スティング(元The Police)の歌声の変遷|鋭い高音から、低い声を楽しむ歌手へ

ポリス時代のスティングを思い浮かべると、まず高い声が浮かぶ人は多いでしょう。
「Roxanne」や「Can’t Stand Losing You」の切迫した歌声は、三人組の演奏の中でも強い印象を残しました。

一方、後年のスティングは、低い声で歌う面白さを語り、昔の曲も、そのときの自分の声で録音し直しています。
若い声を再現することだけが、歌い続ける目的ではなかったようです。
1978年のポリス版「Can’t Stand Losing You」から、2019年に同じ曲を歌い直すまでには、声の使い方を試す長い時間がありました。

ポリス時代、高い声にもざらつきがあった

1978年のデビュー作『Outlandos d’Amour』には、「Roxanne」と「Can’t Stand Losing You」が収められています。
当時のスティングは、澄んだ高音だけで注目された歌手ではありませんでした。
「Roxanne」への当時の評には、鋭い声と、かすれた響きが同居しているという指摘もあります。

1980年のフェニックス公演を取材した記者も、高い音域にハスキーな響きがあり、言葉の終わりで声を上向かせる歌い方を取り上げています。
高さ、ざらつき、語尾の動き。その組み合わせで存在感を出していたことが、同時代の文章から分かります。

だから、後年の声との違いを考えるときも、初期を「ただ高かった」と片づけるともったいないところがあります。
あの高音にも、すでに声の引っかかりや、リズムに合わせた言葉の動きがありました。そのうえで、後にどんな厚みや表情が増えたのかが気になります。

1993年には、録音する側も声の厚みを感じていた

1985年、ノルウェーでのスティング
1985年、ノルウェーでのスティング。写真:Helge Øverås / CC BY-SA 4.0

ソロ活動へ進んだスティングは、1985年の『The Dream of the Blue Turtles』でジャズの演奏家たちと組みました。
本人は、優れた奏者にそれぞれの役割を任せることで、自分は歌と曲作りへ集中できたと説明しています。
ポリスの三人で作る音楽から離れ、歌手として違う伴奏の中に立つ機会が増えたわけです。

その後、1993年の『Ten Summoner’s Tales』を録音したヒュー・パジャムは、初期のポリスに比べて、スティングの声に厚みが出てきたと話しています。
年齢だけでなく、本人が歌う技術を身につけてきたことも理由に挙げていました。

このアルバムに収められたのが「Fields of Gold」です。
大きな出来事を一気に語るより、風景や二人の時間を思い返すようなこの歌では、声の響きを長く味わう余地があります。
初期の勢いを知ったうえで聴くと、同じ歌手が、違う落ち着きで言葉を届ける場を得たことが分かります。

なお、この作品は、バンドと一緒に演奏した録音を生かしながらも、主な歌はほぼ録り直したとパジャムが説明しています。
演奏の一体感を大切にすることと、歌の出来を別に確かめることを、両方行っていたのでした。

古い歌曲で、息を継ぐ場所から考え直す

声の使い方を大きく試した作品が、2006年の『Songs from the Labyrinth』です。
スティングはリュート奏者のエディン・カラマーゾフと組み、16〜17世紀の作曲家ジョン・ダウランドの歌曲に取り組みました。
ロックバンドの大きな音に乗って歌う場面から、弦をはじくリュートと声が向き合う場面へ移ったのです。

とはいえ、オペラ歌手のような声へ変身しようとしたわけではありません。
本人は、曲が変われば歌い方も変わるという考えで、発音や呼吸に向き合いました。声の指導を受け、どこで息を継ぎ、どこでは継がないかといった助言も役立ったと話しています。

「Come Again」も、このアルバムで歌った曲の一つです。
自分が作った旋律なら、歌いやすい形へ直すこともできます。しかし、すでにある歌曲を歌うなら、その言葉と旋律の流れを、自分の息でどうつなぐかを考えることになります。
有名なロック歌手が、歌の基本的な作業へ戻っていくところに、この挑戦の面白さがあります。

低い声や故郷の言葉を、歌の中心にする

2007年、ポリスの再結成公演でのスティング
2007年、ポリスの再結成公演でのスティング。写真:Lionel Urman / CC BY-SA 3.0

2009年の『If on a Winter’s Night…』では、スティングは冬を題材とする歌を選びました。
クリスマスの明るさだけでなく、寒さや暗さも含めた季節の歌です。
この時期の取材では、自分の低い声を楽しんでいると話しています。

そこで役立つのが、マイクとの距離でした。
本人は、マイクを近くに置けば、大声を出さずに低い声を届けられると説明しています。
高音で遠くへ訴えかける歌とは違う、静かに歌うための方法を選んでいたのです。

さらに2013年の『The Last Ship』では、育った街の造船所を背景にした物語へ向かいます。
録音現場の報告では、歌の中に故郷のジョーディー訛りが出ていることも伝えられています。
ジョーディーは、ニューカッスル周辺の英語の話し方です。地元の言葉が分かりにくくならないかと聞かれたスティングは、興味を持ってもらえると考えつつ、用語集が必要かもしれないと冗談を言っていました。

低い声も、故郷の話し方も、歌の題材と結びついています。
故郷の訛りは初期の歌にもありましたが、この作品では、街の物語とともに改めて前面に出てきます。
声が年齢とともに変わるだけでなく、歌う題材を変えることでも、もともと持っていた響きや話し方を生かす機会が増えていたのでした。

2019年、昔の曲を今の声で歌い直す

2019年の『My Songs』で、スティングはポリス時代とソロ時代の曲を録音し直したり、伴奏を作り替えたりしています。
本人が気に入っていたのは、25歳の頃より声の響きが複雑になり、豊かさが増したことでした。
若い頃のまっすぐな響きだけを、理想にしていたわけではありません。

その考えを同じ曲で確かめられるのが、「Can’t Stand Losing You」です。
冒頭の1978年のポリス版に対し、こちらは2019年の『My Songs』に収められたスタジオ再録です。
制作を担当したマーティン・キーゼンバウムによれば、ナッシュビルのスタジオで、ツアーを共にしたメンバーと一緒に演奏し、スティングもベースを弾きながら歌いました。

比較するときに面白いのは、同じ切実な歌を、長年歌ってきた人がどう語るかという点です。
歌い出しの言葉をどう運ぶか、サビの繰り返しをどう強めるか。同じ旋律でも、声の響きだけでなく、言葉への力のかけ方に目を向けられます。
ただし、バンドも録音方法も違うので、聞こえ方の違いをすべて声の年齢のせいにすることはできません。

ベースを弾きながら歌うとき、演奏に歌を引っ張らせない工夫については、スティングの歌い方で詳しく扱っています。
再録でも続けているこの演奏方法は、声色が変わっても残る、スティングらしさの一つです。

変わった声に、次の役目を見つけてきた

スティングの歌声は、ポリス時代の鋭い高音から、厚みのあるソロの声へ変わっていきました。
さらに古い歌曲では息と言葉のつなぎ方を学び、冬の歌では低い声を使い、故郷の物語では土地の話し方を生かしています。

その歩みを経て昔の曲へ戻った『My Songs』は、若い自分の声をそのまま復元する作品ではありませんでした。
今の声に感じる良さを、よく知っている歌へ持ち込む試みです。
初期の高音が好きな人には初期の録音があり、後年の響きを楽しみたい人には歌い直した録音がある。同じ曲を歌い続けてきたからこそ、スティングの声には、聴く時代を選ぶ楽しさも生まれています。

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