ジェシー・Jの歌い方|「Big White Room」は、なぜライブ録音で完成したのか

ジェシー・Jのデビュー作『Who You Are』には、ライブで録音された「Big White Room」が入っています。
何度も録音し、作り直してみたものの、本人には何かが足りないと感じられた曲です。
ようやく納得できたのが、ロンドンのライブ会場、スカラで歌った声でした。

強く歌えて、声でいろいろなことができる人でも、それだけで欲しい歌になるとは限らない。
この一曲をたどると、ジェシーが歌うときに、聴く人の存在をどれほど必要としていたかが分かります。
「Big White Room」はデビュー後も歌い続けられ、2019年のトルバドール公演でも取り上げられました。

何度録り直しても、埋まらなかったもの

「Big White Room」は、ジェシーが子どものころに入院したときの記憶から生まれました。
同じ病棟にいた少年の死を、幼い彼女はうまく理解できずにいました。
17歳で書いたこの曲は、誰かにヒット曲を求められて作ったものではなく、自分の中に残る出来事を言葉にしようとした歌でした。

彼女には、小さいころから人に気づかれるほどの声がありました。
姉たちが入っていた学校の合唱団に、自分は声が大きすぎて入れなかったという話までしています。
本人は声を楽器として捉え、声で工夫することが好きだったとも語っています。
歌う力も、歌にしたい経験もありました。

ニューヨークで歌うジェシー・J
ニューヨークで歌うジェシー・J。写真:Richard & Son Theater / CC BY 2.0

ところが、「Big White Room」をレコードにする段階では、それで解決しませんでした。
録音や作り直しを重ねても本人はしっくり来ず、ギタリストのベンと演奏したスカラでのライブ録音を選んだのです。
後年には、この曲をスタジオで歌っても必要な感情になれず、観客を感じることが必要だったと説明しています。

この背景を知ると、ライブ版を収めた意味が変わってきます。
ジェシーにとっては、人が目の前で聴いている状況でこそ、納得できる歌になった一曲でした。

浴室からの動画も、人に向かって歌うためだった

実はアルバムが出る前にも、ジェシーは「Big White Room」で聴き手を探していました。
初期のYouTube投稿です。
本人のチャンネルには、ロサンゼルスの浴室で歌う動画が残っています。

当時の本人は、スタジオにこもることにもどかしさを感じ、人前で歌うのが恋しかったと話しています。
動画を投稿するのは、そんな彼女にとってライブに近いことでした。
まず自分を直接見てもらい、歌を聴いた人の率直な反応を受け取りたかったのです。

浴室の動画とコンサートでは、規模も音の響きも違います。
それでも、録音を仕上げる作業の先に、聴いてくれる人を求める気持ちは共通しています。

「Who You Are」では、最初の録音を残した

一方、同じアルバムの表題曲「Who You Are」には、別の成り立ちがあります。
ロサンゼルスで制作を続けていたジェシーは、レーベルやスタジオを行き来するうちに、自分が何者なのか分からなくなっていました。
鏡を見て、髪が思うように整っていないことに腹を立て、泣いてしまったと振り返っています。
髪形だけの問題に見えて、その背後には、自分を見失うほどの疲れや混乱がありました。

翌日、スタジオでその気持ちを書いたのが「Who You Are」です。
彼女は涙を流しながら歌い、アルバムには録り直さずに、そのデモの歌を残しました。

「Big White Room」では、納得できる歌になるまで録音を重ね、ライブ版を選んだ。
「Who You Are」では、曲が生まれたときの歌を残した。
同じ歌手、同じデビュー盤でも、採用する録音は違います。
最初からライブならよい、スタジオならよいと決まっていたわけではありません。

「Who You Are」が人に届くと、つらい時期をこの曲に支えられたというメッセージが本人へ寄せられました。
自分の混乱から生まれた言葉を、別の人生を送る人が、自分のための歌として受け取ったのです。
ジェシーがデビュー当時から語っていた、歌と聴き手の関係が、ここでも形になっています。

その後、ヒット曲を重ねた彼女は、もう一度、自分で書いた言葉を歌うことの意味を問い直します。
その転機は、ジェシー・Jの歌声の変遷で詳しくたどっています。

「Big White Room」は、何度も作り直した末に、ギターと歌、そして客席のある録音へ行き着きました。
声を思いどおりに使えることに加えて、誰かに向かって歌っている実感も欲しかった。
ジェシーが選んだライブ版には、そんな歌手と聴き手の関係まで残っています。

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