アヴリル・ラヴィーンの歌には、友達に話しかけるような親しみやすさがあります。それでいて、サビでは思わず一緒に声を張りたくなる。そんな歌を、録音やライブで本人たちはどう作ってきたのでしょうか。
初期の録音では、緊張せずに歌える環境が大切にされていました。一方、ツアーでは、高い音を毎晩歌うために発音や声の使い方を調整しています。自然に聴こえる歌を支えているのは、勢いを生かす判断と、歌い続けるための工夫です。
2002年のデビューアルバム『Let Go』に収められた「Complicated」に、その出発点があります。
本番だと気負わずに歌えた録音
「Complicated」の制作に携わったのは、ローレン・クリスティら3人による制作チーム、ザ・マトリックスです。彼らがアヴリルの歌を録った場所は、ロサンゼルスの住宅を使ったスタジオでした。
大きなスタジオに呼ばれ、周囲の期待を背負ってマイクの前に立つ。そのような緊張を、この録音ではできるだけ減らしていました。チームのスコット・スポックによると、アヴリルはデモを作っていると思っていたほど、くつろいで歌っていたそうです。
スポックは、1曲につき5、6回歌を録り、その大部分に最初の2回の歌唱を使ったとも説明しています。何度も繰り返した末の歌が、必ずしも一番よいとは考えていなかったのです。
緊張を減らす環境を用意し、録り始めのよい歌を生かす。初期の録音の話からは、歌手がのびのび歌えるように支えた制作側の判断が見えます。アヴリルの自然な歌声と、それを引き出す録音環境がうまく出会っていたのです。

親しみやすい歌でも、サビだけに頼らない
ただし、くつろいだ歌を録れたからといって、曲作りまで成り行きだったわけではありません。「Complicated」は、サビ以外の部分にも手を入れています。
ザ・マトリックスは、最初にできたAメロを作り直しました。サビを待つための部分で終わらせず、Aメロ自体にも耳に残る旋律が必要だと考えたからです。
これは歌い方を考えるうえでも大切な前提です。歌手が親しみやすい声で歌っていても、旋律の側には人を引きつける工夫がある。サビで急に頑張るだけで曲を成立させているのではなく、そこへ至る歌にも、覚えて口ずさみたくなる形が与えられています。
同じ『Let Go』の「I’m with You」では、若いころからの声の力強さに驚く人もいます。2022年のインタビューでは、そうした反応を伝えられたアヴリルが、録音ブースで歌ったときのこと、とりわけ言葉にならない声を伸ばす部分を覚えていると話していました。
「I’m with You」で声を伸ばす部分も、アヴリルの歌を好きになる理由の一つでしょう。では、こうした高い音を含む曲を、ツアーで何度も歌うときにはどうしているのでしょうか。
高音を毎晩歌うために、発音も変える
録音でよい歌が残せても、ツアーでは同じ曲を繰り返し歌うことになります。ここでは、声の勢いに任せるだけでは済まない工夫が出てきます。
2011年の曲「What the Hell」について、アヴリルは低い音から高い音まである曲だと説明しています。ライブでは、母音の響きを広げすぎずに歌い、ある音では本人のいうヘッドボイスを使うなど、声を調整していたそうです。
高い音を歌うときには、音程だけでなく、言葉の響きや使う声も選んでいる。本人の説明を知ると、あの軽快な歌を毎晩届けるための、細かな判断が見えてきます。
自然に聴こえる歌を、どう残すか
アヴリルの歌の親しみやすさは、声の個性だけで決まっているわけではありません。初期の録音では気負わずに歌えたテイクを生かし、曲作りではサビの手前にも耳に残る旋律を用意し、ライブでは高い音の歌い方を調整していました。
録音するときと、ステージで繰り返し歌うときでは、必要な工夫が違います。それでも、聴き手には難しい作業の説明ではなく、歌の気持ちが先に届く。そこに、アヴリルの歌を自然に感じる理由の一つがありそうです。
その後は、声の細かな表情や、感情で震えた歌まで録音に残すようになります。アヴリル・ラヴィーンの歌声の変遷では、2011年以降、本人がどんな声を作品に残そうとしたのかをたどっています。
こちらの記事もおすすめ






コメント