シンディ・ローパーは「True Colors」を、車を運転している人の耳元で、誰かが優しくささやくような歌にしたいと考えていました。
人を励ます歌を、そっと語りかける声で歌う。その選択には、自分も悲しみの中にいた経験が関わっています。
「Girls Just Want to Have Fun」のにぎやかなイメージからは、意外に思えるかもしれません。
けれど、シンディはどちらの曲でも、歌の中の言葉を誰のために歌うのかを考えています。
その違いをたどると、1986年の「True Colors」の静かな歌い方が、消極的な選択ではなかったことが分かります。
悲しいときに、強い声が欲しいとは限らない
「True Colors」を書いたのは、ビリー・スタインバーグとトム・ケリーです。
スタインバーグが最初に書いた歌詞には、母親への思いがありました。
ケリーとの制作で、特定の相手だけでなく、悩んでいる人に広く届く励ましの歌へと整えられていきます。
シンディ自身の体験から書き始めた曲ではありません。
彼女はこの曲に出会ったころ、親しい友人のグレゴリー・ナタールを失い、深く傷ついていました。
励ましを歌う本人も、その言葉を必要としていたのです。
歌のイメージを説明するときには、優しく、飾らずに伝えることの強さを語っています。
大きな声で奮い立たせることが、いつも励ましになるとは限らない。
そう考えると、この曲のささやきは、ただ声量を下げただけの歌い方には思えなくなります。
歌手がどれだけ声を出せるかより、聴く人がどう受け止めるかを優先した声なのです。
作曲者側から見ても、これは用意された歌をそのまま歌う仕事ではありませんでした。
スタインバーグは、シンディの録音が自分たちのデモとは大きく違うものになったと振り返り、彼女の編曲を評価しています。
他人が書いた曲でも、どう聞こえる歌にするかは、歌い手の仕事として残っていたのでした。
明るく歌う前にも、歌の意味を選び直していた
1983年の「Girls Just Want to Have Fun」にも、歌い方を考える前の迷いがありました。
この曲も、シンディの自作ではありません。
ロバート・ハザードによる元の歌を聴いた彼女は、男性側から女性を眺める内容に抵抗を感じ、当初は歌いたくないと思っていました。
プロデューサーのリック・チャートフは、女性である彼女が歌えば意味が変わるのではないか、と促します。
シンディが考えたのは、自分の母親や祖母、おばたちのことでした。
女性たちが自分の楽しみを後回しにせず、喜びを持って生きる。その思いなら、自分の歌にできると考えたのです。
この背景があると、曲のにぎやかさの意味も変わってきます。
ただ場を盛り上げるために明るいのではなく、遠慮してきた人たちにも楽しむ権利がある、と歌っている。
大勢で楽しめる開放的な曲調が、その言葉を後押しします。
「True Colors」で思い浮かべていたのは、傷ついている人のそばにいる場面でした。
一方の「Girls Just Want to Have Fun」では、女性たちが遠慮せず喜べる場面を作ろうとしていた。
どちらも人を励ます曲ですが、必要としている励まし方が違います。
シンディの明るい歌と静かな歌をつなぐのは、いつも同じ声を出すことではなく、この相手への想像力です。

「Time After Time」にも残った、作ったばかりの歌
同じデビューアルバム『She’s So Unusual』の「Time After Time」では、もっと個人的な情景が歌になりました。
シンディはロブ・ハイマンと共作し、身の回りの記憶を曲に持ち込んでいます。
たとえば時計の音には、恋人との暮らしの中にあった、うるさい時計の記憶がありました。
立派な教訓を先に用意した曲というより、生活の細部から、離れても相手を思う歌を作っていったのです。
録音についてハイマンが覚えているのも、その新鮮さでした。
別にデモを作る段階を挟まずに録音へ進み、シンディの歌は最初のテイクか、それに近いものだったと振り返っています。
長く歌い込んでからでなければ残せない、とは考えなかったのでしょう。
曲を作ったときの気持ちがまだ近くにある声を、そのまま作品にできたのです。
ただし、伴奏まで一度に完成していたわけではありません。
ハイマンによれば、ベースの音は後から加えられ、サビで入ってくる形になりました。
歌を何度も強くし直す以外にも、伴奏の入る位置を変えて、サビの広がりを作る方法があったわけです。
歌声が穏やかなままでも、曲全体は動いていきます。
シンディの歌では、励ます言葉が、いつも同じ強さの声になるわけではありません。
喜びを取り戻してほしい人には「Girls Just Want to Have Fun」の明るさがあり、悲しみの中にいる人には「True Colors」の優しさがある。
「True Colors」をささやくように歌ったのは、声を張る力が足りなかったからではなく、その人のそばにいるように届けたかったからです。
その後、ブルースやカントリーの曲に取り組む際にも、彼女は歌う相手や編成に合わせて声を探しました。
ウィリー・ネルソンとの共演で選んだ声や、昔から好きだった歌手のまねではうまくいかなかった経験は、シンディ・ローパーの歌声の変遷でたどっています。
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