スティーヴ・ペリー(元Journey)の歌い方|「Don’t Stop Believin’」は、なぜ最後のサビまで待てるのか

スティーヴ・ペリーの歌声というと、Journeyの曲を大きく広げる、明るく伸びる高音が思い浮かびます。
けれど「Don’t Stop Believin’」では、その声が一番有名な言葉を歌うまで、かなり待つことになります。
曲名でもある「信じることをやめないで」という呼びかけは、曲の終盤に初めて現れるからです。

それまでのペリーは、何を歌っているのでしょうか。
故郷を離れる若者や、夜の街で何かを求める人たちの姿です。
いきなり励ますのではなく、その人たちの話をしてから、大きな呼びかけへ進んでいく。
この順番を声で聴かせるところに、ペリーの高音を楽しむ、もう一つの面白さがあります。

最初は「信じろ」と言わず、二人の話から始める

1981年のアルバム『Escape』に収められた「Don’t Stop Believin’」は、ピアノの繰り返しから始まります。
歌の最初に登場するのは、小さな町の女性と、都会に育った男性です。
二人がどんな仕事をして、どんな人生を送るのかまで、細かく説明されるわけではありません。
今いる場所から別の場所へ向かう、という姿が先に浮かびます。

ペリーの声は、この時点でもよく通ります。
ただ、終盤の呼びかけと同じ勢いで、言葉をすべて押し出すような始まり方ではありません。
短い言葉を連ね、フレーズの終わりでは声を伸ばす。
人物を一人ずつ紹介しながら歌うので、聴く側も、その人たちがどこへ向かうのかを追いたくなります。

高い声が印象的な歌手でも、歌の一行一行を、すべて見せ場にする必要はない。
この曲の冒頭では、どこまで声を伸ばせるかより、誰の話が始まったのかを受け取るほうが、あとに続く展開を楽しめます。
有名なサビを待っているつもりが、気づくと、その前の旋律も追ってしまうのです。

二人から、夜の街にいる大勢へ

曲が進むと、歌の中の景色は広がります。
最初の二人だけでなく、夜の街で出会いを待つ人や、何かに賭けようとする人たちが現れる。
成功した人だけの歌でも、夢がかなったあとを祝う歌でもありません。
まだ何かを探している人たちの歌です。

この広がりとともに、ペリーの歌も、短く情景を伝えるところから、長く張った声を聴かせるところへ進みます。
中盤には、すでにサビと呼びたくなるほど大きな歌のまとまりがあります。
そこで満足してもよさそうなのに、曲はもう一度先へ進む。
高い声が一度出たら終わり、という作りではないところが、この曲の面白いところです。

共作者でキーボード奏者のジョナサン・ケインは、2024年の取材で、この曲にはファン自身を登場させたかったと振り返っています。
どこか別の場所へ行きたいと願う若者は、客席にもいる。
そう考えると、ペリーが遠い架空の人物を歌っているだけでなく、聴いている人の気持ちにも近づいていると感じられます。

2019年4月、シアトルのPop Conferenceで話すスティーヴ・ペリー
2019年4月、シアトルのPop Conferenceで話すスティーヴ・ペリー。写真:Joe Mabel / 色調補正:SilverBullitt / CC BY-SA 4.0

歌の中の人物に、自分に似たところを見つけたあとで、最後の励ましが来る。
先に物語を歌ったことが、ここで効いてきます。
明るい声だから前向きに聞こえる、という説明だけでは、この長い展開の魅力を言い切れません。

サビを遅らせたのは、歌い手自身でもあった

ケインが同じ2024年にTicketmasterへ語った制作の回想では、サビをいつ出すのかという問いに対し、ペリーは最後まで取っておく考えを示していました。
ペリーは完成した旋律を渡されて歌っただけではなく、曲のどこで一番強い言葉を歌うかにも関わっていたのです。

最後に曲名の言葉が現れると、それまで街の人たちを描いていた歌が、聴く人への直接の呼びかけとして聞こえてきます。
説明する言葉から、覚えて一緒に歌える短い言葉へ。
ペリーの伸びる声が、その短い言葉を大きく聴かせます。

最初から何度も同じ励ましを繰り返していたら、受け取り方は違っていたかもしれません。
ここでは、その前に、行き先を探す人や、うまくいくか分からないまま夜を過ごす人の姿を知っています。
だから「信じ続ける」という言葉も、ただ明るく考えればいい、というほど簡単な意味には聞こえなくなる。
迷っている人に向けて歌われるからこそ、声の強さが励ましになるのです。

この曲でペリーが作る盛り上がりは、声量を少しずつ上げることだけではありません。
誰を歌うか、どれくらい言葉を続けるか、いつ呼びかけへ変えるか。
曲の構成と、歌い手の言葉の扱い方が一緒になって、大きなサビを準備しています。

普通の言葉が、歌い方によって特別になる

ペリーは2020年のAmerican Songwriterの取材で、子どもの頃に感心した歌として、サム・クックやドリフターズを挙げています。
特に面白いのは、ドリフターズの歌詞に出てくる、ホットドッグやフライドポテトのような普通の食べ物の話です。
紙の上では特別に思えなかった言葉が、実際に歌われると心に残る。
彼が気にしていたのは、何を言うかだけでなく、どう歌うと、その言葉が魅力を持つのかでした。

「Don’t Stop Believin’」の若者や夜の街も、誰にも想像できないような珍しい題材ではありません。
ペリーは、そんな身近な情景を、短い語り口と長い声の両方で歌っています。
言葉を次々に進めるところがあるから、一つの音を長く伸ばすところで、気持ちの大きさが変わったように感じられる。
高音は、歌詞から離れた飾りとしてだけ聞こえるわけではありません。

ペリーが憧れの歌手から学ぼうとしたのは、ありふれた言葉を、人に聴いてもらえる歌へ変える力でした。
それを踏まえてJourneyに戻ると、大きなロックの音の中で、言葉を短く切るところや、語尾を伸ばすところにも耳が向きます。
声の高さに驚くだけでなく、その歌い方で言葉の印象がどう変わるかも楽しめるのです。

2006年のスティーヴ・ペリー
2006年のスティーヴ・ペリー。写真:Rev. Raikes / CC BY-SA 2.0

後年のペリーは、復帰作で声の粗さを残したり、伴奏を減らして歌詞を聴かせたりもしています。
その声の変化と録音の選び方は、スティーヴ・ペリーの歌声の変遷で、1981年の歌唱からソロ復帰後の作品へとたどっています。

高音が届く頃には、歌の相手が見えている

「Don’t Stop Believin’」では、まず二人の若者が現れ、夜の街の人たちへと景色が広がり、最後に直接の呼びかけが届きます。
ペリーの歌も、短い言葉を伝えるところから、長く伸びる声で大きく訴えるところへ動いていく。
聴き手はサビを待つ間に、その励ましを必要としている人たちを知ることになります。

だから、最後の高音だけを切り取るより、そこへ至る歌を聴くほうが面白い。
ペリーの声には、一度聴けば分かる華やかさがあります。
その華やかさをいつ使えば言葉が強く届くかまで考えられていることが、この歌を何度も最初から聴きたくなる理由の一つです。

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