ジェシー・Jの歌声の変遷|「Bang Bang」の成功後、何を歌うかを選び直した

2017年12月、ロサンゼルスで歌うジェシー・J シンガー
Justin Higuchi / CC BY 2.0

ジェシー・Jは、「Bang Bang」のような大きなヒット曲を、もう歌いたくなくなったわけではありません。
ただ、その種の曲を歌い続けるには、自分が書いた「Think About That」のような歌も必要だと考えるようになりました。

2014年の『Sweet Talker』から、2018年の『R.O.S.E.』へ。
彼女の音楽は、華やかな共演曲から、伴奏を抑えて声と言葉を前に出す曲へと大きく変わります。
その理由をたどると、強い声を持つ歌手が、何を歌えば歌う喜びを保てるのか、という問題に行き着きます。

2014年、「Bang Bang」で三人の声が集まった

「Bang Bang」は、ジェシー・J、アリアナ・グランデ、ニッキー・ミナージュが共演した曲です。
ジェシーのソロの歌だけで押し切る構成ではなく、アリアナの歌、ニッキーのラップが加わり、一曲の中で主役が入れ替わっていきます。
2014年のアルバム『Sweet Talker』を代表する、にぎやかな共演曲になりました。

この時期のジェシーは、『Sweet Talker』をソウルやゴスペルの要素を持つポップだと説明しています。
自信を持ち、自由でいられる当時の自分に合った作品だと考えていました。
あとから方向性が変わったからといって、当時の彼女が嫌々こうした曲を歌っていた、と決めつける必要はありません。

そもそも、デビュー盤『Who You Are』から音楽の好みは幅広い人でした。
違うタイプのシングルが集まるようなアルバムを目指し、ひとつのジャンルに収まることを望んでいなかったのです。
強い歌声をポップの中で思いきり使うことも、ジェシーのやりたかった音楽でした。

2014年、ロンドンのiTunes Festivalで歌うジェシー・J
2014年、ロンドンのiTunes Festivalで歌うジェシー・J。写真:Drew de F Fawkes / CC BY 2.0

それでも、ヒットする歌を歌えることと、次も同じ方向へ進みたいかどうかは、別の問題として残りました。
『Sweet Talker』のあと、彼女は新しい音楽を作りたくないと思うほど、行き詰まってしまいます。

2017年、書くつもりのなかった歌が生まれた

当時のジェシーは、音楽の仕事と、自分が表現したいことを切り離せなくなっていました。
やめたいのはビジネスの部分だったのに、音楽そのものまで楽しめなくなっていたと振り返っています。

そこでプロデューサーのDJキャンパーが聴かせたのが、のちに「Think About That」になる伴奏でした。
そのビートが繰り返し流れるうちに、彼女は約20分で曲を書き上げたといいます。
もう書きたくないと思っていた人から、言葉と旋律が出てきたのです。

ここで歌われるのは、つらい扱いを受けてきた経験でした。
本人は、歌詞を声に出して初めて、自分がどんなことをされていたかを実感したと説明しています。
派手な曲を歌うことへの反発を、そのまま作品にしたのではありません。
まず、自分の中にあったことを歌にする必要がありました。

「Think About That」の落ち着いたR&Bの伴奏は、その言葉を中心に置きます。
「Bang Bang」のように共演者が次々と登場する曲とは、歌を聴くときの焦点が変わります。
同じジェシーの声でも、誰かとの掛け合いを楽しむ場から、彼女自身が相手に何を言っているのかを追う場へと変わったのです。

2018年、伴奏を抑えても、声の豊かさは残る

この制作から生まれたアルバムが『R.O.S.E.』です。
2017年に先行して発表された「Not My Ex」も、翌年のアルバムに収められました。
恋愛を歌うこの曲でも、自分の経験が言葉になっています。

以前の恋人から受けた傷を、新しい相手との関係に持ち込んでしまう。
「Not My Ex」は、その不安を自覚して相手と向き合う歌です。

編曲も声の聴かせ方に関わっています。
この曲ではソウルの伴奏が抑えられ、ジェシーの声が前に出ます。
伴奏を整理したぶん、聴き手は一つのフレーズの伸ばし方や細かな動きに注意を向けやすくなります。
落ち着いた曲調になっても、声を伸ばしたり、旋律を豊かに動かしたりする持ち味を捨てたわけではありません。

『R.O.S.E.』を、ただ歌声がおとなしくなった作品と受け取ると、この変化を見落とします。
変わったのは、声を聴かせる周りの音と、その声で伝える言葉でした。
曲も編成も違うため、高音の出方だけで以前より上達した、衰えたと比べる話にはなりません。

自分で書く歌が、ヒット曲を歌う力にもなる

ジェシーはこの転機について、「Bang Bang」のような曲を再び歌うためにも、「Think About That」のような曲が必要だと話しています。
大きなヒットを否定して、静かな歌だけを選び直したのではありません。
自分が書いていない曲、自分の心に近いとは思えない音楽ばかりを続けると、なぜ歌い始めたのかを見失うと感じていたのです。

自分の経験を歌にすること自体は、デビュー時から続いています。
「Big White Room」や「Who You Are」で、本人がどんな録音を選んでいたかは、ジェシー・Jの歌い方で扱っています。
『R.O.S.E.』は新しい曲調への挑戦であると同時に、自分の出来事から歌を作る方法へ戻る作品でもありました。

その後、2025年には『Don’t Tease Me With a Good Time』を発表しています。
過去の喜びや苦しみを扱い、ロサンゼルスで5年をかけて作られたアルバムです。
自分に起きたことを曲にする歩みは、『R.O.S.E.』だけで終わりませんでした。

「Bang Bang」から「Not My Ex」への変化は、大きな声を出すのをやめた、という一本道ではありません。
華やかな共演で歌を盛り上げる場と、自分の言葉を一人で届ける場。
ジェシーは、その両方を自分の音楽に持たせようとしました。
『R.O.S.E.』は、歌うことをもう一度楽しむために、自分の書く言葉へ戻った作品だったのです。

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