Jinjerのタチアナ・シュマイリュクは、メロディーを歌う声と、低く荒々しいグロウルを一人で使い分けます。
「Pisces」でその落差に驚くと、どうしても切り替えの瞬間へ耳が向きます。
けれど、声の選び方は、穏やかな声と激しい声の二択ではありません。
同じクリーンな声でも強さを段階的に変え、長いグロウルでは録り方まで工夫する。
曲のどこへ、どの強さの声を置くかに、彼女の歌のもう一つの特徴があります。
2017年公開のライブ・セッション。
クリーンとグロウルを、別々の歌手の役にしない
クリーンは、ここでは強い歪みを伴わず、メロディーを歌う声のことです。
グロウルは、低く唸るような激しい声を指します。
タチアナの歌に出会ったときの驚きは、その二つが同じ歌い手から出てくる点にあります。
「Pisces」の2017年のライブ・セッションは、この対比を一人のパフォーマンスとして伝えた映像です。
本人は2025年にも、クリーンだけを求める人と、グロウルだけを求める人の双方がいると話しています。
しかし、自分は両方が好きだから両方を歌うというのが彼女の答えでした。
聴き手が好む片方へ統一することより、自分が使いたい声を曲に残すことを選んでいるのです。
その感覚には、Guano Apesのサンドラ・ナシッチから、クリーンと激しい声の双方に影響を受けた経験も重なります。
一方だけが本来の歌で、もう一方が驚かせるためのおまけ、という関係ではありません。
タチアナにとっては、どちらも歌を表現するための声です。
「I Speak Astronomy」は、きれいな声の中にも段階がある
声の使い分けをもう少し細かく見るなら、「I Speak Astronomy」の終盤が興味深い例です。
暖かく控えめな歌唱から、オクターブ違いの声を重ねる段階を経て、最後に高く強く張る歌唱へ進みます。
同じメロディーを繰り返す中で、声の強さと録音上の重なりが変わり、山場を作っているのです。
これは、グロウルを足さなくても、歌う声そのものに段階を作れるという例です。
なお、オクターブ違いの重なりは録音で加えられた声であり、一度に一人が発している声の性質とは分けて考える必要があります。
音色、張り方、重ね方が一緒になって、終盤の広がりを支えています。
タチアナ自身も、この曲の高い音を録るのは難しく、ライブでも難しさが残ると話しています。
録音中に良いと思えた歌について、メンバーからライブでも歌えるのかと聞かれることもあるそうです。
ヘッドホンで聴きながら作る歌と、ステージで再現する歌には、本人が意識する距離がありました。
強く張った声を、いつでも同じ条件で取り出せるものと捉えないことも、この歌唱を理解するうえで大切です。

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「Vortex」の長いグロウルは、一度で完成した声ではない
低く激しい声にも、短く切る場合と、長く引き延ばす場合があります。
「Vortex」の終盤について、本人は、そこに合うようにできるだけ低い声を求めたと説明しています。
録音では区切りながら取り組み、長く伸ばす部分では大きく息を吸ったとも話しました。
最初の一回で出来たわけではなく、ライブでひと続きに歌うことは別の課題だったといいます。
この本人の説明が具体的なのは、声の低さに加え、長さと息継ぎ、録音の区切りまで含まれているところです。
完成した一節から受ける迫力の裏には、どこまでを一度に歌うかという判断もあります。
低い声が出せることと、その声を長い一節の中で保つことは、彼女自身が分けて取り組んだ問題でした。
レゲエの歌まで、全部グロウルに置き換えない
タチアナは2014年にも、レゲエやポップスのカバー、ファンク、ジャズを歌った経験について話しています。
曲を作るときには、そこで得た経験を使い、メタルの枠内に自分を閉じ込めないという考えでした。
「Judgement (& Punishment)」でレゲエを取り入れる背景にも、こうした経験があります。
2021年には、ボブ・マーリーをグロウルで歌うのは自分には考えられないという趣旨の話もしています。
声の激しさを、どんな歌にもかける同じ加工のようには扱っていません。
既存のレゲエを激しい声に変えて歌うことと、自分たちの曲にレゲエを取り込むことを、本人は区別していたのです。
何でもグロウルに出来るか、という問いより、その歌をどの声で表したいかという判断が先にあります。
激しい声で通すために、曲の一部をなくすこともある
クリーンと激しい声を両方持っていても、全曲に両方を使うわけではありません。
『Duél』の「Rogue」では、クリーンで歌う予定だった一分以上の部分を、タチアナが激しい声だけで歌いたいと考えたことで削ったと、ヴラドが説明しています。
歌の方針が、曲の長さも変えました。
クリーンへ戻る場面を置かず、荒々しい声を続けることも、彼女が選べる表現です。
二種類の声を持つことと、毎曲で二種類を使うことは違います。

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同じ声を出すことも、試行錯誤の中にある
タチアナは2020年、スクリームの方法は変わり続け、練習を重ねても望む結果にならないことがあると話しています。
一度身につければ、あとは同じ声を自由に出し続けられるという自己認識ではありませんでした。
独学で歌ってきた彼女の発言から見えるのは、声の変化に合わせながら、欲しい表現を探している姿です。
また、2019年には、日常でもいつも何かを歌っていると話していました。
練習用の決まった時間だけに歌があるわけではなかったのです。
この生活上の習慣と、作品で難しい部分を試すことの両方が、彼女の言葉には出てきます。
ただし、普段から歌うという話を、そのままグロウルの具体的な出し方や、誰にでも合う練習法に読み替えることはできません。
タチアナの歌は、違う二種類の声を持つことに加え、その声の強さ、長さ、使わない場面まで選ぶことで出来ています。
「Pisces」の驚きの後に、「I Speak Astronomy」で歌う声の段階を、「Vortex」で長く伸ばす声を、「Rogue」で切り替えを置かない選択を追うと、それぞれ違う問いが見えてきます。
こうした歌を作る工程が年代とともにどう変わったかは、タチアナ・シュマイリュク (Jinjer)の歌唱変遷でたどっています。

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