マイルズ・ケネディ(Alter Bridge)の歌い方|高音が出ても、難しい歌はなくならない

2017年、Nova Rockのマイルズ・ケネディ シンガー
Alfred Nitsch / CC BY-SA 4.0

マイルズ・ケネディの歌には、難しい高音も歌い切ってしまう印象があります。
Alter Bridgeで歌い、スラッシュとも共演する彼なら、声さえ出れば怖い曲はないように思えるかもしれません。
ところが、本人が語る「歌う難しさ」は、高さの話だけでは終わりません。

息を吸う隙間が少ない曲。
二時間歌ったあとに待っている曲。
そして、歌詞に込めた思いが重く、毎晩歌うのはつらい曲。
マイルズは、それぞれの難しさに合わせて、力の使い方も、歌い方も考えています。

Alter Bridgeの「Blackbird」も、本人がライブで歌う難しさを挙げた曲です。
2007年の曲を2023年のResurrection Festでも歌っていますが、彼が難しいと言う理由は、声の高さだけからは分かりません。

高い音を出す前に、息を吸う場所がいる

スラッシュとの「The Call of the Wild」は、2018年の『Living the Dream』に収められた曲です。
この曲についてマイルズは、サビが特別に高いわけではないのに、歌う音が多く、その次の部分に入る前に息を吸う場所を探してしまうと話しています。

一音だけを取り出せば歌えても、その手前から続けて歌うと難しくなる。
歌には、音の高さに加えて、どこまで続けて声を出し、どこで息を継げるかという問題があります。
マイルズの説明は、その違いをよく表しています。

高音についても、長く伸ばす音を増やせば増やすほどよいとは考えていません。
本人は、適切な技術を使っていても、長い高音を多く歌うと、その後の低い声の音程やコントロールに影響することがあると説明しています。

聴く側には、一曲の頂点に聞こえる高音があります。
歌う側には、その音を出したあとに、次のフレーズを歌う仕事が残っています。
マイルズが考えているのは、最高音を一度成功させることだけでなく、その先まで歌を続けることなのです。

二時間歌ったあとの「Anastasia」

同じ曲でも、公演の最初に歌うのと、終盤に歌うのでは条件が変わります。
スラッシュとの「Anastasia」について、マイルズは、二時間ほど歌ったあとの出番になると、特に歌い出しからの節が難しくなると話していました。

そんなときには、一部の言葉の音を下げて歌うこともあります。
録音どおりの高さを狙って音に届かなくなるより、その日の声で正確に歌える旋律を選ぶためです。
本人は、無理に同じ音を出そうとして崩れることより、歌として成立することを優先しています。

これは、どんな曲も低く変えてしまうという話ではありません。
一晩の中でどれほど歌ったか、その日の調子はどうかを踏まえ、必要なところだけ歌い回しを変える。
スタジオ版との違いを見つけたときも、ただ最高音が出たかどうかを見るだけでは、その判断の意味までは分かりません。

2012年、ブリクストンで共演するマイルズ・ケネディとスラッシュ
2012年、ブリクストンで共演するマイルズ・ケネディとスラッシュ。写真:Kreepin Deth / CC BY-SA 3.0

「Blackbird」が難しいのは、歌に重さがあるから

冒頭の「Blackbird」は、マイルズが友人に向けて書いた曲です。
曲の完成と重なる頃に、その友人は亡くなりました。
マイルズは、苦しみから離れて、安らぎを得てほしいという願いを、この曲に込めています。

2024年にライブで難しい曲を聞かれたとき、彼は「Blackbird」を挙げ、その曲の持つ重さを理由にしました。
さらに、ソロ作の「The Great Beyond」も挙げています。
こちらは、実の父が亡くなった夜を扱った歌です。

「The Great Beyond」を書くことは、自分の気持ちを整理し、前へ進む助けになった。
一方で、その出来事を毎晩歌うとなると、感情的に消耗してしまう。
本人は、曲を作って救われたことと、ライブで繰り返し歌う難しさを、分けて話しています。

2018年の『Year of the Tiger』に収められた「The Great Beyond」は、その背景を知ると、声の強さだけを聴く曲ではなくなります。
歌える音域に収まっているかどうかとは別に、歌うたびに向き合う記憶があるのです。

ギターが加わると、歌だけに集中できない

マイルズは歌手であると同時に、ギタリストでもあります。
Alter Bridgeの「This Side of Fate」では、曲の中盤を歌いながら弾くことが難しく、ライブに向けて十分な練習が必要だと話していました。

歌の旋律を覚え、歌詞を覚えれば終わりではありません。
同じ瞬間に、手は別の動きをする必要があります。
2021年には、三人編成のソロ公演で、歌詞やコード進行、ギターの弾き方を同時に考える難しさも説明しています。

音が少ない編成なら、歌は楽になるように思えます。
でも、歌いながら楽器も担う本人にとっては、他の音に隠れずに弾き、歌い続ける責任が増える面もある。
大きなバンドと小さな編成のどちらが簡単かは、伴奏の音量だけでは決まりません。

2023年、ウェルモント・シアターのマイルズ・ケネディ
2023年、ウェルモント・シアターのマイルズ・ケネディ。写真:basansotta / CC BY 2.0

歌の力を使い切る前に、休ませる

録音でも、マイルズは、最初から最後まで全力で何度も歌う方法を見直しています。
長く仕事をしてきたプロデューサー、マイケル・“エルヴィス”・バスケットとは、一つの部分へ集中して歌い、そのあと数分休むやり方を採るようになりました。
声が疲れ切る前に、欲しい歌を録るためです。

力のある声だから、使える力も無限にあるわけではない。
ライブで音を選ぶ判断と、録音で休む判断は、どちらも、よい歌を最後まで保つことにつながっています。

マイルズは、自分が信じていない内容を歌うと、ライブでその歌を表現することが難しくなるとも話しています。
だから、技術さえ整えば、どんな曲でも同じように歌えるという考え方にはなりません。
息の配分、体力、ギターとの両立、そして歌詞に向き合う気持ちまでが、一曲の歌い方に関わっています。

年を重ねて、本人が使いたい声の高さも変わってきました。
初期の憧れから、低い声を好んで使うようになるまでの歩みは、マイルズ・ケネディの歌声の変遷でたどれます。

マイルズの高音を聴くと、声の強さに驚きます。
けれども、その歌を一曲、さらに一晩の公演として届けるために、本人は休む場所も、音を変える場所も選んでいました。
派手な一音だけでなく、次の歌まで考えた判断にも、この歌手の経験が表れています。

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