しい場所へ連れていってほしいと頼みます。
決まった形で進む曲に飽き、思いがけない展開を求めていたのです。
『Sweetener』(2018年)の制作では、曲の形と同時に、どこまで自分の気持ちを歌詞に出すかも考え直しました。
2017年のマンチェスター公演後の爆破事件を経て、彼女は個人的すぎてファンを心配させると思い、一度は外した曲があったと話しています。
後にその曲を見直し、アルバムへ戻しました。
何を隠し、何を聞き手と分かち合うかという判断も、歌を作る一部になっていました。
同作の「no tears left to cry」は、マックス・マーティンやイリアらと作った曲です。
静かなバラードを思わせる始まりから踊れるビートへ移り、半ばラップのように言葉を刻む歌も使うと、当時の批評家は指摘しました。
ファレルとの曲だけでなく、別の制作チームとの曲でも、一曲の進み方と声の使い方を一つの型に収めなかったのです。
2020~21年|歌った後に残す声も、ライブの重ね方も決める
言葉や曲の形に加え、完成した録音にどの歌を残すかにも彼女の判断が及びます。
『Positions』へ至る曲作りも、最初の案をそのまま仕上げたものではありませんでした。
制作に参加したトミー・パーカーは、年初に一緒に作った曲があったものの、その後、アリアナがアルバムを作り直していると聞いたといいます。
最終的に彼が関わった曲は「love language」でした。
パーカーは、アリアナが一つのフレーズを四、五回歌い、録音した中から使う箇所を自分で組み合わせるのを見たと話しています。
彼が驚いたのは、歌手として録音ブースに入るだけでなく、録った声を聴いて完成形まで選んでいたことでした。
感染症対策で距離を取る必要があったこの時期、彼女は自宅で自分の歌を録ることも多かったと彼は説明しています。
一回の歌を選ぶだけなら、そのときの声を丸ごと残すことになります。
複数回の歌から箇所ごとに選べば、一つのフレーズの中でも採用する声を決められます。
アルバムに並べる曲だけでなく、一行の言葉がどの歌唱で届くかまで、本人が判断していたのです。
アルバムの曲をライブに移した2021年のVevo企画では、別の選択もしました。
制作担当者のエド・ウォーカーによると、アリアナは生演奏に合わせて曲の構成を調整し、「positions」の冒頭を、声をその場で録って繰り返す機材から始める案を出しました。
子どものころに使っていた機材を久しぶりに持ち込み、2007年の動画に残る遊びを、ライブで歌を組み立てる方法にしたのです。
スタジオでは複数回歌った声から採用する箇所を決め、ライブではその場で声を積み上げる。
どちらも「高い声が出る」という一つの能力だけでは説明できない、完成する歌への関わり方でした。
2024年|グリンダとして歌い、自分のポップ作品にも戻る
2024年3月、アリアナは自分名義のアルバム『eternal sunshine』を発表し、11月には映画『ウィキッド』のサウンドトラックが出ました。
発売順ではポップ作品が先ですが、本人は映画の仕事から帰ってアルバムを作ったとき、歌う身体の感覚が以前と違ったと振り返っています。
グリンダ役のために歌う経験は、自分名義の曲を作る時期とも重なっていたのです。
『eternal sunshine』では、現実の経験と作り話の境をぼかし、愛情の複雑な両面を描こうとしたと本人は説明しています。
「yes, and?」のようなダンス曲も、その自分名義のアルバムに収めました。
一方『ウィキッド』では、アリアナ自身の歌としてではなく、グリンダという人物の言葉を歌わなければなりません。
共演したシンシア・エリヴォとアリアナは、映画の現場で歌った声をできるだけ使うことを望み、サウンドトラックの多くにもその録音が残りました。
収録曲の「No One Mourns the Wicked」は、アリアナがグリンダとして歌う曲です。
本人はこの場面に、深い悲しみだけでなく、失望や罪悪感も同時にあると捉えていました。
軽やかな役柄の表面だけを歌えばよいのではなく、言葉の奥にある複数の気持ちを抱えた人物として歌う必要があったのです。
2025年の取材でもアリアナは、グリンダのための訓練後はポップスを歌う声まで違うと、自分の実感を語っています。
役にはオペラを思わせる軽い声が必要で、その部分を鍛える時間を重ねたと説明しました。
役用の響きや言葉をどう鍛えたかは、アリアナ・グランデの歌い方で詳しく扱っています。
「The Way」のころにも、彼女は自分に合う曲を選んでいました。
グリンダ役では、そこからさらに、役に必要な歌い方へ自分を近づける仕事をしています。
その経験を持って自分名義の制作へ戻ったことが、この時期の大きな変化でした。

写真:Barbie Simons / CC BY 3.0
2026年|怒りの言葉と、張り上げない声が並ぶ
『petal』でアリアナが普段より直接的にしたと説明したのは、まず歌詞の言葉です。
一方、マリア・シャーマンが「hate that i made you love me」に見たのは、控えめな声の運びでした。
本人がその曲で声を抑えた理由まで説明したわけではありません。
2018年には、個人的すぎると一度外した歌をアルバムへ戻しました。
2026年には、普段なら和らげる怒りを言葉に残したと語っています。
二つの発言は別の作品についてですが、自分の感情をどこまで言葉にするかを、その都度選んでいることは共通します。
シャーマンは『petal』全体についても、彼女らしい細かな節回しや大きな歌い上げを前面に出さない作品と評しています。
本人が歌詞の怒りを和らげなかったことと、批評家が歌を控えめと評したことは、同時に成り立ちます。
「The Way」で彼女が選んだのは、華やかな声を自分の音楽として届ける曲でした。
その後は曲の展開や残す録音、ライブで重ねる声、役として歌う声も自ら考えてきました。
『petal』の控えめな歌を、この歩みの先に置くと、かつての高音との比較だけでは見えなかったものが浮かびます。
高音が目立つ曲でも、役になりきる歌でも、彼女は歌う言葉と残す声を選んできました。
その選択の場が曲探しから録音、生演奏、映画へと広がっていったことも、アリアナの声の歩みなのです。







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