マライア・キャリーの歌では、高く伸びる声に耳を奪われます。
けれども、その主旋律の後ろには、別の高さやリズムで歌うコーラスもあります。
彼女は録音するとき、そのコーラスを先に作ってから、主役の歌を録る方法を好んでいるそうです。
先に重ねた声を聴きながら、そこへ自分の歌を合わせていく。
マライアにとって歌うことは、一番目立つ旋律を上手に歌い切るだけでなく、いくつもの声を組み合わせる仕事でもありました。
2022年、ブランディを迎えて歌い直した「The Roof(When I Feel the Need)」にも、声の重なりを大切にする彼女の関心が表れています。
コーラスを聴きながら、主旋律を歌う
主旋律は、歌詞を追うときに中心として聴く歌です。
その後ろのコーラスは、同じ言葉を別の高さで歌ったり、長く伸ばした声で主旋律を支えたりします。
一人の歌手が別々に録音すれば、一人では同時に出せない複数の声を、一曲の中で鳴らせます。
マライアは2022年のインタビューで、重ねるコーラスを先に録る理由を、それに合わせて主旋律を歌えるからだと説明しています。
あらかじめ支える声があれば、主役の歌をどこで伸ばし、どこで細かく動かすかも、その響きを聴いて決められます。
別々に録音していても、歌の組み立て方は、ほかの歌い手と一緒に歌うときに近いのです。
たとえば、後ろの声が同じ音を保っているところで、主旋律だけが上へ動く。
その場合、二つの声の間隔が変わることで、主旋律の動きがよりはっきりします。
逆に、両方の声が同じように動けば、そろって歌う強さが生まれます。
コーラスを作るとは、単に声の数を増やすことではなく、主役の歌と何を一緒にし、何を変えるかを考えることです。

高い声にも、柔らかい声にも役割がある
声を重ねる音楽では、息を含んだ柔らかい声も、曲の響きを作ります。
主旋律より控えめに歌いながら、和音を作ったり、主役の歌が途切れたあとまで音を伸ばしたりできます。
歌の中心を邪魔せずに響きを続けることも、コーラスの大切な役割です。
強く歌う声と、柔らかく歌う声を、すべて同じ勢いにそろえる必要はありません。
後ろの声が落ち着いていれば、主旋律だけが切迫していく変化も伝わります。
声の大きさや高さを一つずつ評価するより、それぞれの声が一緒に鳴ったとき、どんな歌になるかを考えるほうが、マライアの録音の面白さへ近づけます。
細かな歌い回しが動き回っても、後ろの声が曲の響きを保っていれば、聴き手は歌の流れを追いやすくなります。
目立つ歌と支える歌の両方を作れることが、彼女の自由な歌い回しを支えているのでしょう。
ブランディとの共演でも、声の混ざり方を考える
「The Roof」は、もともと1997年の『Butterfly』に入っていた曲です。
25周年を迎えた2022年には、ブランディとの新しい版が作られました。
マライアはブランディについて、自分と同じように、コーラスの組み立てや声の質感を混ぜることが好きな歌手だと話しています。
この共演では、二人の声がどう組み合わされているかにも注目したくなります。
相手と同じ音を歌っているのか、別の音を歌って和音を作っているのか。
一方が細かく動くあいだ、もう一方はどんな歌を歌っているのか。
一番目立つ声だけを追うのをやめると、聴く対象が、歌手の上手さから、二人で作る歌へ変わります。
一人で声を重ねているときにも、マライアは、このように複数の歌い手がいる状況を作っていました。
そこへ、声の重なりを一緒に考えられるブランディが加わる。
二人が共演する面白さは、主役として歌う力に加えて、重ねる声の響きまで一緒に考えられるところにあります。
クリスマスの歌で誇るのも、コーラスだった
「All I Want for Christmas Is You」について、マライアが特に誇りにしているのも、声の組み立てです。
1994年のこの曲では、ほかの歌い手たちとコーラスを作りました。
2023年の米国議会図書館のインタビューで、その録音を、とりわけ楽しかった仕事として振り返っています。
この曲で作りたかったのは、人が楽しい時間を過ごしていると感じられる音楽でした。
大勢の声が一緒に響くことは、そのにぎやかさにつながります。
華やかな伴奏の上にマライアが一人で立っているだけでなく、主役の周りにも歌う人たちがいる。
あの曲の明るさを考えるときは、そうした声の集まりにも耳を向けたくなります。

高い音を歌う難しさを尋ねられても、本人は、この曲を自分の歌唱力の見せ場としては捉えていないと答えています。
彼女にとっては、お祝いの歌なのです。
目立つ高音も、歌い回しも、コーラスも、聴く人がその楽しさを感じるために使う。
歌唱力があることと、その力で何を作りたいかが、ここでははっきり結びついています。
支える歌を知っているから、主役の歌も変えられる
マライアは、自分がバック・コーラスの仕事から始めたことを、声の重なりへの関心と結びつけています。
歌の中心に立つ以前から、ほかの歌を支える声の役割を知っていたわけです。
また、マイケル・ジャクソンが自分の声を重ねる録音にも惹かれていました。
マイケルは同じコーラスを、マイクからの距離を変えて歌い重ねています。
その工夫はマイケル・ジャクソンの歌い方でも扱っていますが、マライアも、自分の声を一つの旋律だけに使わず、曲の響きを作るために使ってきた歌手です。
そして、柔らかいコーラスを背に、主旋律を強く歌い上げるのが、2005年の「We Belong Together」です。
初期の高音から、この曲の細かなリズムと終盤の歌い上げへ至る変化は、マライア・キャリーの歌声の変遷でたどっています。
コーラスを先に録るのは、主役の歌が、ほかの声とどう響くかを聴きながら歌いたいからでした。
録音されたマライアの歌は、主旋律と、それを支える複数の声でできています。
主旋律の後ろで伸びる声や、別の動きをする声まで追うと、高音に驚いたあとにも、聴きたいものが残ります。
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