ロバート・プラント(Led Zeppelin)の歌声の変遷|あの高音の先で、ハーモニーを学ぶまで

2022年、グラストンベリー公演でのロバート・プラント シンガー
Raph_PH / CC BY 2.0

レッド・ツェッペリンの歌手として世界中に知られたロバート・プラントが、別の歌手と声を合わせる方法を学ぶ。
アリソン・クラウスとの共演には、そんな意外な一面があります。
長く歌ってきた人でも、新しい相手と歌えば、まだ慣れていないことがあったのです。

この歩みを、若い頃の高音が落ち着いた声になった、とだけ考えると、大切な部分が抜け落ちます。
プラントは、ソロで作る音楽を変え、共演者を変えながら、声に求める役割も変えてきました。
1970年代のツェッペリンから、1980年代のソロ、クラウスとの二作品、2025年の『Saving Grace』まで、その変化をたどります。

1969〜1970年代、歌が楽器と張り合っていた

1969年のデビュー作から、ツェッペリンでは声と演奏が激しくぶつかり合っていました。
同年の2作目に入った「Whole Lotta Love」では、繰り返される強いギターのフレーズに、プラントの叫びに近い声が加わります。
1970年の「Immigrant Song」では、歌詞のない高い声そのものが、曲の強烈な目印になりました。

1971年の「Black Dog」は、声がひと節を歌い、バンドがリフで答える曲です。
伴奏のないところでも、プラントの声には曲を引っ張るだけの勢いがある。
この時期の歌を思い出すとき、きれいな旋律以上に、声が飛び出してくる感覚を覚えている人も多いでしょう。

ただ、初期から常に強く歌っていたわけではありません。
「Going to California」ではアコースティックな演奏の中に歌を置き、「Stairway to Heaven」では静かな歌い出しから、終盤の激しい歌へ進んでいきます。
一枚の『Led Zeppelin IV』の中にも、声を大きく張る以外の表情はすでにありました。

後年の静かな歌を、若い頃には持っていなかった歌い方と考える必要はありません。
むしろ、早くからあった幅の中で、どの歌い方を作品の中心にするかが変わっていった、と見るほうが自然です。
「Black Dog」で声と演奏がどう掛け合うかは、ロバート・プラントの歌い方で詳しく扱っています。

1983年、音を詰め込まずに歌う「Big Log」

1980年、ドラマーのジョン・ボーナムの死を受けてツェッペリンは活動を終えます。
プラントは1982年に『Pictures at Eleven』、翌1983年に『The Principle of Moments』を発表しました。
後者に収められた「Big Log」では、ギターと歌の関係も、ツェッペリンの激しい曲とは違ってきます。

ここでは、一定のリズムが続く中を、歌とギターがそれぞれゆっくり進んでいきます。
プラントは言葉を急いで畳みかけず、長く伸ばした声の響きを残す。
「Black Dog」で声が終わるたびに演奏が勢いよく返ってきたのとは違い、歌もギターも、一つの落ち着いた流れの中にあります。

このアルバムについて本人は、音楽全体にもっと余白や明るさを作ろうとした、と説明しています。
しかも、音を大量に重ねるより、必要なものだけを残して控えめに表すほうが難しかったというのです。
静かに聞こえる仕上がりの裏で、どこまで音を減らして成立させるかを考えていました。

歌い終わった声の響きや、次の言葉までの間にも耳が向くのは、この音数の少なさがあるからです。
若い頃の声と比べる前に、歌の周りで鳴っている音と、その密度が変わったことに気づく一曲です。

1988年、ツェッペリンを避けるだけではなくなった

ソロを始めた頃のプラントには、ツェッペリンの印象から離れたい気持ちがありました。
けれど1988年の『Now and Zen』の頃には、昔の曲も再び自分のものとして歌えるようになっていたと話しています。
過去を避け続けることだけが、ソロ活動の目的ではなくなったのです。

この時期、本人が関心を寄せていたのは、ヤズー、デペッシュ・モード、ニュー・オーダーなど、シンセサイザーを前に出した音楽でした。
自分の声にもディレイを使い、少し遅れて返ってくる声を含めて、歌の響きを作っていました。
声を加工せずに大きく出すことだけに、こだわっていたわけではありません。

こうした変化を、ツェッペリンらしいか、らしくないかだけで聴くと、どちらにも落ち着かないかもしれません。
あの声だと分かる特徴を残したまま、シンセサイザーやディレイの響きと合わせて歌う。
ソロでは、歌声だけでなく、その声をどう録音し、どんな音と組み合わせるかも変化していました。

2007年、一人で飛び出す声から、二人で重なる声へ

2007年、Green Man Festivalでのロバート・プラント
2007年、Green Man Festivalでのロバート・プラント。写真:Ella Mullins / CC BY 2.0

2007年、プラントはアリソン・クラウスと『Raising Sand』を発表します。
クラウスは、ブルーグラスやカントリーの世界で、精密なハーモニーを歌ってきた人です。
プラントは以前から、彼女の「Down to the River to Pray」などの歌にひかれていました。

エヴァリー・ブラザーズの曲を取り上げた「Gone Gone Gone」では、二人の声が重なって、軽快な歌を進めます。
プラントが大きな声で先頭に立ち、クラウスが後ろから飾るだけの組み合わせではありません。
二つの声が一緒に動くこと自体が、この曲の楽しさになっています。

ただ、二人が最初から同じ感覚で歌っていたわけではありません。
クラウスは、ハーモニーの各パートを練習し、細かな形をそろえる音楽に慣れていました。
一方のプラントは、その場で歌い回しを変えることを楽しんできた人です。

プラントは、クラウスとの共演で、別の声に自分の声をどう合わせるかを学びました。
いつもの勢いで歌えば、そのまま二人のハーモニーになるわけではない。
相手が歌う音や言葉の長さを聴き、それに重なる音を、長さも合わせて歌う必要があったのです。

この変化は、声を小さくした、と言うだけでは伝わりません。
「Black Dog」では声と楽器が交互に主役になりましたが、ここでは二人が同時に歌い、重なった響きで曲を作る。
プラントの声に求められる仕事が変わったのです。

2021年、細かく合わせても、予測できない歌は残る

二人の次のアルバム『Raise the Roof』が出たのは、2021年でした。
プロデューサーのTボーン・バーネットも含めた三人で曲を選び、歌ってみながら形を探しています。
曲を選ぶ時点で、どちらが主に歌うのかまで決まっているとは限りませんでした。

クラウスはプラントとの仕事について、次に何が起こるかがあらかじめ分からない面白さを話しています。
二人の声をそろえるために、プラントが自由な歌い方を全部やめたわけではなかったのです。
彼女もまた、決めた通りに歌うことから離れ、その場の変化を受け入れていました。

声が自然に重なって聞こえると、二人は似た歌い方なのだと思ってしまいそうです。
実際には、違う音楽で育った二人が、相手の歌に慣れながら作ってきた響きでした。
長い経験を持つ歌手同士でも、共演によって歌い方は動いていきます。

2025年、Saving Graceで身近な仲間と歌う

2025年、Festival de Poupetでのロバート・プラントとSaving Grace
2025年、Festival de Poupetでのロバート・プラントとSaving Grace。写真:Tilly antoine / CC BY-SA 4.0

2025年の『Saving Grace』では、スージー・ディアンという別の女性歌手が、プラントと声を重ねています。
このバンドには、ギターやバンジョー、ドラム、チェロの奏者が加わります。
イングランドの身近な音楽家たちと活動を重ね、録音は2019年から2025年にわたりました。

モビー・グレイプの「It’s a Beautiful Day Today」は、このアルバムで取り上げられた曲の一つです。
ゆったりした歌の中で、プラントの声に別の声が加わると、一人の歌が二人の響きへ広がります。
強い声が伴奏を圧倒する場面を待つより、歌声が重なったときの温かさを楽しみたくなる曲です。

録音の仕方にも、このバンドならではの話があります。
プラントによれば、収録曲「Gospel Plough」は屋外で演奏し、畑に立てたマイクから家の中の録音機材へケーブルを延ばして録ったそうです。
大きなスタジオへ集まる方法だけでなく、仲間と演奏できる場所を使って、少しずつ音楽を形にしていました。

この時期の本人は、別の誰かのような声を目指すより、自分の歌に自分自身の感受性や人柄を持ち込むことを話しています。
若い頃のプラントにどれだけ近いかを証明するために歌う必要はない。
目の前の仲間と、今の自分が歌いたい曲を歌うことが、活動の中心にあります。

高音の先には、違う相手と歌う楽しさがあった

ツェッペリンの頃、プラントの声はギターやドラムと張り合い、曲の勢いを一緒に作っていました。
ソロの「Big Log」では、歌の周りの音を減らし、伸ばした声や余韻を聴かせる。
クラウスとの共演では、別の歌声と同時に重なるための細かさが加わりました。

Saving Graceでも、声は新しい仲間の演奏と響き合っています。
こうして並べると、プラントの歩みは、かつて出た高い音から少しずつ離れていく一本道には見えません。
声の力をどこで使うか、誰とどう歌うかを、その都度変えてきた歴史です。

若い頃の鋭い声が好きなら、その印象を持ったまま「Gone Gone Gone」や「It’s a Beautiful Day Today」へ進むのも楽しいでしょう。
あれほど一人で存在感を放っていた人が、別の声と重なったときに、また違う魅力を聴かせる。
長い経歴のあとにも、相手の声を聴いて歌い方を学ぶ場面があることが、プラントの歩みをいっそう興味深くしています。

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