クリス・コーネル(Soundgarden / Audioslave)の歌い方|「Black Hole Sun」は、なぜ美しいメロディなのに不穏なのか

2011年、Ottawa BluesfestでSoundgardenと歌うクリス・コーネル クリス・コーネル
Scott Penner / CC BY-SA 2.0

Soundgardenの「Black Hole Sun」は、サビを覚えやすい曲です。
クリス・コーネルの声は旋律をなめらかにたどり、同じ呼びかけを繰り返します。
ところが、その歌は晴れやかな気分にはなかなか向かわない。
親しみやすいメロディを覚えるほど、どこか不気味な響きも残ります。

コーネルといえば、荒々しく突き抜ける高音の印象が強い歌手でしょう。
けれどこの曲で人を引き込むのは、最初から全力で叫ぶ声ではありません。
落ち着いて歌う部分から、同じ言葉を強く求めるような歌へ進むことで、きれいな旋律の中に不安を感じさせます。

その不穏さは、歌詞の意味を一つに決めなくても伝わります。
コーネルが、メロディと言葉をどう声にしているのかを中心に、この曲を見ていきましょう。

なめらかな歌が、安心できる歌とは限らない

1994年のアルバム『Superunknown』に収められた「Black Hole Sun」。
ゆがんだ日常を描くミュージックビデオも有名ですが、歌そのものにも、穏やかさと不気味さが一緒にあります。

歌い出しのコーネルは、言葉の頭を一つずつ強く叩くようには歌いません。
低めの落ち着いた声で、旋律をつないでいきます。
言葉の一つひとつを激しく訴えるより、奇妙な光景を淡々と語っているようにも感じられる歌です。

サビに入ると、声の伸びやかさが前に出ます。
短く切って次々に言葉を押し出すのではなく、同じ呼びかけを、長く歌える旋律に乗せる。
一度で耳に残りやすく、一緒に歌うこともできそうなメロディです。

それでも、歌い出しにあった不安が、サビで解決するわけではありません。
同じ呼びかけが何度も戻ってくるため、一度願えば済むことではなく、答えがないまま求め続けているようにも響きます。
曲が進んで声に強さが増すと、繰り返しはさらに切実になります。

ここでは、なめらかな声と荒々しい声が、別々の感情を歌っているとは限りません。
最初は抑えていた気持ちが、同じ旋律の中で次第に強く表れる。
高音の迫力は、それまで静かに歌っていた時間とつながっているのです。

本人にも、歌詞の意味を説明しきれなかった

2013年、Soundgardenの公演でのクリス・コーネル
2013年、Soundgardenの公演でのクリス・コーネル。写真:Matthew Straubmuller / CC BY 2.0

「Black Hole Sun」には、題名からして、すぐには姿を思い浮かべにくい言葉が並んでいます。
どんな出来事を描いた歌なのか、一つの物語として読み解こうとすると、途中で分からなくなるかもしれません。
実はコーネル自身も、この曲の歌詞が何を意味するのか、自分でも確信がなかったと話しています。

歌詞の筋道がはっきりしていなくても、歌声から気持ちを感じ取ることはできます。
低く落ち着いた歌から、繰り返す呼びかけへ進む流れを聴けば、言葉をすべて理解する前にも、不安や願いの強さを感じ取れます。

曲が広く受け入れられた理由を聞かれた本人も、メロディの力を挙げています。
サビと言葉が、繰り返し唱えられるものになっていたのではないか、と考えていました。
細かな意味の説明より先に、歌ってみたくなる形があったのです。

歌手が一語ずつ意味を強調する歌い方なら、聴き手も、その言葉が何を指すかを追いやすくなります。
この曲では、コーネルの声が言葉を長い旋律にまとめているため、フレーズ全体の響きが残りやすい。
歌詞の謎を解き終わらなくても、あのサビだけは頭の中で歌えてしまう、という聴き方ができます。

メロディは、帰り道に頭の中でできた

曲の生まれ方も、こうした歌い方とつながっています。
コーネルによれば、題名はテレビのニュースで聞いた言葉の聞き違いから生まれました。
その響きにひかれ、スタジオから車で帰る途中、曲のかなりの部分を頭の中で作ったというのです。

家に着くと、忘れないように旋律を口笛で録音しました。
翌日、実際に演奏できる形へ整え、サビや題名から受ける感じを頼りに歌詞を書いていきます。
先に伝えたい筋書きがあり、それを説明するための曲を付けた、という順序ではありませんでした。

この話を知ると、言葉の意味を区切って追うだけでなく、声がたどるメロディ全体にも耳が向きます。
音が上がり、長く伸び、次の言葉へ続いていく。
口笛でも覚えておけるような旋律を、コーネルの深い声や荒い響きが、あの不穏な歌へ変えているのです。

ただし、メンバーが最初から皆、いつものSoundgardenの曲だと感じたわけではありません。
ギタリストのキム・セイルは、良い曲だとは思っても、従来の自分たちの曲らしくはなかったと振り返っています。
皆でその場で音を合わせて生まれる曲とは違い、コーネルが録音しながら組み立てた性格が強かったのです。

激しい演奏の中から声を突き出すだけでなく、耳に残る歌の旋律を、バンド全体で聴かせる。
「Black Hole Sun」では、コーネルの声の強さに加えて、メロディを長くつないで歌う力も、曲の中心になっています。

伴奏が変わると、同じ言葉も違って聞こえる

2011年、Songbookツアーのビクトリア公演でのクリス・コーネル
2011年、Songbookツアーのビクトリア公演でのクリス・コーネル。写真:Shayne Kaye / CC BY 2.0

コーネルには、自分の曲を別の歌手が歌ったことで、聴き手の反応が変わった経験もありました。
ジョニー・キャッシュが、Soundgardenの「Rusty Cage」をカバーしたときのことです。
その歌を聴いた人たちから、歌詞が良いというメッセージが、コーネルの留守番電話へ届きました。

Soundgardenが発表したときには、そうした連絡は来なかったと本人は振り返っています。
伴奏を変え、キャッシュが歌うことで、聴き手が歌詞に注目するようになったのです。
書いてある言葉が同じでも、その言葉がどれくらい前に聞こえるかは、声と演奏によって変わります。

コーネル自身の弾き語りにも、同じような発見があります。
バンドの大きな音が減れば、声を少し弱めたところや、語尾を伸ばしたところまで聴こえやすくなる。
そこで彼の歌は、高い声で客席を圧倒するだけでなく、一人の歌い手が目の前で歌っている近さを持つようになります。

本人も、アコースティック公演では、音を外したところまで聴こえてしまう一方、観客には自分の感情や人柄が伝わりやすいと話しています。
大きく整った声ばかりでなく、声を弱めたところや小さな揺れまで聴けることも、観客が歌を身近に感じる理由になるのでしょう。

「Black Hole Sun」でも、映像の奇妙さやバンドの重さに気を取られていたところから、歌声へ意識を戻すと、違う部分が浮かびます。
落ち着いて旋律を運ぶ声と、同じ呼びかけを強く繰り返す声。
その変化を追うと、サビの美しさが、不安を消すより深めているようにも聞こえてきます。

バンドの歌から弾き語りへ、こうした歌声の聞こえ方がどう広がったのかは、クリス・コーネルの歌声の変遷でたどっています。

叫びになる前から、すでに引き込まれている

「Black Hole Sun」の歌は、大きな高音が出たところだけを切り取ると、魅力のかなりの部分を失います。
コーネルは、静かに始めた歌を、覚えやすいメロディでつないでいく。
その旋律が繰り返されるうちに、歌の切実さが増していきます。

意味を一つに説明しにくい歌詞でも、その変化は声から受け取れます。
美しいメロディを心地よく歌いながら、安心できない感じを残すことが、この曲の忘れがたさになっているのでしょう。

コーネルの声が好きなら、叫びの強さに驚いたあとで、歌い出しへ戻ってみるのも面白いはずです。
コーネルがまだ強く歌っていない時間にも、聴き手はもう曲の世界へ引き込まれています。

今入れる? 近くで入りやすい飲食店がわかる混雑予報マップ

こちらの記事もおすすめ

コメント

タイトルとURLをコピーしました