デミ・ロヴァートの歌声はどう変わった?昔のヒット曲を歌い直して見つけた、今の自分の声

2020年2月、インタビューに応じるデミ・ロヴァート シンガー
Ashley Graham / CC BY 3.0

デミ・ロヴァートは2023年、「Heart Attack」や「Tell Me You Love Me」をロックとして録り直しました。
理由は、昔の歌が下手だったからではありません。
ロック・アルバムを携えたツアーで、かつてのポップ・ヒットを新曲とどう並べるかが課題になったのです。
編曲を変えて歌ってみると、長年歌い続けていた曲が再び楽しくなった、と本人は話しています。

しかも変えたのは伴奏だけではありません。
以前は難しかった高音へ新しい選択を加え、ある曲では短い言葉を一つ足しました。
若いころから高音の難しさにも向き合ってきた歌手は、過去の自分を否定せずに、どうやって今の気持ちで同じ歌を歌えるようになったのでしょうか。

2008年――ロックへ「転向」する前にあった出発点

デミが2008年に発表したデビュー作『Don’t Forget』には、すでにギターを前面に出したポップ・ロックがありました。
「Get Back」もその一曲です。
2022年のロック回帰は、まったく知らない音楽へ初めて踏み込むことではありませんでした。

ただし、最初にロックを歌っていたから、その後のポップやソウル寄りの作品は回り道だった、と片づけることもできません。
デミは後年、子どものころにR&Bやモータウン、ポップにも親しんでいたと話しています。
ジャンルを変えながら歌ってきた時間も、2023年に昔の曲を再録するときの材料になりました。

2013年「Heart Attack」――若い日の高音は、本人にも難しかった

2013年の「Heart Attack」で、印象的な高音を含むブリッジを作ったのは、制作陣から与えられたフレーズをなぞるだけの作業ではありませんでした。
デミは録音中、共作者でプロデューサーのミッチ・アランに、その部分で即興の歌い回しを試してよいか尋ねています。
本人によれば、いくつかの音はその場で浮かんだ一方、実際に当てるのが難しい音もありました。

アランは最後の高音に驚いたと振り返っています。
聴く側には鮮やかな成功として残った録音にも、歌った本人には挑戦の感触があったわけです。
この時点ですでに強い高音を出せたことと、それをいつでも容易に扱えたことは同じではありません。

歌を囲む音も、最初の案からそのまま残ったわけではありません。
アランによれば、当初は大きなブリッジの後に、さらに激しいダブステップの展開を置いていました。
しかし制作陣は、デミの曲としても当時のラジオに向けた曲としても合わないと考え、その部分を削っています。
2013年版の時点でも、強い歌に強い音を足し続けるのでなく、どこまで残せば曲になるかを選んでいたのです。

2017年「Tell Me You Love Me」――ロック化しても残したい歌

2017年の「Tell Me You Love Me」は、デミがソウルフルに歌う曲です。
相手から愛していると言ってほしいと願う言葉には、強さと心細さが同居しています。
後にデミ自身が、この曲の歌唱にはソウルの感触があり、ロックへ作り直すのがとりわけ難しかったと振り返りました。
大きな声や重いギターに置き換えれば済む歌ではなかったのです。

2017年、グラミー・ミュージアムでのデミ・ロヴァート
2017年、グラミー・ミュージアムでのデミ・ロヴァート。
写真:Justin Higuchi from Los Angeles, CA, USA / CC BY 2.0

2022年『HOLY FVCK』――昔の歌を新曲とどう並べるか

2023年の再録へ至る道は、2022年の新作とツアーにあります。
デミは2022年、友人のバンドDead Saraの作品やライブに触れて、ロックへ戻りたくなったと話しました。
『HOLY FVCK』では、初期のポップ・ロックよりも硬い音を求めています。
「EAT ME」で問いかけたのは、周囲が望む昔のポップスター像へ戻るべきなのか、ということでした。

ところが新しいロック曲だけでは、長く親しまれたヒット曲を待つ観客との時間は作れません。
ツアーの準備でデミは、「Heart Attack」や「Sorry Not Sorry」をどう新曲の中へ置くか考え、ロック版をステージで試しました。
客席の反応を得て、さらにスタジオでの再録を選びます。
2023年の『REVAMPED』は、単に昔の流行をロック風に飾った作品ではなく、現在のライブで過去の歌をどう歌うかという実際の問題から生まれたものでした。

収録曲は、昔のヒット曲を機械的に並べたリストではありません。
本人が歌い直したい候補を制作陣へ渡し、実際に作り直されたものから、さらに絞り込んでいます。
試してもアルバムに入らなかった曲もあったと話しました。
記憶の中で好きな曲かどうかに加え、新しい形で歌う作品として残したいかを確かめる過程があったのです。

2023年『REVAMPED』――音を足し、意味を選び直す

「Heart Attack」の再録に向き合ったプロデューサーのオーク・フェルダーは、原曲が頭から離れず、どう作り直すか悩んだと話しています。
解決の手がかりは、昔の歌声を再現することではなく、今のデミがその曲を歌う意味を考えることでした。
デミ自身も、当時の自分と今の自分は違うと認めながら、昔の自分への愛着を語っています。
再録は原曲の取り消しではなく、原曲を残したまま現在の歌唱を並べる選択だったのです。

デミは『REVAMPED』の取材で、長年歌ってきた曲は録音しやすく感じたとも語っています。
一方で、歌い直しでは以前より高い音を加えられると思い、各曲で新たな高音を試したそうです。
2013年の「Heart Attack」で難しいと感じた高音と、2023年に自分から新しい音を足した経験。
この二つを比べれば、単に「昔は高かったが今は低い」という直線では語れないことが分かります。
ただし編曲や録音条件も異なるため、ここから音域が何音広がったかまでは決められません。

本人にとっての課題は、制作陣が整えるロックの伴奏に乗って、歌をどこまでよくできるかでした。
親しみのある歌だから録りやすいことと、そのまま歌えばよいと考えることは別です。
覚えている曲を使って、現在の自分にできることを試していました。

もう一つの難題が「Tell Me You Love Me」でした。
デミが大切にしたかったのは、2017年の歌にあったソウルの感触。
ロックの勢いを加えても、曲のその部分は失わないようにしたと本人は話しています。

新しい歌唱では、声の出し方と同時に、歌詞との距離も変えました。
もとの曲には、恋人がいなければ自分には価値がない、と受け取れる一節があります。
デミはその考え方がステージで歌うたびに気になっていたため、2023年版ではその前に「They say(世間ではそう言う)」を加えました。
わずかな言葉ですが、本人の信念として言い切るのと、世間の言葉として口にするのとでは、歌の意味が違います。

2017年の歌を捨てず、そのよさを残す。
一方、今の自分の価値観に合わない一節は、そのままの立場で歌わない。
旧作を愛しながら手を入れるとは、こういう細かな判断の積み重ねでもありました。

2025年――ロックも、最後の答えにはしなかった

2025年の取材でデミは、ロック・ツアーを終えたころ、次もロックを続けたいと思っていたと振り返っています。
しかし次の制作を始めると、当時の明るい気分にそれが合わなくなった。
R&Bやポップを経て、プロデューサーZhoneが作った「Frequency」のビートに楽しさを見いだし、2025年の『It’s Not That Deep』ではダンス・ポップへ向かいました。
「Fast」は、その新しい時期の曲です。

本人はこの作品を、深く個人的な問題を振り返るだけでなく、今の明るい気分を祝うものとして説明しています。
過去の出来事を歌にすることに慣れていたからこそ、今を歌う方向へ意識を移す意味があった。
『REVAMPED』で昔の歌詞に小さな修正を加えた判断とは方法が違っても、その日の自分が引き受けられる言葉を選ぶ点ではつながっています。

ここを「ロックからまたポップへ戻った」で終えると、2023年の再録で起きたことが見えなくなります。
デミはかつての歌を捨てず、今の声と考え方で歌い直しました。
そして次の作品では、ロックという新しい看板に自分を縛ることもしなかった。
過去の曲に加えた高音や、短い言葉の変更は、その時々の自分にふさわしい歌い方を選ぶためのものです。

「Skyscraper」の録音でなぜ最初の歌を残したのか、「Stone Cold」や「Sorry Not Sorry」にどんな感情を託したのかは、デミ・ロヴァートの歌い方の記事で、曲ごとの選択として詳しく扱っています。

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